第33話 孤児院襲撃事件の黒幕
「レイシャ!」
「マリアーヌ先生! 子供たちは無事です!」
フレイムイーターを倒した後、俺たちは炎に包まれた建物から元いた庭へと脱出する。
幸い子供たちも全員軽症で、軽い火傷を負った子供がいたくらいだった。
「メイアにテティもよくやってくれたな」
「いえいえ、何のあれしき。アデル様の方は大変だったようですが。……いや、アデル様にとってはS級モンスターなんて朝飯前ですかね」
「え……、そうなの?」
「そうですよテティちゃん。アデル様はその更に上のSS級モンスターも余裕で倒したことありますから」
「へ、へえ……。何だか、もうあんまり驚かないや」
俺はメイアやテティと合流し、フレイムイーターが火災の原因であったことや、討伐に成功したという経緯を共有する。
離れた所では救出した子供たちがいて、それからレイシャがマリアーヌに報告をしているようだ。遠目には騒ぎを聞きつけた周囲の住人であろう人たちも見て取れた。
「全員、無事……?」
「はい、マリアーヌ先生。建物の中には火を操るモンスターがいて、それが火災の原因だったみたいなの」
「……そのモンスターは、どうしたんだい?」
「あそこにいる彼が倒してくれました」
「倒しただって……?」
俺はその様子をみて違和感を覚える。
――マリアーヌ院長のあの反応。安堵というよりも、予想外だとでもいうような……。予想外? 何に対してだ?
俺が思考を重ねていると、メイアが声をかけてくる。
「アデル様? どうかしました?」
「……ああ、いや」
レイシャは、盗みを働いてまで孤児院に金を入れなければならなかった。
俺が情報屋のフランを通じて孤児院に資金を援助していたことを考えれば、生活が困窮するほどのことにはならないはずなのに。
そしてあの、どこから現れたか分からないフレイムイーター。
……。
接している様子からすると、レイシャはマリアーヌ院長のことを信頼しているようだ。
しかし、確かめてみる必要がある。
――違っていたら、すまない。
俺は心の中で呟き、マリアーヌ院長の執行係数を測った。
====================
対象:マリアーヌ・レンツェル
執行係数:302,738ポイント
====================
「…………」
測った対象が働いてきた悪行の分だけ高くなる執行係数。
マリアーヌ院長のその数値は、異常な値を示していた。
「メイア、テティ。耳を貸してくれ」
「「え……?」」
俺は二人にその事実を告げる。
二人は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに状況を察し平常心を装っているようだった。
「ということは、アデル様が戦ったというフレイムイーターもあの人が……?」
「それは分からない。しかし、関わっている可能性は高いと思う」
「どうしますか、アデル様?」
「ちょっと確かめてくる。二人は子供たちの方を頼む。もしあの院長が黒幕だとしたら、子供たちにはあまり見せない方が良いだろうからな」
「分かりました。そちらの方はアデル様にお任せします」
執行係数の高さと先程の反応から見て、恐らく孤児院に火を放ったのはあのマリアーヌ院長だ。
しかし、分からないことがある。
――なぜ、そんなことをする?
二年前、俺が孤児院を視察した時にもあのマリアーヌ院長はいた。
いや、もっと以前からこの孤児院の院長を務めていたはずだ。
もし仮に火を放ったのがマリアーヌ院長だとするならば、なぜ今になって子供たちを手に掛けようとするのか。
俺は思考を巡らせながら、マリアーヌ院長の元へと近づく。
「失礼します。マリアーヌ院長、少しよろしいですか?」
「……。おお、あなたが子供たちを救ってくださったのですね。何と礼を申し上げてよいか……」
「いえ、当然のことをしたまでです。……それより、子供たちの中には怪我や火傷を負った子もいるようだ。治療は私の付き添いの二人に任せようと思います。それから――」
「それから?」
「それから、あなたと少し話がしたい。レイシャ、君も来てくれ」
「え、ええ……」
言って、俺は孤児院から少し離れた場所へとマリアーヌ院長を誘導する。
これで子供たちに見られることはないだろう。
「あ、あのっ――!」
「ん?」
孤児院から離れ、裏路地に着いたところでレイシャから声をかけられた。
レイシャは俺に向けて勢いよく頭を下げる。
「本当にありがとう。あの子たちを救ってくれて、感謝してもしきれないわ」
「私からも改めて礼を申し上げます。どなたか存じませんが、本当にありがとうございました」
続いてマリアーヌ院長が頭を下げる。
もしこれが演技だとしたら大したものだと、そう思えた。
「マリアーヌ院長、聞きたいことがあります」
「はい、何でしょう?」
「そこにいるレイシャが届けるのとは別に、孤児院に届けている金があることを俺は知っています。そのお金、どこへいきました?」
「――っ!?」
突然告げられた事実に上手く反応できなかったのか、マリアーヌ院長は動揺を隠せなかったようだ。顔を伏せたままで腕を震わせている。
「ど、どういうこと?」
「レイシャ。君は自分が金を入れなければ孤児院の皆が生活していけなくなると、そう言っていたな」
「え、ええ」
「それ、おかしいんだよ。あの孤児院には他から金が届けられているはずなんだ。正確には、そこにいるマリアーヌ院長の元にな」
「そ、そんなはずないわ! だってマリアーヌ院長は子供たちを育てる金が足りないって、いつもそう言って……」
「だ、そうですが? マリアーヌ院長」
俺は頭を下げたままでいるマリアーヌ院長に向けて話を振る。
「な、何のことだか……。孤児院には本当に金が無くて、いつもレイシャが届けてくれるお金に頼るしかない状況なのです。誰かからお金が届けられているなんて、そんな事実はありません」
「そうですか」
あくまでその件についてはしらを切るつもりらしい。
しかし、疑念を確信するに十分な反応だった。
金を受け取っていないというのは明らかに嘘なのだから。
「話は変わりますが、マリアーヌ院長。あなたのジョブ能力を見せてくれませんか?」
「じ、ジョブ能力?」
「はい。あの建物の中にいたフレイムイーターというモンスターは自然発生したものではありませんでした。俺の見立てでは、召喚系のジョブを持った者の仕業だと思います」
「……」
「正直に言うと、俺はあなたを疑っています。だから、ジョブ能力を見せてもらいたい。あなたのジョブが、召喚系のジョブではないと、証明してもらいたい」
マリアーヌ院長は顔を伏せたままで、その表情は見えない。
が、やがて低い声が漏れ出す。
「く、くく……。本当に、余計なことを。もう少しで計画が上手くいったというのに」
「マリアーヌ先生……?」
レイシャが声をかけ、その隣でマリアーヌ院長が顔を上げる。
その顔に張り付いていたのは邪悪な、とても邪悪な笑みだった。
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