第31話 指定S級モンスターの討伐


「マリアーヌ先生っ!」

「レイシャ! 戻ってきたのかい!?」


 燃え盛る孤児院の庭先に到着してすぐ、レイシャが初老の女性の元へと駆け寄る。

 確か、レイシャが金を渡していた孤児院の院長だ。


 マリアーヌと呼ばれたその婦人は一人の男の子を抱きしめていた。


「うぇええええん! レイシャお姉ちゃん!」

「ああミーク。無事だったのね」

「うん、マリアーヌ先生が連れ出してくれて……」

「そう……。先生、他の子たちは――」

「それが、まだ中に……」


 言って、マリアーヌ院長は孤児院の建物を指差す。

 外から見る限りでも相当に火が回っている様子だ。


 しかし、そんなものは構わないというように、レイシャは孤児院の方に駆け出そうとする。


「おやめ、レイシャ! あんな火に包まれている建物の中に入るなんて、自殺行為だよ!」

「でも! でも……!」


 俺はメイアとテティに目配せして、レイシャに問いかける。


「レイシャ、中にいる子供は何人だ?」

「ミークがここにいるから、五人……。って、ちょっと何する気!? あなたには関係ないはずじゃ――」

「関係ならある。二年前、俺はこの孤児院を救うと約束した」

「え……?」


 なぜ孤児院が火事になっているのかという考察は後だ。

 今はまず残された子供たちの救出を最優先に考える。


 俺はメイア、テティと共に炎燃え盛る孤児院に足を踏み入れた。


   ***


「アデル! こっちに一人いたよ!」

「アデル様、私の方でも一人保護しました!」


 炎に囲まれた建物の中に入り、俺たちは素早く探索していく。


 流石に二人とも強力なジョブ能力の持ち主だ。

 メイアは【アサシン】のジョブ能力で炎や崩れた瓦礫を軽快に躱し、テティは【神狼ヴァナルガンド】のジョブで銀の光を纏っているおかげか炎の影響をほとんど受けていないようだ。


 これで残された子供はあと三人。


 煙も充満し、したたる汗がすぐさま蒸発してしまうほど熱気に満ちた空間だ。

 早く子供たちを見つけなければ手遅れになってしまうかもしれない。


「待って……! 私も一緒に行くわ!」


 かけられた声に振り返ると、そこにはレイシャがいた。

 赤く綺麗な髪は所々が焼け焦げていて、しかしレイシャは気にする素振りも見せずに駆けてくる。


 残された子供たちを救おうと、ただそれだけを考えているようだ。


「分かった。二階は他の二人に任せている。レイシャは俺と一階を探そう」

「……ええ」


 俺とレイシャは各部屋を探し回り、そして見つける。


「あ、あれは――」

「こいつが火災の発生原因か」


 建物の一番奥にいたのは泣き叫ぶ三人の子供と、その前に立ちはだかる《炎の魔獣》だった。


 ――グガァアアアアアアアア!!


 その魔獣は天井に頭が触れるかというほど巨大な獣型で、ウルフ種のような出で立ちをしていた。

 異なるのは、毛皮の代わりに炎を纏っている点。


「あれはまさか、《フレイムイーター》!? どうしてこんな所にいるの……!」


 炎を主食とし、取り込んだ炎を外敵に射出して攻撃する危険なモンスターだ。

 冒険者協会が指定するモンスターランクも《A級》に区分され、単独では絶対に交戦しないことを推奨されている。


 このフレイムイーターが暴れまわっていたということであれば突発的な火災の発生も頷けるのだが……。


 ただ、不可解な点もあった。


 指定A級とされるフレイムイーターといえど、これほどまでに巨大な体躯を持った個体は見たことも聞いたこともない。

 モンスターランクで表せば指定S級に相当するだろう。


 それに、もう一つ分からないことがある。


 フレイムイーターは火山が活発なメルボルン地方にしか存在しないモンスターだ。

 その場所はここ王都リデイルからは遠く離れ、野良がまぎれたということも考え難いのだが……。

 そもそもこれだけ巨大なモンスターがどこからこの建物に入り込んだというのか。


 ――グルガァ!!


 フレイムイーターは俺の思考を遮るようにして、短く咆哮を浴びせてきた。

 どうやら食事の邪魔をされて憤慨しているらしい。


「待っていて、みんな! 今助けるわ!」


 レイシャが怯える三人の子供に向けて声を張り上げる。

 それは叫びにも似た声で、絶対に子供たちを死なせないという強い意志を感じさせるものだった。


 ――やっぱり単なる窃盗犯じゃないな。


 俺はレイシャと頷き合い、炎を纏う魔獣と対峙した。

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