第11話 執行人は神様?


「何だって!? 黒衣の執行人が……!?」

「はい。これはあの人がローエンタール商会から取り返してくれたお金です。皆さんの元にあるべきものだから、って」


 ローエンタール商会が壊滅した翌日。

 マリーがローエンタール商会から取り返した金を王都の商人に配り回っていた。


「じ、じゃあ、もうヤツらに怯えなくていいのか?」

「はい。黒衣の執行人さんがローエンタール商会の長に《誓約》させたから、もう心配ないと」


「あなた!」「お父さん!」

「あぁ……!」


 マリーが話しかけた商人の男は、隣にいた妻と娘だろう人物を泣きながら抱きしめていた。


「良かったですね、アデル様」

「ああ」


 俺と共に物陰からその様子を見ていたメイアが満面の笑みを向けてくる。

 何はともあれ一件落着だ。


 商人と話を終えたマリーが嬉しそうにこちらへと駆けてくる。


「アデルさん」

「お疲れ。今ので最後か?」

「はい。皆さん、とても感謝されていました。黒衣の執行人は神様だって」

「それは大げさだな」


 過剰な称賛に苦笑する。

 俺はあるべき形に戻す手伝いをしただけだというのに。


「アデルさん。私からも本当にありがとうございました。あんな無茶なお願いを聞いてくださって」

「マリーが気にする必要はない。俺は理不尽を振りまく連中が嫌いなだけだ」

「ふふ。やっぱりアデル様は素直じゃないです。でもマリーさん、良かったですね」

「本当に、アデルさんのおかげです。これで母から受け継いだお店を続けていくことができます」


 マリーは両手を胸の前で合わせると、花の咲くような笑顔を浮かべていた。

 そして、何故か俺から視線を外して呟く。


「あ、あの、アデルさん」

「ん?」

「今度、アデルさんのお店に行っても良いですか?」

「そういえば今回の報酬はマリーの店の花をもらうことだったな。ぜひよろしく頼む」

「い、いえ、その件ではなくてですね……」


 マリーは何やら落ち着かない様子で自分の黒髪をいじっている。

 心なしか顔が紅潮しているようだが……。


「なるほど、酒場の飯を食べてみたいのか。もちろんオーケーだ。ほら、食事券をやろう」

「え? あ、ありがとうございます。って、そうでもなくて……」


 マリーはメイアに救いを求めるような顔を向け、メイアはといえばとても悲しそうな表情を浮かべてそれに応じていた。

 一体なんだろうか?


 その後、マリーの見送りを受けて俺はメイアと帰路につく。


「アデル様、ああいうところは鈍いんですね。まあ知ってましたけど」

「何のことだ?」


 俺がそういうと、メイアはわざとらしく嘆息した。


「その方が私は助かりますが。いや、私にとってもそれはそれでマズいというか……」


 メイアは先程のマリーのように独り言を呟いている。

 わけが分からん。


 そうしてメイアと並んで歩く途中、俺は林檎をかじりながら青白い文字列の内容を確認する。


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ワイズ・ローエンタールの執行完了を確認しました。

執行係数6,238ポイントを加算します。

累計執行係数:105,307ポイント

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 あのヒョロガリ商会長、ワイズって名前だったんだなと、そんなどうでもいいことを考えながら俺は酒場への道を歩くのだった。

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