蛇足

 *


 霞ヶ関のことを解決したからか、夢の世界に入らないという選択もできたが、俺はもう一度、夢の中に入った。

「あら、また来たんだね。お兄ちゃん」

 いつものように夢カレンが俺の部屋に居て、手を上げて俺に挨拶した。

 おれがもう一度夢の中に入ったのは、彼女に言うべきことがあるからだった。

「なあ、そろそろ止めないか?」

 偽物はきょとんとした顔をする。

「なにを?」

 まだとぼけるつもりらしい。

「俺は大滝カレン以外の兄になったつもりはない」

 すると偽物はにやりと笑い、

「ばれちゃったか」

 と言った。

「見た目だけで俺を騙せると思うなよ」

 俺は目の前にいる、カレンが本物ではないことを何となく察していた。最初の方は小学生のカレンが久しぶりで、まんまと騙されていたが、回を重ねるごとに、記憶の中のカレンと乖離が生じていた。要は、ぼろが出ていた。

 最後の方は雰囲気が完全に違った。もしかしたら夢の中のカレンはカレンではないのかもしれない。そう思い、鎌をかけてみた。

「騙したなんて人聞きの悪い。私は自分が大滝カレンだなんて一言も言ってないよ」

「一人称がカレンだっただろうが」

「何言っておる、花蓮(かれん)は私の本名じゃよ」

 口調が変わり、彼女のカレンとの共通点は見た目だけとなった。

「へえ、じゃあフルネームはなんていうんだ?」

 見た目が小学生の時のカレンとは思えないほど、荘厳な声で言った。

「儂は夢見花蓮(ゆめみかれん)、この島で祭られている神だ」

「そうか、あんたが夢見様だったのか」

「ああ、いかにも」

「なんでカレンに似てるんだ?」

「儂が聞きたいくらいじゃ。なぜうぬの妹は儂とここまで瓜二つなんだ?」

 似ていたのは妹の方らしい。

「それになぜか、うぬの妹は儂と一方的に心が繋がっておる」

「心が繋がってる? ああ、そうか。妹でもないあんたと話をして、本物の妹と仲直り出来たのか」

「それもあるだろうが、うぬと妹は元からそこまで仲も悪く無かろう。おぬしら、傍から見れば、普通に仲が良い兄と妹じゃぞ。あれをさらに仲直りなんてできんわ。もう治っとるもん。ただお前がさらに妹と仲良くしたいと言うから、本人に代わって儂が少しアドバイスしただけじゃ。心が繋がっておるから、してほしいことやってほしいことが筒抜けじゃったし、せっかくだから伝えてやった」

「よくわからんが……ありがとな」

「礼には及ばないがな。……代わりに一つ、頼みごとをしてもいいか?」

 夢見様は上目遣いで言った。たとえ偽物でも妹の上目遣いは効いた。

「なんだよ神様」

 上目遣いをされたからだけではなく、彼女には、助言を貰ったり今回かなりお世話になったので、頼み事くらい聞くべきだと思ったのだ。

「この世界には誰しもが簡単に来れると言った旨の内容を話したと思う。あれは嘘だ。誰しもが来れるわけではないし、来れるとしても能力に気付くまで来ない。それに二十を超えたら大抵の人間はこの世界に入れなくなる。じゃから幹人の坊主もあまり会えなくてのう」

 夢の世界に入れたという人の話がやけに過去形だったのはそういうことか。

「じゃから、たまにでいい。儂に会いに来てくれんか?」

 神様の願い事だなんて、何が飛び出してくるのかと思ったが、たったそれだけのことだった。

「俺でよければ」

「そうか。ありがとう」

 神様は頭を下げてお礼した。

 こんなことは礼には及ばない。

 だから俺は神様に関わることになった。


 ということで、俺の奇妙な物語はもう少し続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

注釈だけが、透き通る。 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ