9
目覚めると夢見神社の中にいた。そういえば初めて能力を手に入れた時の夢も夢見神社で目覚めたなあとまったり思う。なぜ俺がこんなに気持ちに余裕を持って気絶から目覚められるのかというと、いつもこうだからだ。
俺はいつも幽子さんと会うと、こうやって出合い頭に飛び蹴りを食らって気絶させられるのでもう気絶するのは慣れっこだ。
「あ、やっと起きた! 遅いよエイジ君」
見た目と態度だけじゃ十代にしか見えない三十代がまるで蹴りを入れたことより俺が早く起きなかったことが悪いみたいに言ってきた。
「エイジ君が起きるの遅いから私たんこぶ出来ちゃったよ」
と言って幽子さんは頭を指さす。そこにはたんこぶが出来ていた。これも毎度のことだが、俺を気絶させるたびに幽子さんは茜にしばかれる。
茜は俺の上でガッツポーズをしていた。俺は親指を立てて応答した。
なぜ茜が俺の上にいるかというと、これも毎度のことなのだが俺が気絶する度に膝枕をしてくれる。あざと可愛い優しさだ。膝枕してくれるなら気絶するのも悪くないかなあなんて……さすがに思わないけど、でも当然のようにこうしてくれるのはちょっと嬉しい。
「んで」
幽子さんが俺に手を差し出し、俺はその手を使って起き上がった。
「何しに来たの? お二人さんは」
俺が村瀬さんとほぼ同じ能力を持っていることと、霞ヶ関が夢牢病に罹ったことを話した。
「それでその能力に詳しい私を訪ねてきたってことかー。うむ、よろしい。私が解説しよう」
「話が早くて助かります。出合い頭に俺に飛び蹴りするのを止めてくれたらもっと助かります」
「ごめんね! 無理!」
即座に断られた。
「なんでですか。蹴られるのは慣れてますけど痛いんですよ」
「じゃあかわせばいいじゃん。来る方向もわかってるんだし、なんだかんだ言ってエムだよねエイジ君」
「いい加減にしろ三十路ババアぶっ〇すぞ」
「ごめんごめん、でも君に変人ムーブかましてると幹人が心配してすぐ帰ってくるんだよね!」
「離婚届叩きつけられても知りませんよ……」
「だいじょーぶだいじょーぶ、付き合う前から幹人の前でこんな感じだったから」
幽子さんは俺だけにこの変人っぷりを出してくる。俺以外にはしてこない。だから周りからは村瀬幹人の美人妻と評されている。
なぜ俺の前だけこんな変人を出してくるかというと、俺が村瀬さんの知り合いで俺が高校生の頃の村瀬さんに似ているらしい。
「そろそろ本題に入ろうか、夢の能力についてだね?」
「あ、はい。そうです」
やった本題に入ってくれるようだ。
「まず
夢の能力って夢力っていう正式名称があるのか。
「ちなみにこれから話す際、長いから夢の能力を夢力って訳すけど別に正式名称とかじゃないからね? むしろ正式名称を言うと大分長いんだよね」
正式名称じゃないのかい。まあなんでもいいけどさ。
「まずエイジ君は夢力についてどこまで知ってるのかな? とりあえず夢の中でできることを簡単に話してみて」
「夢の中に入って他人と話ができたり、料理なんかもできます」
「なるほどなるほど……ちゃんと使えてるみたいだね。夢の世界に適正がないと夢の中に入るだけならできてもその中で話が出来ない上に存在に気付かれないから、料理が出来るエイジ君は大分適性があるんだろうね」
「適性がない人はどうすれば適性をつけることが出来るんですか?」
なぜか茜が聞いた。茜のことだし、どうにかして能力の適性をつけて俺の手伝いをしようと思っているのかもしれない。
「う~ん、夢の世界に入り続ければ自然と適性は付くと思うけど……期待はしない方がいいかな。私も幹人も他の皆も元から適正合ったからわからない」
「いやちょっと待って下さい。もしかして幽子さんも夢の世界に入れるんですか?」
「え? うん。だからこうやって色々話せるんだよ? 幹人から聞いてない?」
幽子さんはぽかんとした顔で首を傾ける。
「聞いてないですけど……もしかして俺たちみたいに夢力を使える人って結構いるんですか?」
「めっちゃいる。今東京にいる駄菓子屋の娘さんも使えたよ」
「マジっすか……」
そんなに使えちゃ特殊じゃないな。
特殊能力をもう名乗れないぞ。名乗ったことないけど。
「話を夢力に戻すね。エイジ君みたいなタイプだと夢の中に全然人がいないんじゃないのかな」
「そうです。ほとんどいませんでした」
「うん、そうだよね。じゃあエイジ君の夢力は探偵タイプだ」
「探偵……タイプ? 他に種類があるんですか」
「あるよ、私は軍人タイプだったよ」
物騒だなおい。
人物を表してんじゃねえか?
「ちなみに幹人が探偵と軍人の両方を併せ持つ万能の神タイプ」
やっぱり。
絶対人物を表してる。
「軍人と探偵だと探偵タイプが珍しいかな。割合で言うと十対一くらい」
「じゃあ俺は珍しい方なんですね」
「別に君自身が珍しいってわけじゃないよ。その場に求められた能力が最もその状況に適した人が選ばれるってだけだからね」
「さようですか」
特別だと思ってた自分が恥ずかしい。
「君の夢力、探偵タイプについて説明するね。探偵タイプは人間関係を修復したり、心を病んでる人を助けることが出来るよ」
村瀬さんが今やってるみたいなことか。
「夢の世界の中では探偵タイプの人の前で嘘がつけないよ。必要な本音を夢で聞いて現実で夢の中の言葉を参考にしつつ現実でアクションして心を絆していく感じかな」
「嘘がつけない……」
夢カレンも言ってたな。
「誰かと話せてるって言ってたし、もう能力を使って何かを解決したりしたんじゃないかな?」
「鋭いですね、茜と探偵タイプの夢力のおかげで妹と和解できました」
「うん、でもそれだけじゃないんでしょ?」
「はい。友人が夢牢病になってしまって、村瀬さんでも治せないそうです」
そう言った途端、幽子さんは顔を曇らせた。
「……え、マジ?」
「はい」
「それは大分まずいな……」
「ああ、でも俺はその友人と夢で逢えたんですよ」
今日の夢では会えなかったが、昨日の夢では会えた。すぐに夢は冷めたが、追い出された感じもしなかった。
幽子さんが思ったより頭を抱えてしまったので慌ててそう言ったが、それでも幽子さんの顔は曇ったままだ。
「いやそれでもまずい。幹人の、あの異常に高い適性でも入れないなんて……それなのにエイジ君が入れた、ということはもしかして……そのお友達は、エイジ君と二人きりになりたい?」
「ええっ?」
茜が声を上げた。
「なに? お友達って女の子なの? 全く、エイジ君は隅に置けないなーひぃーひぃーふぅー」
「ひゅーひゅーとか言って冷やかすのはわかるんですけど、なんすかひぃひぃふぅて、出産してるじゃないですか」
「うわああああああああああああああ! エイジが私以外の女を抱いたああああああああああ!」
まずい。茜のヒステリックだ。
ほんと意味わからないところで叫ばないでくれよ。なあ幽子さん。
幽子さんの方を向いた。
「え? え、なに? ええぇ」
茜のヒステリックに引いてやがる。変人の癖に。
この戸惑い様、幽子さんは茜ヒステリックを始めてみたようだ。
「すいません、茜がヒステリック出ちゃったんで今日はもう帰らせていただきます。色々教えてくれてありがとうございました」
俺は茜をおぶりながら幽子さんにそう挨拶した。
「え? え、あ、うん」
あまりに慣れすぎてる俺にも少し引きながら、幽子さんは頷いた。
ぐずった茜に靴を履かせ、自分も靴を履き、神社を出ようとした時、
「あ、ちょっと待って!」
と幽子さんに引き留められた。
俺に近づいて耳元で囁く。
「こういう、一人以外寄せ付けないってケースが前もあったんだけど」
一泊置いて、一息吐いて、幽子さんは言う。
「その時は、呼んだ一人を殺害する目的だったの」
「えっ」
「もちろんエイジ君のことだから殺されるような恨みは買ってないと思うけど、気を付けて。夢の中でも、死んだら死ぬからね」
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