救急車に同乗したのは俺だけで、茜は霞ヶ関の本当の保護者である彼女の叔父と学校の先生に連絡したりしてくれていた。

 それが終わって、茜も霞ヶ関の様子を見に病院に来た。

 今は第一発見者として村瀬さんと少し話をしている。

「ごめん、待たせたわね」

「大丈夫。ところで村瀬さんはなんて?」

 病室の前にあるやけに柔らかい素材でできている椅子に座っていた俺は立ち上がって、茜に村瀬さんとの会話の内容を歩きながら聞いた。

「香澄……入院することになったみたい」

「そっか」

 大事にはなってしまったが、とりあえず一安心だ。

「それよりもあなた、夢の世界に入れる能力があるんですってね」

 するとなぜか茜は少し腹立たし気な顔をした

「そうなんだよ」

「そうなんだよじゃないでしょ! なんで私に相談しなかったのよ!」

「ちょ……お前ここ病院だぞ……」

 茜が急に大声をあげた。間違いなく怒りの声だった。

「たとえ自分一人のことでも抱え込むなって一年前から言ってるでしょ?」

「いやだからそうしてるんだけど……」

 どんどんヒートアップしていく霞ヶ関に俺はすぼんでいく。

「あなたまた普通じゃない夢を見たんでしょ? それをまた一人で……」

 怒ったと思ったら泣き目になっていった。俺は慌てて霞ヶ関を宥めた。

「あんたが夢をみたら……また……」

 そう言って茜は泣き出しはしないものの泣き出しそうな声をしていた。


 少し落ち着いた茜の腕を引いて病院の外に出た。

「落ち着いた?」

「……ごめん」

「いや……」

 俺もごめん。

 と言えれば良かったのだろうが言えなかった。

 ごめんなさいと形だけ謝るのは簡単だが……いや、俺に限って相手が茜の場合にだけは非常に難しい。

 ごめんと形だけ言うのは簡単だ。でもほかの奴にそうやるみたいに茜にそうしたくない。つまり何が言いたいかというと、俺は悪いと思っていない。

 俺は悩みがあったらすぐに相談するという約束を茜としている。

 その約束は茜が俺に一方的にそうしろと決められたものであり、そういった意味だと誓いに近いものである。

 正直この約束自体が俺の一番の悩みだ。

「でもさ……あんたも悪いんだよ……私との約束破るから……」

「いや、別に俺の夢に入れる能力が悩みってわけじゃないんだよ」

「嘘おっしゃい!」

 嘘じゃないよ?

「そんな能力持ってたらちゃんと眠れないでしょうが!」

 確かにここ最近起きた時ちょっと怠い感じするけども! 悩みって程ではない。わざわざ描写するほどでもない。

「いやでも、この能力のおかげでカレンとも仲直りできたし……」

「そうなの……? ふーん……」

 声が小さくなってきた。やっと怒りを収めてくれそうだ。

「私のおかげじゃないんだ! 私だってアドバイスしたのに!」

「めんどくせええええええええええええええ!」

「めんどくさいって言ったああああああああああああああ!」

 しまった、心の声が漏れた。

「心の声が漏れたって顔したあああああああああああああああああ!」

「もうどうしようもねえよ……」

 茜は普段冷静だが、この悩みを言うという約束を破るとこういう風にヒステリックになる。

 本当は面倒くさいところも好きなのは秘密だ。


 さっき村瀬さんに自分が夢に入れる能力があると言った後、その能力にについて僕の妻が詳しいから尋ねてみると良いと言われたので、彼の妻がいる夢見神社への階段を上っている。茜も付いてきた。

 村瀬さんの妻は村瀬幽子といって夢見神社の代々の巫女兼主である。

「幽子さんに会いに行くの久しぶりね」

「そうだな」

「そういえば彼女は夢見神社の巫女だけど、あの人ほど巫女服がよく似合う人って中々いないわよね」

「代々巫女やってるらしいからそれらしい血が流れてるんだろ」

 そういう話じゃないのは分かってる。

 茜は幽子さんが美人だと言いたいのだ。

 巫女だから巫女服が似合うというのももちろんあるんだろうが、幽子さんの場合、幽子さんだから巫女服が似合う。

 巫女服が似合う和風美人だ(胸部のみ欧風)。巫女服が似合うというのはメイド服が似合うことと同じくらい奇跡的なことである。

「でもな……」

 あの人は確かに美人なんだけど……

「あ! エイジ君だぁ!」

 やばい、この声は。

「茜ちゃんもいるーやっほー!」

 神社からダッシュで会談を降りてくる。やはり巫女服で幽子さんはやって来た。

「キッイイイイイイイイイイイイク!」

 会うの久しぶりなのに出会い頭に上から飛び蹴りが来た。当たった。気絶した。

 この人、これで三十超えてるんだぜ? やばいだろ?

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