ブルーサファイアを閉じこめたい

染井雪乃

前編

1.

「霧野君ってさ、ブルー、好きなんだ?」

 美術部の女子が話しかけてきた。名前、何だっけな、と思いながら、蓮は笑って答えた。

「好き、なのかな。わかんないや」

「夏のコンクールで賞取った絵も何かそういう感じあったよね」

 描くものが偏っているとでも、言いたいのか。蓮は湧き上がる怒りを抑えた。

「ああ、でも、そういうの、得意なのかもしれないな。けど、秋は少し違うもの描こうかな」

 ありがと、とひらりと手を振って、蓮は立ち上がった。一秒たりともこの女子と会話をしていたくなかった。とはいえ、図星だった。蓮の絵は中学の頃からブルーを多く使ったものが評価されてきた。他の色を使わないわけではないが、遠くから見て、「青い」絵の人、というのは否定できなかった。

 夏の学校祭で頼まれた、クラスTシャツのデザインも、海をイメージした爽快なものにしてある。高校デビューなのか、弾けたものにしたかったらしいクラスTシャツ担当者には少々がっかりされたが、それ以外のクラスメイトには好評だった。

 クラスメイト。あのクラスTシャツは数ヶ月前まで中学生だった幼さの残る生徒ばかりの教室で、一番あいつに似合っていた。ブルーサファイアの瞳を持つ、アルビノの少年、水無月みなつきはるか。蓮は、高校に入学して、水無月悠と同じクラスになったことに、未だに心の整理をつけられずにいた。

 廊下を歩いて、美術室から教室へ向かう。水無月悠のブルーサファイアの瞳のことは、一度思い出せば、何時間も蓮の頭の中を占めるのだ。

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