弟だと思っていた幼馴染が美少女だったお話
綿宮 望
弟だと思っていた幼馴染が美少女だった
いつもはほとんど他人と話さず、学校でもぼっちでいる事が多いが、そんな僕こと大橋健介には1人の大親友がいた。
彼の名前は大川由真。
年は1つだけ下。
由真なんて女の子らしい名前だけど、性別は男。
彼とは家がお隣さんで、昔からずっと遊んできたいわゆる幼馴染という関係性だ。
僕と由真。
物心がついた時から僕たちはずっと一緒にいた。
まるで兄弟のように。
平日も、休日も、祝日も。
毎日のように勉強しては、遊び、そしてゲームをするのが、いつもの日常。
普通の幼馴染──しかも何歳か年齢が離れた幼馴染なら、それぞれの友達と遊ぶ時間が増え、次第に交流が薄くなっていくだろう。
しかし、僕とは由真にはそんなことは起こらなかった。
何故ならそれは──。
「ごめんね、兄さん。 ボク、今日はちょっと体調が悪いから休むね」
「大丈夫?」
「うん……」
「……」
そう。
由真は生まれつき体が弱かったのだ。
産まれてすぐに高熱を出したり、毎年インフルに罹ったり、月に一回は風邪を引いたりなど。
正直、ここまで来ると、何かに呪われているんじゃないかと思うほどである。
それは彼の両親もそう思ったらしく、何度もお祓いなどを頼んだが、一切変わることは無かった。
「今日も……休むのか?」
「うん……ごめんね」
「別に構わんよ。 それよりも早く体を治してね?」
「ありがとう……」
そんなわけで、由真は1年の半分を家で過ごしている。
よって、彼が人見知りの性格になるのは必然だった。
由真のご両親も、彼のこれからを心配し、僕にずっと友達で居てくれと涙を流してお願いするほどだった。
当時は「過保護かよ」とドン引きしたのをよく覚えている。
でも、由真が孤独になる心配は杞憂に終わることになった。
なぜなら──。
「おい。今日は公園に行くから」
「ねぇ……ボクもついて行って良いかな?」
「ああ、来い」
「うん! すぐに行くね?」
僕は昔から人見知りで病弱だった由真を連れて、公園やら裏山に連れて行っていた。
由真のお母さんからも、「ウチの子をお願いね」と言われている。
この頃には流石に過保護も治っていたらしく、涙を流して懇願した事は一種の黒歴史になっていた。
ただ、最近は僕の学校生活が忙しかったこともあり、彼とはあまり会えていなかった。
最後に会ったのは……1ヶ月くらい前だろうか。
随分と会っていない気がする。
と言うのも、由真が今流行りの感染症にかかってずっと自宅待機をしていた為、会う事が出来なかったのだ。
だけど、ほぼ毎日VCで会話したり、同じオンラインRPGや FPSゲームでマルチをしていたので、実質毎日会っているようなものである。
そして今日は、由真が感染病完治したこともあり、久しぶりの対面だった。
「大丈夫だよね?」
昨日のVCで一緒にアキバに行く約束をした。
僕がほぼ一方的にそして強引に進めてしまっただが、由真は嫌がって無かったし、大丈夫だろう。
「やぁ……いるかい?」
なんて声を掛けながら、由真の家に入る。
鍵はだいぶ前に彼のお母さんから貰った。
おばさん曰く、もし由真に何かあったらよろしく的な事らしい。
「おーい! いるかい? 儂だよワシワシ!」
僕は少し大きめの声量で2階にいるだろう幼馴染に声を掛ける。
側から見れば、自分の事を「ワシ」なんて言ってる完全な不審者である。
だが、それを咎める者はここにはいない。
「……あれ?」
普段ならすぐに出てくる筈だが、今日はシーンとしている。
勉強でもしてるのか?
ずっと家にいるだけであって、成績は普通に学年トップだからね……何故か顔も中性的だけど、綺麗に整ってるし……平凡が似合う僕とは大違いだ。
ほんと。
なんで、僕と馬鹿をやっているんだか。
「由真……いるだろ?」
もう一度声を掛ける。
だが、返事はない。
「外出中? でも、靴はあったし……それに第一、休日に外に出るわけ無いよな……」
ブツブツと呟きながら、2階に続く階段を登り、由真の部屋の前に立つ。
扉には可愛い文字で『ゆまのお部屋』と書かれていた。
「由真? 生きてるか?」
我ながら、酷いな声掛けだと思う。
普通の友人なら、何とでも無いが、相手は由真。
小さい頃に何度も病気で死にかけたような子である。
もしこれで死んでいたら、一生消えない傷が残るかもしれない。
「うん……よしっ」
だが、扉の向こうから声が聞こえてきた。
最悪の事態ではないようだ。
でも、それは由真の声とはほぼ遠い物だった。
いつもよりいくつか声が高く、弱々しい。
それはいつものちょっと高いの声ではなく、ほとんど少女の声に近かった。
「……」
一瞬、病気になったのかと思ったが、それなら朝に連絡するはずだ。
とりあえず、部屋に入って確認するか。
それが一番手取り早いし。
そう思ったいつもみたいに僕は「入るぞ」と告げ、部屋の主の断りもなく、銀色のドアノブで手を掛ける。
「あっ! やっぱ、開けちゃダメッ!」となんて言う拒否のような声が聞こえたが、時はもう既に遅し。
ガチャと音を立てて、ドアはゆっくりと開いた。
「開けちゃダメなんて、久しぶりの対面なのに、随分酷いな……」
ボソボソと言いながら、1ヶ月ぶりの幼馴染の姿をみる。
そこにあったのは──。
「兄さん……ダメだよ……」
「……」
僕はその場で体の操作権を失ってしまった。
いや、信じられない光景を目の当たりにして、驚きのあまり、体が動けなかったのだろう。
いわゆる、ゲームや小説の描写にある『目の前の光景に、思わずフリーズした』と言う奴だ。
まさか、僕が体験するとは思わなかった。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
問題は、目の前でぺたんこ座りをしている彼女の件だ。
ウェーブがかったセミロングくらい黒い髪に、ルビーのような紅い瞳。
雪のような白い肌に、ポッキリと折れてしまいそうな華奢な腕。
気になる点と言えば、何故か幼馴染の服を着ていたことだが、正直どうでもいい。
アニメやテレビ世界にいるような現実離れした姿をした美少女が、僕の目の前にいたのだ。
「……」
沈黙が部屋を包む。
正直に言おう。
僕はとんでもなく焦っていた。
何故なら、こんな美少女見たことがなかったからだ。
もし、どこかで彼女を見ていたら、覚えているはずだ。
それに、彼女が遠い昔に別れた友達と言う可能性もあったが、それなら由真に家に来る必要がないし、そもそも入れないだろう。
次に、由真の友達──もしくは彼女かと思ったが、彼に交友関係それに異性との交友関係が出来たら、まずは真っ先に僕に報告するはずだ。
だとすると、残るのは──。
「えっと……由真の親戚さん?」
「……」
静かに首を横に振る彼女。
違うと言うことだろう。
「えっと……僕は由真に用があるんだけど……どこにいるのか知ってるかな?」
「……待って」
「ん?」
目の前の何かを言ったようだが、あまりの声の小ささに上手く聞き取れなかった。
……仕方ない。
もう一度訊いてみるか。
「えっと、由真は──」
僕は再び彼の居場所を訊こうとしたが、言葉はそこで終わった。
いや、無理やり中断せさられたのだ。
「兄さん! ボクだよ!」
「……うん?」
いきなり「ボクだよ」と叫ぶ少女。
「ボク?」
彼女のいきなりの名乗りに戸惑ってしまう。
でも、その声はかなり幼馴染に似ていた。
「まさか由真か?」と思ったが、一瞬でその可能性を消える。
由真は少年で、目の前にいるのは少女だ。
僕の知ってる幼馴染な訳がない。
「兄さん、ボクだよ! 由真だよ……分からないの?」
目をウルウルとさせる自称“由真”を名乗る少女。
いやいやいや。
いきなりそんな目をされても。
「……」
ジーッと彼女の顔を見る。
よく見てみると、確かに少女には由真の面影があった。
くっきりとした目。
雪のように白い肌。
もし由真が女の子だったら、こんな感じなんだろうな……。
「兄さん……近いよ……」
恥ずかしさのあまりか頬を赤らめる少女。
確かに、こう言う所も由真に似ていた。
えっ……本当に由真なの?
でも、由真って男……だよね?
だって昔一緒に風呂入った時、アレあったし……あったよね?
頭をフル回転させる俺。
そんなそれを様子を見て、不安に思ったのか、自称“由真”を名乗る少女が顔を近づけてきた。
……良い匂いがする。
「本当に……本当に由真なのか?」
「うんっ!」
僕の問いかけに強く頷く彼女。
やっぱり違うな。
だって、由真は……言い方は悪いが、もっと弱々しい。
嬉しいな表情も由真にそっくりだし……。
「……」
沈黙が包む。
「兄さん……」
「ちょっと待って。 まだ脳が完全に処理できていない」
仮の由真が女の子だとして、今の彼女は何だろう。
僕の知っている由真とは、口調も性格も大違いだ。
彼は内気で弱々しいが、目の前にいる少女は社交的で明るい。
まるで別人のようだ。
「兄さん……大丈夫?」
心配そうな表情で見つめてくる幼馴染。
しかし、10年間も男だと思っていた幼馴染が実は女の子だったと言う事実と言う名の負荷を、僕の脳内CPUが耐えきるはずがなく──。
「ちょっと無理……ごめん」
視界が暗転した。
その後、数時間の時間をかけてようやく意識を回復した僕は、速やかに帰宅した。
そして、たまたま家にいた母さんに由真の事を聞いてみたが、母さんは幼馴染が女の子だったと言う事をあっさりと認めた。
それどころか「逆に何で知らないの?」と言わんばかりの表情をされてしまった。
母さん曰く、実は由真は感染症になど掛かっておらず、ずっと女の子として見てもらうの為の訓練をしていたらしい。
その為、1ヶ月もの間、対面で会うことが出来なかったとか。
つまりはあれだ。
僕以外の家族全員が由真が女の子だと言う事を知っていたという事。
なのに、1番近かった(と思う)僕だけが知らなかったって、マジかよ……。
弟だと思っていたのに……実は女の子でしたなんて聞いてないよ!
だから、明日からは女の子して接してねだってさ。
しかも性格も全く違うし……。
明日から僕はどうすれば良いんだよ。
誰か助けて……。
翌日。
母さんに言われ、僕は昨日の事を謝罪をする為に、もう一度由真の家を訪れていた。
「あら、ケンちゃんじゃない。 今日も来てくれたのね?」
「はい。 由真と話したくて」
「そうなの? じゃあ、いらっしゃい」
この日は由真のお母さんも家にいた為、昨日のは違いスムーズに由真の部屋の前にたどり着くことが出来た。
部屋で別れる時、由真のお母さんがニヤニヤと何かを企んでいるような笑みを浮かべていたように見えたが、たぶん気のせいだろう。
いや、気のせいだと思いたい。
「……」
静けさが廊下を包む。
こう言う時って、なんて言えばいいんだ?
普通に挨拶?
かなり気まずい。
でも、いつまでもこうするわけにはいかない。
「……普通に行くか」
それは息を大きく吐くと「由真……いるか? 話をしたい」と彼──彼女の部屋をロックする。
出来るなら、普通で居てくれ。
「……兄さん?」
扉の向こうから返ってきた言葉は、何かを期待しているようなものだった。
ガチャリと扉が開く。
その隙間から出てきたのは、幼馴染の顔をした小さな少女。
「……」
やっぱり、女の子だったんだね。
心の中では嘘であって欲しいと思っていたのだろう。
まだ理解できない自分がいた。
「来てくれたの?」
「話がしたくてね。 入っても?」
「うん!」
良いよと、扉を全開にする幼馴染。
部屋のレイアウトはまったく変わっていなかった。
「昨日はごめん」
「ごめんって……何のこと?」
まるで身に覚えがないような言い方をする由真。
まだ怒っていると言うことだろう。
「許してくれとは思わない……が、出来るなら許して欲しい」
「えっと……」
「すまなかった」
僕は頭を下げる。
しかし、どれだけ経っても反応がなかった。
「……」
シーンとしている由真の部屋。
僕が言うものアレだが、何かしら返事をして欲しい
「……じゃあ、お願い」
「ん?」
「1つだけお願いを聞いてくれるなら、許してあげるよ?」
小悪魔のような笑みを浮かべる由真。
こう言う表情も出来るんだな。
知らぬ間に女の子になっていた幼馴染に、少し寂しさを感じる。
だけど、今はそれどころじゃない。
「……分かった。 甘んじて受け入れよう」
「──っ! じゃあ、言うね?」
小悪魔のような笑みから、無垢な表情になる。
こっちが由真の素なのか。
だとすると、今まで演じていた病弱キャラは何だったんだろう。
少し複雑になりながらも「ああ」と答える。
しかし、彼女から次の言葉が発せられることは無かった。
彼女は下を向いたまま、まるでバッテリー切れしたかのようにその場から一切動かなかったのだ。
「……由真?」
心配になり、声を掛ける。
すると、息を吸う音が聞こえてきて──。
「む、昔から兄さんの好きだったんだ。 だから、えっと……ボクと恋人になってくれる?」
頭を思いっきり下げる由真。
その顔はリンゴのように赤い。
「……えっ?」
えっ?
いや、待って。
告白されてるの?
由真に?
いや、でも彼女は由真で、ずっと男だと思っていた。
でも、今は女の子だからいいのか?
「……兄さん?」
「少し待ってくれ」
いや、まずは落ち着こう。
告白。
そんな突然の状況で、僕の脳内CPUがうまく処理出来ずにいる。
「ボクは兄さんと恋人になりたいな……」
しかし、彼女の最高級の微笑みを見た僕は、そんな事どうでも良くなり──。
「……良いよ」
思いっきり、彼女を抱きしめるのだった。
その後、俺の家である大橋家に2人の家族が増えるのだが、それはまた後のお話。
弟だと思っていた幼馴染が美少女だったお話 綿宮 望 @watamiya
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