3 機械か巨人1 - Relief trustlia
そこにあったのは、巨大な人型――それも、金属でかたちづくられた――
一見すると、ただの鎧、甲冑のようだ。人体を覆う形に金属板を繋ぎ合わせ、作り出された装甲、くすんだ銀色の
その一方で、関節の動きを確保するための隙間や、金属同士の繋ぎ目らしいものがまるで見当たらない。腰から膝上にかけて前掛けのようなスカート状のパーツこそあるが、どうやって着脱するのだろう。それ以前に、そもそもこれは鎧なのか――
「ボクが二人くらい中に入れそうなんだけど……」
胸部が前に大きく張り出していて、全体的に大柄なのだが――それにしても、異様に大きい。
全長二、三メートルほどだろうか。立ち上がればそれなりの背丈があるように思えるが、高さだけではないのだ。横幅もあり、ロストが両手を回してもなお届かないほどの胴回りになっている。
そのくせ手足などは細くどこか人間的で――とはいえそれも、胴体と比べるとだが――だらんと力なく垂れ下がっている。岩と瓦礫の上に奇跡的なバランスで引っかかっており、少しでも動くとそのまま岩のあいだに落ちてしまいそうだ。
第一印象に圧倒され当初の目的を忘れていたが――中から、呼吸音らしきものが聞こえてくる。
これが鎧であるなら、それをまとっているのは人間だろう。
しかし――
まるでちょっとした巨人が身にまとうためにつくられたかのような、巨大な鎧である。ヘルメットも大の大人が被ってまだ余裕がありそうなほど大きい。というかこれはヘルメットなのだろうか。そのような形状はしているが――ともあれ、角ばっていて、ゴツゴツしていて、とにかく大きい鎧だ。
この鎧をまとっているのは、果たして本当に人間なのだろうか?
……やはりロボットでは?
――コン、コン、と。ロストはためらいがちに、拳で鎧の表面を叩く。硬い感触。中で音が鈍く響く。金属板はだいぶ厚く、中にはそれなりの空洞があるようだ。
ロストは足場に気をつけながら、
「あの――……もしもし? 誰か、そこにいますか?」
鎧に顔を寄せ、耳を当てる。やはり呼吸音がする。ゆっくりと、規則正しい――寝息か?
「もしもーし!」
ゴンゴン、と叩く。いっそヘルメットをとろうかと、ブレストアーマーの上にまたがるかたちで頭部に手を伸ばす――ヘルメットは前部を上にして、手足同様だらんと力が抜けている。ともすればそのまま取れてしまいそうだ。
「!」
格子状になっているヘルメット前部の覗き穴が――光った。中で、奥で、眼光のような赤い輝きが、一つ。暗闇のなかで煌々と、不気味に点滅し始めた。
『う、ううう――』
「!!」
くぐもったうめき声。ロストはもしもの場合に備え、鎧から距離をとる。
『こ、こ、は……わたし、は――』
グ――と、頭部がわずかに持ち上がる。構造上、半身だけを起こすという体勢がとれないようだ。仮に動けても、下手をすると岩の隙間に落ちかねない。
『わたしは、いったい……』
男性とも女性ともつかない、くぐもった低い声だ。やや聞き取りづらい。
「ろぼろぼした声だ……。ボクが見えますか?」
ロストは鎧の頭の方に回り込み、声をかける。ヘルメットがこちらを向いた。赤い光が点滅し――安定する。
「自分の名前が分かりますか? ここがどこだかは?」
『わたし――私の名前は、レリエフ・トラストリア――ここは<ホール>――』
「……! 自分の名前が分かるんですね!」
『当然です――名前とは、人が……己が己であると認識するための、楔の一つ。全ての存在には名があり、ヒトは自他を識別するためにそれを用いる――人間社会において、なくてはならないものの一つ……』
「お、おお……目覚めたばかりにしては、なんだか頭の良さそうなことを……やっぱり、ロボット――長い眠りから目覚めた古代兵器……」
『私――
「あれ? 壊れた……?」
『そう、我輩は主を……我が主をお救いするべく、この地に突入した――我が主、とは――』
「聖剣さまと似たようなこと言ってる……」
『…………』
「……あのー……?」
沈黙してしまった。宙を見上げるような格好で仰向けに寝転んだまま、微動だにしない。
「……死んだ?」
『もしや……!』
がばっ、と鎧の半身が構造上の限界まで持ち上がる。突然のことに驚き、ロストは足を滑らせかけた。
『もしや、あなたは我が姫ではありませんか?』
「え? いや、違いますけど」
少なくとも、「姫」ではない。ロストは立派な男の子である。
『そうでありますか……。しかし、あなたが我輩を眠りから起こしてくれた恩人であることには変わりないであります。恩人殿、どうか我輩のことはトラストリア卿とお呼びください。――我こそは、安心と信頼の聖騎士、レリエフ・トラストリア!』
「安心と、信頼の……」
なんだか胡散臭いというか、安っぽいというか。
「……聖騎士?」
『いえ……恩人殿にトラストリア卿と呼ばせるのも失礼でありますな。ではどうか、我輩のことはレリエフと』
「れ、りえれふ……」
『レモンのレに、リンゴのリであります』
「れりりりーふ」
『そこはかとなく惜しいであります』
「とりあえず、聖騎士さん――」
『諦めないで欲しいであります』
「ここから動けますか? いったん地上に戻りましょう」
『ええ……恩人殿の聴覚に問題がないのなら、きっと環境のせいもあるのでしょう。それに、ここはなんだか<
「聖騎士さーん!?」
どんがらがっしゃーん!
恐れていた事態が発生した。巨大鎧が岩山の隙間に転がり落ちてしまったのである。横向きで瓦礫のあいだに挟まり、鎧に絡まった紐が引っ張られ、鎧を隠していた例の布がヘルメットの上に覆いかぶさっている――
「窒息するのでは……。というか、どうしよう。見た目重そうだし、ボク一人じゃさすがに……でも、自力で脱出するのも……」
鎧自体が大きいためロストが手を伸ばせば触れられる距離ではある。かといって引っ張り上げられるものではないし、鎧自ら起き上がるのも難しいだろう。
「……仕方ない。これはここに置いていくしか――」
『恩人殿――少し、離れていてくださいであります』
「え?」
しゅうううう――と、どこからか、何かを吸い込むような音が聞こえてきた。ロストは直感的に巨大鎧から距離をとるため、岩山から降りようとする。もやが急速に晴れていく――
『幸いにして、ここは魔導エネルギーに変換できる浄気が溢れているであります――魔導エンジン、起動。
「ビーム……!?」
ぶぉおおおっ! ――ヘルメットの上に落ちていた例の布が大きく膨らむ。その下から白もやよりも濃い蒸気が噴きあがっている――ロストは転がり落ちるように岩山から地上へと逃れる。
次の瞬間である――びかぁあああ! と、ロストの背後が激しく輝いた。とっさに振り返ろうとした時、耳をつんざくような爆音と、それに伴う爆風に背中を押されてつんのめる。周囲に瓦礫の破片が飛び散り、辺り一帯のもやが吹き飛ばされた。
『ふう――――』
吐息とも排出音ともつかない音が、土煙の上がる岩山の方から聞こえてきた。
『久々のあまり、出力を誤ってしまったようであります』
「や、やっぱり古代文明の破壊兵器……」
としん、としん――思いのほか静かな足音が響く。近づいてくる。何かを引きずりながら、ぽたぽたと何かの滴る音をたてながら――ロストは聖剣のそばまで走っていって、その柄に掴まり刀身の陰に隠れた。
「聖剣さま……ボクは何かとんでもないものを起こしてしまったのかもしれません……。でも、あいつ、自分のことを『聖騎士』とか言ってましたよ? 聖騎士ってあんなロボットなんですか? それならなるほど一騎当千の化け物ですね!」
『ロボット……? あぁ、<自動歩兵>のことですか。確かに我が主も心無い者たちから、機械のようだと陰口を叩かれていましたが――本当は誰よりも心優しく、いつもわたくしの刀身を磨いてくださって、』
「いやノロケはいいですから、ちょっとアレどうにかしてください」
『恩人殿ー? どこにいらっしゃるでありますかー?』
純粋に恐い。
『……まさか粉微塵になってしまったのでは……!?』
『あれは――』
頭のなかに響く聖剣の声が少しだけ低くなる。どこに目がありどうやって見ているのかは知らないが、砂埃のなかから近づいてくるシルエットを注視しているかのような声音だった。
『――確かに、あれは間違いなく……聖騎士にのみ装着を許された、伝説の守護兵装<聖骸>――もしや本当に主さまなのでは……!?』
「さっきも似たような台詞を聞いたんですが……どうして両方とも、探してる相手についてそんなあやふやなんですか……? というか、実は探してる人、同じだったりしません? しませんか、姫じゃないですし」
ともあれ――図体の割になかなか身軽で俊敏な巨大鎧から逃げるのは難しいと、早々に諦め、ロストは聖剣の陰に隠れたまま、自称・聖騎士と相対することにした。
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