53話 得られたもの
アリスとの死闘から一夜明け、翌日の午前。
「きみ、分かっているな? ほんの少しでも怪しい行動を取れば、また零次元に閉じ込めるぞ」
「は、はい……。逆らいませんわ……」
伊織はアリスと並び、大鳳の本家の門前に立っていた。
高天原の同じ座標で、再び零式・次元斬を使い、アリスを解放してやったのがつい先ほど。
たったの一日だが、位置だけの零次元空間は、相当な恐怖だったらしい。
アリスは怯え切っており、伊織の当初の要求を呑み、許しを請うた。
伊織は一緒に居た常世姫に、また封印を施して貰っての現状である。
身体が慣れたのか、封印を施されても、ほとんど眠らずに済んだのは幸いだ。
アリスを待たせて門をくぐると、昨日取り次ぎをしてくれた男と出くわす。
「は、蓮水さま……! すぐに玲士さまを呼んできます!」
もしや玲士の言いつけで、門を見張っていたのだろうか。
伊織が何か言うまでもなく、男が屋敷に駆けていった。
少し経ち、玲士が陽菜乃の手を引き、姿を見せる。
もう片方の手には、三日月宗近を持って。
「蓮水伊織、生きて戻ったか! アリスさんも、一緒に……」
喜ばしげな玲士が、伊織の後ろのアリスに気づき、険しい顔つきになった。
「蓮水さん、アリスさん……?」
匂いで知ったか、玲士の発言で知ったか。陽菜乃は複雑そうだ。
まぁ玲士と陽菜乃からすれば、不可解な状況だろう。
伊織が誓ったのは、占事略决の写本の奪還だ。
アリス本人を連れてくるとは思うまい。
「安心してくれ、写本は問題ない。アリスは反省させた」
「反省……? お前、現人神を相手に……」
戸惑っている様子の玲士を他所に、伊織はアリスに視線をやる。
「アリス、まずは陽菜乃の視力だ」
「……了解でしてよ」
従順な態度のアリスが、魂からアスクレピオスの杖を出し、陽菜乃のもとに歩く。
陽菜乃にかざした杖の先端、青い石が発光する。
「治療が済みましたわ。陽菜乃、目を開けてごらんなさい」
「え……? あ……!?」
陽菜乃が目を開け、
「見えます! あぁ、私、見えています……!」
「ほ、本当か! 本当なんだな!?」
陽菜乃と見つめ合う玲士は、泣き笑うような表情だ。
「はい! 世界が明るい……! ふふっ、玲士くん、随分と大人っぽくなっていたんですね……」
「十年近くも、経っているからな……!」
(……良かった)
伊織は玲士と陽菜乃を眺め、胸を撫で下ろす。
彼らの想いや覚悟で、たしかに得られたものはあったのだ。
「アリス、次は謝罪だ」
伊織の指示で、アリスが玲士と陽菜乃に、深々と頭を下げる。
「このたびは、申し訳ありませんでしたわ。玲士と陽菜乃の関係性を利用したこと、謝罪します……」
現人神に謝られるのは意外だったのか、玲士と陽菜乃が硬直し、間を置いて。
「……小生は……、陽菜乃の視力を治して貰えたし、文句はない。アリスさんの取引に乗ったのは、小生の意思だ。責められる立場ではなかろう……」
「……私も怒ってはいません。玲士くんが居場所を失わずに済むのでしたら、私からは何も……」
「よし。二人がそう言うのなら、二人とアリスの件は解決だな」
伊織の一声に、玲士と陽菜乃が頷き、アリスが頭を上げる。
「蓮水伊織」
と玲士が陽菜乃から離れ、伊織の前にひざまずく。
「お、おい、玲士?」
「いかなる方法でアリスさんを従えさせたのか、小生は何も訊かない。ただ、お前の友情に感謝を……!」
玲士が献上するかのごとく、両手で三日月宗近を差し出した。
「大鳳の本家、次男、大鳳玲士! 小生は今後一生、お前に何かあれば、全力を尽くすと天に誓う! 歩む道に、魂に懸けて!」
決意の込められた誓いに、伊織は面食らう。
まったく、相変わらず真面目すぎる友だ。
男同士なら拳をぶつけ合うくらいで構わないが、道や魂に懸けられては、軽く流せなかった。
「……きみの決意はありがたいが、あまり堅苦しいのは寂しいな。今まで通りに接してくれ。俺もそうする」
「承知! 今まで通りに接せられるように、粉骨砕身、努力する所存だ!」
「きみな……。いや、きっとその真面目さは、玲士の美点なんだろう……」
伊織は呆れて苦笑し、預けていた三日月宗近を掴む。
「それじゃ、學園に帰るか。姫さんや沙奈も、許してくれるさ」
「……だと良いのだが」
不安げな玲士を
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