第2話 リベンジだ トゥルーキング
数週間後。
ミラクル・グリーンの一方的かつ残虐的な猛攻から、どうにか命からがら逃げることに成功したトゥルーキングはリベンジに燃えていた。
アジトに戻ってからは、巨大ロボット対策やら何故『ミラクル・ファイブ』が一人しかいなかったのかもしっかり勉強した。
ふざけた話だが、最近のヒーローはどうやら曜日で出番を決めているらしい。なんでも、全員で怪人退治に行かなくても、一人でも余裕で勝てるということが分かったからだとか。
実に情けない……自分たちが。
トゥルーキングが怪人の先輩や同僚に聞き込みをしたところ『ミラクル・ファイブ』の場合は、月曜日がイエロー、月は黄色だから。火曜日がレッド、火は赤色だから、というふうに出番を決めているらしい。
そして、今日は木曜日。木は緑、つまりグリーンの日だ。
「さあ出てこい、ミラクル・グリーン! 今日が貴様の命日だ! フワ―ハッハッハッ!」
トゥルーキングは自分の声を響かせながら戦闘員たちと共に昼間の街を破壊し続け、ミラクル・グリーンの到着を待っていた。
そして、数時間が過ぎ……、
「だからなんですぐに出てこないんだ! また寝坊か!」
ミラクル・グリーンは来なかった。
この前と同じように、周囲の破壊出来るものはあらかた破壊した結果、ゴミの山がずらっと並んでいる光景がそこにはあった。
「えっ、おかしくない? 正義は遅れてやって来るという言葉は聞いたことあるけど、それにしても遅れすぎじゃない?
えっ、なんで? 正義の味方ってあれだよね。悪から街や人々を守る存在だよね。もう今更来ても守る街はないんだけど。
これってどうなの、アイツ本当に正義の味方なの? この前はぶっ殺すとか、正義の味方が言っちゃいけない台詞を吐いていたし」
ストレスからか、ぶつぶつと呟くトゥルーキングに、周りにいた戦闘員たちが若干ひいていた。
「あ、あの……トゥルーキングさん」
「……なに?」
明らかに不機嫌さが滲み出ているトゥルーキングに遠慮がちに声を掛けたのは、この前、彼の前でミラクル・グリーンの操る巨大カマキリロボットによって潰された戦闘員だった。
あの時、どうにか改造手術で一命を取り止めた結果、改造というあだ名になった彼はトゥルーキングと共にミラクル・グリーンのリベンジという名目で今回の『ミラクル・グリーン撃破作戦』に参加している。
「そろそろ時間も時間ですし、晩飯でも食べません?」
「うん? あ、ああ」
気が付けば日はとっくに傾き、空は紅の夕暮れから漆黒の夜に変色し始めていた。時間の経過を自覚したためか、トゥルーキングは空腹を覚える。
「確かにそうだな。悪いがそこら辺で人数分の弁当を買ってきてくれ。ちゃんと『イービル・ブラック』で領収書をもらってきて。じゃなきゃ経費で落ちないから」
「了解しましたッス、ウェイウェイ!」
改造はトゥルーキングに敬礼のポーズをとると、駆け足でその場をあとにした。
本当にアイツ、いいやつだよな……。
彼は常日頃からトゥルーキングの身の周りの世話を進んでやっている。料理に家事など、誰が頼んでいる訳でもないのに、自分から進んでやっているのだ。
無償でここまでしてくれるので、もしかして彼は同性愛者でトゥルーキングに好意を持っているのではないか? と噂が流れる程だ。しかし、それは真実と違うらしく一般人の彼女がいるらしい。
結局のところ、何故彼がそこまでしてトゥルーキングに尽くすのかは現在でも不明だが、怪人のモチベーションを上げていることには変わりなく、有能な戦闘員というポジションに留まっている。
「よっしゃ、俺も怪人らしく今日こそはヒーローを倒すか!」
未だ微かに見える改造の背中に視線を移し、トゥルーキングは心の闘志を燃やした。
改造が買って来た弁当を食べ終えたトゥルーキング一同はミラクル・グリーンが来るのをじっと待っていた。
「トゥルーキングさん、良かったら俺のお菓子いりますか?」
「ああ、もらおう」
「どうぞッス、これ美味いんスよ」
数時間後。
「トゥルーキングさんって、子供の頃は何をやっていたんですか?」
「空手、柔道、剣道……あと相撲もしていたな」
「流石っスね!」
更に数時間後。
待ち続けてしばらく経った。空は完全に黒く染まり、太陽は地球の裏側へ。天に輝く月と星、あと戦闘員たちが暇つぶしに操作するスマホのブルーライトだけが優しく? 彼らを照らしている。
そんな時だった。
突如、目の前の暗闇の空間が金色の光を放った。
「そこまでだ、悪党!」
トウッ! という掛け声と共に金色の光の中から現れたのは、全身を金色のタイツで覆った男だった。
「『ミラクル・ファイブ』が一人、黄金の魂を持つ奇跡の追加戦士、ミラクル・ゴールドッ! 見・参!」
ビシッと、ポーズと決めた男は、自身をミラクル・ゴールドと名乗った。というか、
「グリーンじゃないっ⁉ なんだお前は!」
「問われたからには何度でも答えよう! 愛と正義、金、それと酒と女だけを愛する金曜日の使者! 『ミラクル・ファイブ』ナンバーシックス、ミラクル・ゴールド!」
決めポーズ。
「だけって言うわりには愛するものが多いな! って、そうじゃねぇよ! なんで木曜日なのにグリーンじゃなくて……あれ? お前今、金曜日の使者って言った?」
トゥルーキングは隣にいた改造のスマホを覗き込む。
日付が変わっていた……木曜日は金曜日へ。
担当ヒーローはいつのまにか、グリーンではなくゴールドの時間帯になっていた。
「待て待て待て待てッ! グリーンは⁉ 確かに今は金曜日だけど、俺たち昨日は結構早くから暴れていたぞ!」
「グリーンなら旅行に行ったぞ!」
「はあ⁉」
「グリーンが言うには、ヒーローにもたまには闘いの傷を癒す機会が必要だ、とか言って二日前から三泊四日の温泉旅行へ出かけた!」
「いやいやいやいや! ふざけるなよ、お前ら『ミラクル・ファイブ』が闘うのは週一だろ、余裕で勝っているしいつ怪我をしたんだよ!
しかも、なに自分の担当曜日に温泉旅行なんて行ってんだよ!
街を破壊した俺が言うのもなんだけどお前が温泉旅行なんて行っているせいで街が跡形もなくなってんぞ!」
せっかく準備万端にグリーン対策としていろいろな道具を買い漁って持って来ていたのに関わらず、そのグリーンがまさかの最初からいなかったという事実に、トゥルーキングの怒りが沸々とたぎりだす。
自分の努力が水の泡になってしまった。
この怒りの矛先は一体どこに向ければいいのだろうか。それの答えは考えるまでもなかった。
トゥルーキングは目の前のミラクル・グリーンの仲間であるミラクル・ゴールドに名乗る。
「フワ―ハッハッハッ! よくぞ名乗ったミラクル・ゴールドよ! 俺はマーシャル怪人——トゥルーキングだ! 俺様と闘うということは貴様の死を意味する、逃げるなら今の内だぞ! フワ―ハッハッハッ!」
「必殺『金の玉を破壊する
「あっっっぶねっ! いきなりなにしやがる!」
コイツ、俺の股間に躊躇のない全力の一撃を入れようとしやがった!
「なにっ⁉ 俺の先手必勝の攻撃を避けるとは! 貴様、やるな!」
「お、お前、台詞や決めポーズをヒーローっぽくすればどんな汚い手を使ってもいいと思っているだろ!」
グリーンみたいにいきなり巨大ロボットで攻めてこないあたり、少しはまともなヒーローが来たかと思ったらグリーンにも負けないくらいのヤベェやつが来やがった!
しかも、いちいち台詞のあとに決めポーズをとるのが凄くイラつく!
「行くぞ、闘いはまだ始まったばかりだ! 必殺『金で
ゴールドはどこからか大量の札束を取り出すと、それをこれでもかとトゥルーキングの周りにいる戦闘員たちに見せびらかした。
「いいか、戦闘員たち。君たちは安月給で毎日こき使われているのは分かっている、これは俺からの臨時収入だ! これが欲しければどうすればいいか分かるよな?」
つまり、ゴールドは遠まわしに自分に協力しろと言っている。
しかし、ゴールドの話に乗っかってしまえばそれは明らかな裏切り行為だ。
今後の事を考えればいくら札束を見せられても正職員兼戦闘員である彼らが裏切るなんてことはありえない。
もし裏切ってしまえば本部に帰って待っているのは地獄の断罪だ。
そんな少し考えれば誰でも分かることは、もちろんゴールドにだって分かっている。だから、彼は最後に決定的な一言を付け加えた。
「あっ、あと俺は今から超音波を出すぜ! その影響で俺にマインドコントロールされる戦闘員が現れてもなにも不思議ではない!」
瞬間、空気が変わった。
怪人をサポートするはずの戦闘員たちからただならぬ殺気が溢れ出したことをトゥルーキングは見逃さなかった。
「ッ——⁉ トゥルーキングさん、下がってッス!」
「改造、お前は平気なのか⁉」
他の戦闘員が、
「マインドコントロール……マインドコントロール……」
「ああ~、頭がボォっとして何も考えられないや~」
「金……札束……大金……」
と、それぞれが操られてますよアピールをしている中、改造だけがしっかりと正気を保っていた。
やはり、有能な戦闘員というポジションにいるエリートは一味違う。本当にありがたい。
おそらく、戦闘員全員に裏切られていたらトゥルーキングの心はポッキリと折れていただろう。
持つべきものは、自分を心から慕ってくれる戦闘員だ。
そのことを改めて実感したトゥルーキングは、改造に笑いかける。
「行くぜ、改造! 俺たちは誰にも止めることが出来ねぇってことを、この馬鹿野郎共に思い知らせてやろうぜ! お前の力を貸してくれ!」
「この命、あなたに捧げます。どうか、一生あなたの傍にいさせて下さいッス!」
……こいつ、本当にそっちの毛はないんだろうな……。
頭に思い浮かんだ場違いな疑念を瞬時に振り捨て、トゥルーキングは改造とタッグを組み、悪の戦闘員たちとの激闘を開始した。
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