喰藤雪音5
「異食症?」
GPSを辿りながら春介を探している最中、運転席でハンドルを握る椿がそんなことを口にした。
法定速度なんて端から守る気なんて無いような荒っぽい運転をしながら、彼女は続ける。
「あぁ、栄養価の無いものを無性に食べたくなる症候の事でね。偶に氷を齧ったりする人が居るだろう? 中には土や石を食べたりする人も居るが、あれの多くは精神的なストレスが原因だ」
「それがあの飢崎って子と関係あるの?」
「まだ推測の域だがね。精神的なストレスと一言で言ってもその実態は様々だ。学校や職場での人間関係、個人の家庭環境、将来への不安や過去への罪悪感、挙げていけばキリがない。おそらく飢崎愛穂も何かしら複雑なストレスを抱えているんだろう」
「でも、ストレスだけが原因で人を襲うとは思えない」
「同感だ。原因はストレスだったとしても、きっかけはまた別だろう。心当たりがない訳ではないが、君は聞く耳を持たないだろうな」
「椿のそういう話が早い所は好きだよ」
「はは、それはどうも。まぁ、取り敢えず今は彼のことが優先だな。雪音」
「そこの角を左」
私の言葉と同時に、椿はハンドルを左に切る。カーブ前に一切ブレーキを踏まずドリフトで曲がりきる荒々しい運転に対向車からはクラクションが飛んでくる。
だというのに、当の本人は素知らぬ顔で運転を続ける。
「それにしても、せっかくのデートだというのにどうして駅前なんかに居るんだろうね。もっと良い場所があっただろうに」
「……ふん」
「ふふっ、ジェラシーかい?」
「うっさい」
横目で私の顔を見ながら、意地の悪い笑みを浮かべている椿から逃げるように目を逸らす。
別に、あのお人好しが誰とデートしようが私には関係ない。
今は友人でも、来年は全く別の関係になっているかもしれない。いつまでもこの関係を続ける方が難しいのだから仕方がない。
長い長い人生の中のごくごく自然な出来事だ。
だから、関係……ない。
「……ばか」
隣に居る椿にすら聞こえないように口の中で呟くと、何故か車の速度が上がった。
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