第47話


来たな、と内心俺は思った。


王の間にいた人間全員の視線が、その男の元に集まる。


「デューク。一体どうしたというだ?」


ロウリア王がクレア王女の隣にいた男の名を読んだ。


デューク……クレア王女の側近の騎士が憤慨した様子で王に進言する。


「王よ。どうか先ほどの発言をお取り消しください。このような何処の馬の骨ともわからないようなやつと我が姫様を結婚させるわけにはいかない」


「なんと…」


「あの馬鹿め…」


「勇者様を馬の骨だと…」


デュークの物言いにザワザワと波紋が広がる。


「あ?あんた誰なんだよ」


アレルも不快感をあらわにし、デュークに食ってかかる。


「俺がクレア王女にふさわしくないだって?お前何様なんだ?」


「うるさい。お前は黙っていろ」


デュークは相手が勇者であろうと臆することなく、クレアとアレルが結婚すべきではないと主張する。


「クレア王女にはもっとふさわしい方が他にいくらでも存在するはずです。本人の意思確認もせずに、いくら勇者だからといって平民と結婚させるべきではない」


「…!」


クレア王女の目に希望が灯った。


まるで自分の意見の代弁者が現れたとでも言わんばかりに、デュークを好意的に見つめている。


「…うーん…まぁそうなるよな」


本来のシナリオなら、ここで勇者を貶しまくるデュークに対してクレア王女の反応は「そんなことありませんわ。勇者様は素敵な方です」と顔を赤らめてモジモジしながら言うはずだったのだが。


現在のクレアはむしろ、アレルとはどうあっても結婚したくないようで、デュークを応援するような目で見ている。


…まずい。


このイベントの意義が百八十度変わってしまっている気がする。


このイベントは本来、突っかかってくるデュークをアレルが華麗に倒し、余計にクレア王女がアレルに惚れる…という展開なのだが。


「これこれ、デュークよ。流石に言い過ぎだぞ。馬の骨などではない。彼はこの世界を救う英雄になる男だ」


王がアレルを庇う。


アレルがうんうんと生意気にも頷いている。


「はっ。このような貧弱そうな男に世界が救えるとはとても思えませんな」


「そのような態度をとると後悔するぞ、デュークよ。勇者はすでに、魔族を一匹倒し、伝説の魔獣であるフェンリルを飼い慣らすほどの実力を備えておる。もし勇者がお前に報復をするようなことがあっても私は庇ってやれんぞ。自業自得だ」


「御言葉ですが、王よ。私がこのような男に劣ると本気でお考えですか?そうであるならば、誠に屈辱の極みです。どうか私にこの場で勇者の力を試す機会をください」


「…なんだと?」


「この場で勇者と戦うというのか…?」


「正気か…?勇者様は第一王子を一瞬にして倒し、フェンリルまで従えた実力者だぞ…?」


「デューク……王女の護衛騎士のあの男は命知らずにも程がある…」


デュークの、アレルに勝負を申し込むような台詞に波紋が広がる。


「ふむ……デュークよ。それはつまり、勇者とこの場で戦いたいと、そういうことか?」


ロウリア王が髭を撫でながら言った。


デュークが頷いた。


「そうです。どうか、勇者との決闘をお許しください」


「ううむ…」


ロウリア王は迷うように髭を仕切りに撫でている。


「勇者アレルよ…お前はどうなのだ?この決闘受けてはくれないか?」


「別に構わない。王よ。俺がその生意気な騎士に格の違いをわからせてやりますよ」


「おお、やってくれるか」


ノリノリのアレルを見て、王の意志も決まったようだ。


「実を言うと、私も勇者の力というやつを一目見てみたかったのだ。やってくれるか、アレルよ。デュークとの決闘を」


「ええ。勇者としての力、ご覧に入れましょう」「期待している。見せてみろ、私にそなたの力を」


「…決まり、ですね」


デュークとアレルが互いに睨み合い、ニヤリと笑う。


「おい…姫様の護衛騎士と勇者様が戦うぞ…」


「マジか……まさかこのような展開になるとは…」


「勇者様の圧勝に決まっている…あのデュークかという男はばかだ」


「ああ、こんなの咬ませ犬のいいところじゃないか…」


アレルとデュークが戦うことになった。


人々はアレルの圧勝だと予想しているようだった。


「頼むぞ、アレル…頑張れよ…」


俺は小さくアレルにエールを送る。


デュークは優秀な騎士ではあるが、そこまで強くはない。


ほぼ確実にこのたたかいはアレルが制するだろう。


だが、フェンリルの件があった手前、安心もできない。


ここで負けたら、アレルは確実にその権威を失墜させ、もはや勇者として扱われなくなるどころか、城にいることすらできなくなるだろう。


そして今回ばかりは俺が介入することもできない。


アレルには自力で、デュークに圧勝してもらわなくては…


「ま、また戦うんだ…勇者も大変なんだね…」


ことあるごとに勝負を仕掛けられているアレルを、アンナが気の毒そうに見つめている。


「まぁ、アレルなら大丈夫だろう」


そう言いながら俺はチラリとクレア王女を見た。


クレア王女は、デュークに対して期待するような視線を向けながら、何ごとか呟いている。


頑張って、デューク。


俺にはクレア王女がそう言っているように見えた。


…どうやら王女はマジでアレルとの結婚が嫌で、デュークに勝負に勝ってほしいと思っているようだった。


「待っていてください、クレア王女。今この身の程知らずを倒して、俺があなたにふさわしい男であることを証明しますから」


「…」


「クレア王女…?」


「え、あぁ…はい…その…期待しています…」


全く期待していなさそうな顔で、クレア王女が意気込むアレルにそう言ったのだた。



〜あとがき〜


ここまでお読みくださりありがとうございます。


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クラス転移モノが好きな方は是非そちらの方もよろしくお願いします。


  

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