第46話


「おぉ…お前が勇者か…会いたかったぞ…!」


「ロウリアの王よ…お会いできて光栄です…」


ここ最近調子に乗っているアレルも、流石に王の前では普段の態度を改めるらしい。


ここは王の間。


城に帰還したロウリア王に謁見したアレルは、首を垂れて王の前に跪いた。


「顔を上げてくれ、勇者よ。いずれ世界を救う英雄よ。どうか私には友人のように接してもらいたい。あまりかしこまる必要はないぞ」


「…そうですか。なら」


王の許しを得て、アレルが顔をあげ脱力する。


「アレル…頑張れ…」


「あんま要らんことはするなよ…」


今の所うまく行っているロウリア王とアレルのやりとりを、俺とアンナは広い王の間の隅でハラハラしながら見守っていた。


入口から王の座る玉座へと続いている赤い絨毯の両脇には、剣を構えた騎士がずらりと並び、その外には、何人もの見物人が詰めかけていた。


「聞いたぞ、勇者よ。伝説の魔獣、フェンリルを倒し、そして従えたと…それは誠か?」


「ええ…本当です」


しんと静まり返り、緊張した空気の流れる王の間に、アレルとロウリア王のやりとりが響く。


「おお…そうか…!!それはすごいな…!!真の武勇ではないか…!フェンリルに挑むとは何たる勇敢さ」


「お褒めに預かり光栄です」


「…魔族も倒したと聞いたが、それは流石に嘘であろう?」


「いいえ、それも本当です」


「なんと…!」


ロウリア王が感激したようにアレルを見た。


「その若さで魔族と倒し、フェンリルを従えたとな……何たる武勇…逸話級ではないか…流石勇者と言ったところか…!」


「いえ、それほどでも」


「ははは。謙遜するでない。私は本当に驚いているぞ。そして同時に頼もしくも思っている。勇者がこれだけ強力なら、魔王など恐れるに足らぬな」


「魔王は必ずこの俺が倒して見せます。お任せください」


「期待しているぞ!」


互いに握手を交わし、笑い合う王とアレル。


「…いいぞ」


俺はここまでことが順調に進んでいること

に、ひとまず安堵する。


最近調子に乗っているアレルのことだ。


何かしらの無礼を王に働くのではと思ったが、流石にそこまで判断力が低下しているわけでもないらしい。


ひとまずこれで王との会話は一通り乗り切った。


あとは…この後アレルに突っかかっていくであろうあいつを倒すだけだな。


「聞け、勇者よ。もし魔王を倒した暁にはな……私の可愛い可愛い娘であるクレアをや

ろう」


ロウリア王がそう言って、傍に立っているクレアを指差していった。


「え…お父様…?」


クレアが驚いたようにロウリア王を見る。


ロウリア王はそんなクレアを無視して、アレルに言った。


「美しいだろう、我が娘は。おい、クレア。こっちにきなさい」


「…はい」


「お前は今日より勇者の許嫁だ。勇者が魔王を倒した暁には、結婚し、勇者の子を身籠るのだ。いいな?」


「え…いや、私は…」


クレアが狼狽える。


アレルを見て、まるで拒絶するような…心底嫌そうな表情を浮かべた。


「あれ…?クレアさん…?」


俺はクレアの不可解な反応に首を傾げる。


そこは顔を赤らめ、モジモジしながら照れるところでは…?


シナリオ通りならもっと満更でもない反応だったよな…?


「あ…」


そうか、完全に失念していた。


アレルとクレアは現時点であまり親密な関係ではない。


アレルの代わりに俺が籠の中の鳥だったクレア王女を城の外に連れ出したからだ。


本来ならクレアはそのイベントを通じて、アレルのことを異性として気にし出すことになる。


しかし、アレルが引きこもってしまったせいでアレルとクレアの距離は縮まらなかった。


その結果、現愛、クレアがアレルとの結婚を嫌がっているのか…。


「どうした?クレア。まさか嫌とは言わないよな?」


ロウリア王がちょっと焦ったようにそう言った。


「勇者と結婚できるのだぞ?いずれは世界を救う英雄の許嫁だぞ?これ以上女として幸せなことはあるまい?」


「わ、私は…」


クレアが一瞬俯き、そしてチラリとこちらに視線を飛ばしてきた。


え…俺…?


「む?」


「誰だ?」


クレアがこちらを一瞬見たおかげで、詰めかけていた見物人の視線が俺に集まる。


「え…グレン?なんで?」


俺が注目されていることに、アンナが首を傾げる。


「な、なんすか…?」


俺は首を傾げて、惚ける。


皆まさか王女が一瞥を送ったのが俺だとは思わなかったのか、また王の元へと視線を戻していった。


「クレア王女…俺ではあなたの夫として役不足でしょうか」


勇者と許嫁になることをクレアが渋っていると、アレルが突然そんなことを言い出した。


「し、失礼ながら…あなたはとてもお美しい……今まで見たどんな女性よりも綺麗だ…俺は必ず魔王を倒し、世界を救います…その暁には、是非あなたを妻としたい…ダメでしょうか?」


いつになく積極的なアレル。


どうやら完全にクレア王女に一目惚れをしてしまったようだ。


震える声で、嫌そうにしているクレアに婚約を申し込む。


「おいおい…」


アレルよ。


まさかクレアルートに入るのか?


お前にはアンナがいるだろ?


ずっと隣にいた幼馴染の気持ちを蔑ろにするのかよ?


これはアンナも相当ショックを受けて…


「…ん?」


あれ…?


俺はおかしいぞと首を傾げる。


チラリと盗み見た横にいるアンナの表情がいたって普通だった。


思い人のアレルが王女と婚約しようとしているのだからもう少し慌てても良さそうなものなのだが…


「あ、アンナ…?」


「ん?何?」


俺はアンナに恐る恐る尋ねる。


「いいのか?あれ」


「…?何が?」


「いや、アレルが王女に結婚申し込んでるけど…」


「別にいいんじゃない?アレルの勝手でしょ?」「お、おう…」


「アレルは勇者で……もう私たちとは違うから、王女と結婚してもおかしくないんじゃないかな?」


「そ、そうか」


な、なんだろう。


反応があまりにも素っ気なさすぎる。


アンナはもうアレルに興味がないのか?


それともこう見えて内心ショックを受けているのだろうか…。


「く、クレア…さあ、勇者の申し出を受けるのだ」


「…っ」


俺がアンナの反応を不可解に思う一方で、玉座の方では、どんどん空気が悪くなっていっていた。


クレア王女がなかなかアレルの結婚の申し込みを受けないからだ。


「お父様…私は…その…実は…」


クレアが泣きそうになりながら何かを言いそうになった、その時だった。


「お待ちください、王よ…!!私はその男がクレア様にふさわしいとはとても思えません!」


クレアの側に立っていた騎士の男が、突然そんな声をあげたのだった。



〜あとがき〜


ここまでお読みくださりありがとうございます。


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クラス転移モノが好きな方は是非そちらの方もよろしくお願いします。


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