第45話
フェンリルは広い王城の中庭で飼われることになった。
「おい聞いたか…勇者様が、あの伝説の魔獣、フェンリルを使い魔にしたらしい…」
「それは本当か…?流石勇者様だ…」
「中庭にいるそうだ。見にいこう…」
「大丈夫か?食い殺されはしないか?」
「随分大人しく暴れたりと言うことも一切ないらしい…勇者様が完全に従えていらっしゃるからだ…」
「やはりすごいな…いずれ世界を救う英雄だけのことはある」
アレルがフェンリルを使い魔にしたという噂は瞬く間に王城内に広まって、アレルの名声をますます高めた。
「勇者様…おはようございます…」
「勇者様…ご機嫌麗しゅう…」
「はっはっはっ!!勇者が通るぞ!!道を開けろ…!!なんつって」
王城に住む人間たちは皆、アレルを恐れ、尊敬し、アレルが通ると道を開けるようになった。
そのことがアレルをますます増長させた。
『くそ…気に食わん…全くもって気に食わん…私はあのような雑魚に負けたわけではないのに…』
一方で、フェンリルは自分がアレルに負けて付き従っている…と言うことにされてしまったことが心底気に食わないらしい。
一応、俺の指示通りにアレルに付き従い、アレルの命令を遵守しているが、しかしいつ何時アレルを蔑ろにしかねない危うさがあった。
「気持ちはわかるが耐えてくれ。アレルに噛み付いたり、食い殺したりするなよ。大人しく命令に従うんだ」
『…それがグレン。お前の指示だと言うのなら従うが……しかし、どうして私がそのようなことをしなくてはならない?』
「…色々と深い事情があるんだ。他人においそれと話せない事情が」
『わからないな……真実を広めてあのムカつく勇者気取りの雑魚の鼻を明かしてやろうとは思わないのか。私がグレンならそうする』
「勇者気取りの雑魚って……この前も行ったが、あいつ本物の勇者だぞ」
『はっ…どうだか…あの様なものに世界が救えるか。どう見ても英雄の器ではない』
「わかったわかった。ともかく、本当のことは誰にも言うなよ。お前はアレルに負けて、アレルの使い魔になった。そう言うことにしてくれ」
『わかっている。ご主人の指示に逆らったりはしない』
フェンリルは嫌そうにしながらも、アレルの使い魔を演じることを了承してくれた。
おかげで俺は、フェンリルを倒した功績をまたしてもアレルに押し付けて正体を隠すことに成功した。
…ただその代償としてフェンリルに会うたびに愚痴を聞かされる羽目になったが…
「王の帰還だ…!!」
「ロウリア王が帰ってきたぞ…!」
それから一週間後。
遠征に出ていて城を留守にしていたロウリア王が、城へと戻ってきた。
王の帰還を祝い、宴が催された。
そしてその翌日、アレルが王の元に呼び出されたという情報が俺の耳に飛び込んできた。
ロウリア王が、やがて魔王を倒し、人類を救うことになる勇者を一眼見たいと望んだのだ。
「アレル…?どうする?」
「そうだな…あいつがやらかさないか心配だ。見に行こうぜ」
「うん、わかった」
勇者とロウリア王の対面は、王の間での公開の謁見になるという。
俺はアンナと共に、アレルと王の対面を見物しに行くことにした。
「…あのイベントを無事にこなせるか、心配だしな」
「え…?何か言った?」
「いや、なんでも」
ロウリア王と勇者アレルの邂逅。
このイベントの中で、またアレルの力が試されるちょっとした試練がある。
と言ってもこの試練は、クリアははるかに簡単で特に問題はないと思われる。
よほどのことがない限り、アレルは勇者の力でこの試練を乗り切ることになるだろう。
しかし、油断はできない。
俺の中には一抹の不安があった。
フェンリルに簡単に負けた時のアレルを見ているからだ。
「…流石に頼むぞ、アレル」
今回はフェンリルの時と違って、大勢に見守られる中で起こることだ。
この試練……戦いでアレルが負ければ、流石の俺でも尻拭いはできない。
もし奴にアレルが敗北すれば、せっかく高まったアレルの地位は再びどん底まで落ちることになるだろう。
そうなった時、物語を再び本来の路線に戻すことがほぼ不可能になる。
「アレル……力の見せ所だぞ」
本当に頼むぞ?
今度は俺も尻拭い出来ないからな?
普段あれだけイキリまくってるんだから、あいつぐらいは余裕で倒してくれよ?
〜あとがき〜
ここまでお読みくださりありがとうございます。
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『クラス転移で俺だけ魔力が無くて無能認定されたけど、生まれつき使える超能力があるので普通に無双します』
が公開中です。
クラス転移モノが好きな方は是非そちらの方もよろしくお願いします。
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