第48話


「まさか勇者様の戦いを間近で見られる機会が来ようとは……」


「クレア王女のあの護衛騎士には感謝しなければな…魔族を倒し、フェンリルを従えた勇者様の武勇が見られるぞ…」


「ルクス王子の時のように一瞬で終わってしまうのだろうか……」


「あのデュークという騎士、勇者様相手に何秒持つのだろうか…」


アレルとデュークが、王の間の中心で向かい合う。


2人の周りは鎧を身にまとった騎士たちが円になって取り囲んだ。


そしてその外側に、たくさんの見物人が詰めかけている。


俺とアンナはなんとか前の方まで出て行って、アレルとデュークの戦いを観察する。


「アレル…勝てるかな?」


アンナが俺に聞いてくる。


「さあ、な」


俺は大方勝つだろうとわかっていながら、惚けて勝敗がわからないふりをする。


「…」


するとアンナが俺のことをじーっと見つめてきた。


「…?なんだよその目は」


「グレンには、さ……どっちが勝つのか、わかってるんじゃないの?」


「は、はぁ…?」


一瞬、どきりとさせられた。


アンナの鋭い視線が俺を捉える。


「な、なんでだよ…どっちが勝つかなんてわかるわけないだろ…お、俺はアレルを応援するだけだ」


「…ふぅん。そ」


「…っ」


アンナが最後に意味ありげに目を細めてから、アレルとデュークの方に視線を戻した。


「…」


俺はチラリとアンナの横顔を盗み見る。


…やっぱり何かにアンナは気づいているな。


ことあるごとに俺に探りを入れてきている。


何か一つでもボロを出すとそこから芋づる式にいろんなことがばれそうだ。


…尻尾を掴まれないように気をつけないとな。


「それでは両者よ。存分にその武勇を発揮せよ!!」


…そうこうしているうちに戦いが始まりそうになっていた。


王の間の人々に見守られながら、対峙するアレルとデューク。


「お前にクレア様は渡さない」


「核の違いを教えてやるよ」


互いに不敵な台詞を吐き、一触即発の雰囲気だ。


「では両者構えて…」


2人の間に入った騎士が、掲げた剣を下ろした。


「始め…!!」


「うおおおおおお!!!」


開始の合図とともに、アレルがデュークへと突っ込んでいった。

 


王の間に、剣戟の音が響き渡る。


「うおおおおお!?」


「ふんっ!!」


アレルとデュークの剣がぶつかり合い、火花が散る。


せめているのはアレル。


守りに入っているのがデュークだ。


「おぉおお…」


「速い…動きが見えないぞ…」


「なんとレベルの高い戦いだ…」


人々はアレルとデュークの戦いのレベルの高さに驚嘆している。


「…」


俺はアレルとデュークの戦いをじっと観察

し、成り行きを見守る。


…序盤はまずまず順調と言ったところか。


攻めるアレル。


デュークは守りに徹していて、攻める余裕はなさそうに見える。


あとは…アレルがデュークのあの弱点に気づけば戦いは決着するだろう。


「…気づけアレル…デュークの守り方をよくみろ…」


俺は小さな声でそう呟いた。


クレア王女の側近の護衛騎士、デュークには弱点がある。


それはデュークの左目が義眼であり、左の視界が狭いということだ。


デュークはその昔、戦いで左目を失い、義眼となった。


アレルは戦いの中でデュークの動きから左目が義眼であると見抜き、その弱点をついて華麗に勝利する。


それがこのイベントにおける本来の道筋だ。


だから…アレルが冷静にデュークの動きを観察しながら戦えば……あと数十秒以内に決着はつくはずなのだが……


「ははははは!!!防戦一方だな!!さっきまでの大口はどうした!?」


「ふん。そちらこそ、攻めあぐねているのではないか?」


アレルは、デュークに攻めに転じる余裕がないと見るや、調子に乗り始めた。


剣筋がだんだんと荒くなり、動作も好きの多いものになっていく。


「あの馬鹿っ…」


調子の乗るなっ…


デュークはそこまで弱い騎士じゃない…!!


冷静さを失えば、不意打ちを喰らうことだって…


「これで終わりだ…!!うらぁ!!」


アレルが上段からの大ぶりを繰り出す。


その動きは、デュークを完全に舐めたもので、隙だらけだった。


「隙ありっ!!!」


「なっ!?」


デュークが僅かに身を逸らしてアレルの剣を避け、ガラ空きとなったその腹部に、自らの肘を打ち込んだ。


「ごっ!?」


アレルが吹っ飛ばされて尻餅をつく。


「あーあ…」


俺は頭を抱える。


「え…」


「嘘だろ…?」


「勇者が一撃をもらった…」


「勇者様…?」


「何が起こってるんだ…?」


波紋が広がる。


勇者の圧勝だと思っていた人々が、アレルの失態にざわつき始める。


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