第37話


コツコツと王城の地下へと続く階段を俺はゆっくりと降りていく。


この先にあるもの…というか居るもの…それは、この王都のマップに配置されたステージクリア後に挑むことのできる裏ボス、ヒュドラである。


『世界の終わりの物語』と言うRPGは、メインストーリーをクリアした後もたくさんの楽しめる要素を残した神ゲーである。


そんなクリア後にプレイヤーたちがこぞって打ち込むのが、各マップに一体配置された裏ボスの攻略である。


裏ボスは、魔王を倒しメインストーリーをクリアした後に解放され、その強さは、メインストーリーの中で登場するボスの数倍から十倍以上はある。


ゆえにクリア後そのまま挑んでも勝つことはできず、レベル上げや弱点魔法の収集が必要になったりするのだが…


「まー…レベル999なら流石に勝てるっしょ…」


俺は改めて自分のステータスを確認する。



===================


名前:グレン

職業:村人

年齢:12歳


レベル:999

攻撃:100890

防御:101200

敏捷:100340

魔力:100040


スキル:なし


直近獲得経験値:1000000


加護:<妖精の加護>


アイテム:<生と死の剣><勇者の剣><風の指輪>


次のレベルまでの経験値:0(レベル上限)


===================


レベルは上限値の999。


アイテムや魔法、スキルなどはまだまだ不足している感は否めないものの、しかし裏ボス『ヒュドラ』を倒すのには十分すぎるステータスであるといえる。


ちなみになんだが、ヒュドラのレベルは500。


つまり今の俺はヒュドラと比較してざっと二倍のレベルとステータスを備えていることになる。


二倍もレベル差があれば、『世界の終わりの物語』では相性だとか耐性だとかを無視して力でゴリ押すことが可能である。


よって俺は、せっかく王城にいるうちに討伐可能であるヒュドラを攻略しておこうと思ったのだ。


「さて…以上に気づかれる前に早めに倒さないとな…」


入口を見張っていた騎士の2人は、一応隠してあるためすぐには見つからないだろうが、あまり時間もかけていられない。


誰かにヒュドラと俺が戦っているところを見られるのは論外として、そもそもヒュドラの存在自体を広めてしまうこと自体がアウトだ。


設定では確か、王城の地下に封印されているヒュドラの存在を知るのは国王と、一部の側近のみだからだ。


「ドロップアイテムはなんだったか…」


階段を降り切った先の廊下を歩きながら、俺はヒュドラからドロップするアイテムがなんだったかと記憶を手繰り寄せる。


裏ボスは、討伐するごとに非常に強力なドロップアイテムを落とすのだが、果たしてヒュドラのドロップアイテムはなんだったか…


「お、着いたな」


そうこうしているうちに突き当たりに到着。


俺の目の前に、中心にオーブの埋め込まれた巨大な扉が出現した。


「確か、手を翳すんだよな」


裏ボス部屋を開くのに、アイテムは必要ない。


クリア後は、その扉を封じているオーブに手を翳すだけでよかったはずだ。


ギィ…


「おー、よしよし。開いたな」


扉が重々しい音を立てて開いた。



〜扉の開錠を確認しました〜

〜ボス部屋内にいる間、アイテムを全て没収します〜


扉が開くと共に、頭の中にいつぞやのアナウンスが流れた。


裏ボス部屋では、アイテムは使うことが出来ない。


メインストーリーの生と死の剣も、当然ここでは使えない。


自分の体と、それから覚えた魔法や加護、もしくは呪いのみで戦わなくてはならないのだ。


「行くぞ…」


俺は扉の先の暗闇に足を踏み出していく。


ゴトン…


俺の背後で扉が閉まった。


裏ボスの部屋は、一度入るとボスを倒すまで出れない。


ボスに負けた場合は、デスペナルティを食らった上で扉の前にリスポンするわけだが…


「リスポンとかないし…ちょっと緊張するな」


今の俺はゲームをプレイしているわけではない。


実際の生きた人間として、ここに立っている。


万が一ヒュドラに負けた場合に、そこにあるのは死のみだ。


だから流石に少しは緊張する。


「まぁレベル差があると思うし、流石に大丈夫だとは思うが…」


緊張を紛らわそうと自分に言い聞かせるようにそんな呟きを漏らした矢先。


『グルルルルル…』


「出たな」


暗闇から唸り声が聞こえると共に、はるか頭上でいくつもの目が光り出した。


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