第38話
ヒュドラ。
全長三十メートルの多頭竜。
かつて王都を襲い、この地下に封印されたらしい。
裏ボスの中では、あまり強い方ではない。
再生能力は随一であるため、舐めてかかることは出来ない。
ボッボッボッボッ…
壁の松明が灯って周囲が明るくなる。
『グギャァアアアアアアアア!!!』
ヒュドラの姿が露わになり、つんざくような咆哮が空気を震わせた。
裏ボス戦スタートだ。
『グギャァアアアアアア!!!』
ヒュドラが繰り返し咆哮する。
この咆哮には麻痺効果があり、ヒュドラよりレベルが低いと一定時間その動きを縛られてしまうのだが……もちろん俺のレベルはカンストしておりヒュドラより高いので効果はない。
「ふんっ…!」
ヒュドラの尻尾による攻撃を躱した俺は、懐に入り込み、それから跳躍した。
レベル999の身体能力による跳躍力は凄まじい。
俺はヒュドラの頭の高さまで、軽く到達した。
「オラァ!!」
目の前にあったヒュドラの頭の一つに思いっきりパンチを放つ。
グシャ!!
『グギャァアアアアアア!?!?』
一撃で頭を一つ潰されたヒュドラが悲鳴を上げてのたうち回る。
他の頭が潰された頭を根本から噛みちぎり、トカゲの尻尾切りのように捨てた。
そして千切れた部分からぬっと新しい頭が生えてくる。
「相変わらずの回復力だな」
俺はボソッとつぶやいた。
これがヒュドラの真骨頂だ。
頭を一つ潰されても、一瞬にして回復してしまう。
回復力は裏ボスの中では随一だ。
では、何か対策があるのかというと、皆無だ。
回復力が尽きるまで、とにかく頭を潰し続けるしかない。
「面倒だが……やるしかないよな」
俺に潰された頭を完全に回復させたヒュドラが体を回転させて尻尾による攻撃を行う。
バァン!!
『…ッ!?』
俺は迫ってきたヒュドラの尻尾をガシッと掴んだ。
そしてそのまま左右に振り回す。
ズゥウウン!
バァアアアン!!
ドガァアアアン!!
『グギャァアアアアアアア!?!?』
巨体を振り回され、体をめったうちにされたヒュドラが悲鳴をあげる。
俺が尻尾を離したときには、壁に何度も激突したおかげで、ヒュドラの頭が三つほど潰れていた。
『グゥウウウ…』
ヒュドラが苦しげにうめき、起き上がる。
潰れた頭がすぐに回復を始める。
「隙だらけだぞ」
『グギャァアアアアアア!?!?』
律儀に回復を待ってやる義理はない。
俺は回復をするためにヒュドラの動きが止まっている隙を狙って、他の頭を攻撃する。
そうして俺はまるでハメ技攻撃のようにして、ヒュドラを追い詰め、回復力を削っていったのだった。
それから半時間後。
「ふぅ…ようやくか」
俺は九つの頭全てを潰されたヒュドラの死体を前にして、汗を拭っていた。
どうやらようやくヒュドラの回復力が尽きたようだ。
首を失った巨体はピクリとも動かず、沈黙している。
ヒュドラの封印されていた裏ボス部屋には、あちこちにヒュドラが切り捨てが首が転がっていた。
「裏ボス一体目攻略、か…」
実際に自分の命をかけ、体を動かしたからか、ゲームの時とは達成感がまるで違う。
俺は心地よい達成感に包まれながら、少し荒くなった息を整える。
パンパカパーン!!
〜おめでとうございます〜
〜ヒュドラの討伐を確認しました〜
〜経験値50万を獲得しました〜
〜アイテムがドロップしました〜
唐突に脳内で響くファンファーレ。
どうやらヒュドラ討伐に際して、アイテムがドロップしたらしい。
どれどれ…?
俺は自らのステータスを確認する。
===================
名前:グレン
職業:村人
年齢:12歳
レベル:999
攻撃:100890
防御:101200
敏捷:100340
魔力:100040
スキル:なし
直近獲得経験値:500000
加護:<妖精の加護>
アイテム:<生と死の剣><勇者の剣><風の指輪><転移結晶>←NEW!
次のレベルまでの経験値:0(レベル上限)
===================
「おお…!!転移結晶か!!そうだった。ヒュドラのドロップアイテムはこれだったな!」
アイテム欄に新しいアイテムが追加されていた。
転移結晶。
ヒュドラ討伐によって、これまた便利アイテムがドロップしたようだ。
「使い切りだけど…いざってときに役に立つからな」
転移結晶はたった一度入り使える転移を可能にする結晶だ。
砕いて使えば、自分とその周囲にいる何人かを、一瞬にして、離れた場所まで移動させることができる。
緊急時に役立つ、強アイテムだ。
…転移先に選べるのは一度訪れたことがある場所のみ、という制限はあるが。
「さて…ドロップアイテムももらったし…帰るか」
あまり長居して、ボス部屋にいるところを誰かに見られたら大変だ。
俺は駆け足で元きた道を戻って、王城へ戻ったのだった。
「た、大変だぁあああああ!!!」
「大地震だあぁああああ!!!」
「この世の終わりだぁああああ!!!」
裏ボス部屋から王城に戻ると、大変な大騒ぎになっていた。
青ざめた人々が、悲鳴を上げながら右往左往している。
「え…」
なんだなんだ?
何事なんだ?
「あっ…グレン!?どこにいたの!?」
「あ、アンナ…よう」
アンナが駆け寄ってきた。
「大丈夫!?怪我はない!?」
「お、おう…一体これはなんの騒ぎだ…?」
「なんのって…さっきの揺れだよ…!!王城全体がぐらぐら揺れて…みんな、大地震だって慌てだしちゃって…」
「揺れ……?」
俺がヒュドラと戦っている時は何も感じなかったが…って、あ。
「やべ…」
もしかして俺が王城の地下に封印されいてたヒュドラと戦っていたから、その振動が地上に伝わって…?
「下から何度も低い振動が伝わってきて…まるで王城の下に生き物でもいるような…」
「…」
「ぐ、グレン…原因はなんだと思う…?」
「さ、さぁな…」
「とにかく怪我がなくてよかった…も、もう揺れは治ったみたいだね」
「…そ、そうだな」
「…あれ?グレン…なんか顔が白いよ…?」
「き、気のせいじゃないか?」
「あはは…そんなに怖かったんだ…私もだから安心して。恥ずかしくないよ」
「…お、おう」
俺は苦笑いを浮かべながら、内心バレなかったことに安堵していたのだった。
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