第32話


「グレン…!!アレルが…!!アレルが…!」


「アンナ…?どうかしたのか?」


「アレルが目を覚ましたの…!!」


「ほ、本当か!?」


翌朝。


朝食を食べていた俺の元に、アンナが駆け込んできた。


嬉しげにアレルの無事を伝えてくる。


「嘘みたい…!!解毒の処置はとられなかったのに…!!みんな、神様がお救いくださったって…!」


「英雄の豪運は伊達じゃなかったってことか…ともかく見に行こう」


「うん…!」


俺は驚く演技をしながら、アンナと共にアレルの様子を見に行く。


「本当によかった…!」


「お目覚めになられたのですね、勇者様…!」


「ご無事で何よりです…勇者様…!!」


「ああ…もうこの世界は終わったと、私はそう思いました…!!」


医務室に出向いてみると、人々がアレルを取り囲んでその無事を祝っていた。


「いやぁ…ははは…お騒がせしました…」


アレルはベッドの上に寝ながら頭をかいている。


「すっかり元気そうだな…本当によかった…」


「そう、だね…荒れるが死んじゃったかと…」


アンナが元気そうなアレルを見て、ほっと胸を撫で下ろす。


「あれが勇者様なのですね…なんだかあまり強そうに見えません…」


「ん…?」


アレルを囲む人々に混じって、フードを被った小柄な人物を見つけた。


あれはおそらく…


「ちょっといいですか」


「え…あ…!グレン!!」


俺を見たその人物……第二王女のクレアが驚きに目を丸くする。


「しーっ…周りに王女だとバレてしまいますよ」


「…っ」


慌てて口をつぐむ王女。


「ぐ、グレン…こんなところで出会えて…嬉しいです…その、お話があるのですが…」


「わかってますよ。俺は部屋にいますので」


「…!」


王女の瞳が嬉しげに輝く。


俺は王女のそばから離れて、そのまま医務室の出口に向かう。


「グレン?」


「俺は部屋に戻る。アレルは元気そうだしな」


「あ、うん…私はもう少しアレルのそばにいるね?」


「ああ。そうしてやってくれ」


俺はアレルのことをアンナに任せて自分の部屋に戻ったのだった。




俺が自室に戻ってからしばらく、扉をコンコンとノックする音がした。


「待ってましたよ、クレア王女」


俺は扉をあけて、中にフードを被ったクレア王女を招き入れる。


クレア王女は周囲を確認した後、さっと俺の部屋の中に入ってきた。


「ふぅ…なんとかバレずにここまでこれました…」


クレア王女はフードを脱いで一息ついた。


「勇者様がお倒れになったと聞いて大丈夫かと心配したのですが…元気そうで何よりです」


「ええ、そうですね。俺もあいつに死なれたら困ります。これだけじゃなくて、この国中の人々全てが、ですけど」


「そうですね」


クレアは頷いてから、ちらちらと俺の顔を見出した。


「そ、その…グレン…?私がここにきたのは…」


「わかってますよ。また城の外に出たいのですよね?」


俺がそういうと、王女は恥ずかしそうに頷いた。


「わがままな女だと思わないでください…私だって我慢したいんです…でも…この間あなたに外に連れ出してもらった時のことが忘れられず…また…できたらご一緒にと…」


「別にいいですよ」


「…!!」


王女の瞳が輝いた。


「いいのですか!?」


「ええ」


「やったっ!!」


子供のようにはしゃぐ王女。


「でしたら明日にでも…」


「しかし、条件があります」


「条件…?」


「はい」


「なんですか…?その、私に出来ることならなんでも…」


「難しいことじゃありません。とある人物に言伝を頼みたいんです」


アレルに毒殺を仕掛けた連中を炙り出す。


そのために俺は第二王女であり、城内において発言権のあるクレアを利用するつもりだった。

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