第20話


「さて…せっかくだからもう一つ行っとくか」


赤毛の少女が去った後、俺は背後の巨大樹を振り返った。


この巨大樹の付近で起こるイベントはあれだけではない。


もう一つ、かなり重要なイベントがある。


だが、このイベントを発生させるのはかなり至難の業だ。


初見ではまず気づかない。


俺も自分では気づけず、掲示板を見て初めて気づいたからな。


いわゆる隠し要素的な部類に該当するだろう。


「よっと…」


巨大樹の根元に俺は腰を下ろす。


その隠し要素的イベントを起こす条件は、一定時間、この巨大樹の根元に座り込むことだ。


数分間ではダメだ。


少なくとも半時間以上は座っていなければいけない。


「…」


俺は巨大樹の根元に腰を下ろして、体を休める。


涼しげな風が草原地帯を駆け抜け、青々と生い茂る草を揺らしている様を眺めていると、不意に背後から声が聞こえた。


「こんにちは」


「…!」


振り返る。


透明の、小さな小指サイズほどの人間が俺の頭のすぐ近くを飛んでいた。


どうやらイベントが発生したようだな。


「驚かないで。悪いことはしないから」


「だ、誰だ…!?」


俺はその小さな透明の羽のついた生物の正体を知っているが、あえて驚いて見せる。


空中をとぶ小さな少女は言った。


「私はこの巨大樹を守る妖精。普通の人には見えないの」


「よ、妖精…?」


「そう」


妖精族。


主に古い建物や、樹木などに宿り、滅多に人には姿を見せない。


大きさは大人の指一本分程度と非常に小さく、たまに人間を迷わせたり揶揄ったりと悪戯ずきの性格だ。


「妖精が俺になんのようだ?」


「あなたとお話がしたいと思って。この木の近くにこんなに長い間いる人は滅多にいないから」


妖精は宿った物からあまり離れられない。


ゆえに、自分の宿るものに近づいてくる人間に、興味津々で話しかけたりする妖精も多い。


このイベントは、巨大樹の近くに一定時間いることで発生し、現れた妖精と会話をして、最終的に妖精から役に立つ加護を受け取るという内容なのだ。


「お話…?」


「あなた…王都からきたんでしょう?」


妖精が遠くに見える王都を指差していった。


「そうだが?」


「聞かせて。王都ってどんなところなの?」


「ええと…そうだな…」


人間の営みに興味がある妖精に、俺は優しく丁寧に王都のことを教える。


妖精は非常に繊細な生き物だ。


俺は焦ったり、ましてや怒ったりせず、あれこれ質問してくる妖精に優しく対応した。


十分が経過する頃には、妖精はすっかり期限を良くしてくれた。


「へぇえ…そうなんだぁ…人間の住む街って素敵なところなんだね」


「俺の知ってることはこのぐらいだな」


「ありがとう!!お話しできて本当に楽しかった!」


俺の肩の上に座っていた妖精が、にっこりと笑ってお礼を言ってきた。


「お返しに……妖精の加護をあげるね!!」


俺の体が光に包まれる。


「よ、妖精の加護…?」


「うん。運気が上がるの。いいことあるかもよ?」


「そ、そうか…ありがとう」


「うん、こちらこそ…!またね!!」


妖精の姿がすぅっと消えた。


俺は立ち上がり、巨大樹から離れて王都を目指す。


草原地帯を歩きながら、自分のステータスを確認した。


===================


名前:グレン

職業:村人

年齢:12歳


レベル:999

攻撃:100890

防御:101200

敏捷:100340

魔力:100040


スキル:なし


直近獲得経験値:1000000


加護:<妖精の加護>


アイテム:<生と死の剣><勇者の剣><風の指輪>


次のレベルまでの経験値:0(レベル上限)


===================



「よし…加護が増えているな」


たった今妖精からもらった加護がしっかりとステータスに反映されている。


妖精の加護の効果は、運気上昇。


物語を進めていく上で、運が上昇し、自分に都合のいいことが怒ったりする。


地味だが、しかしかなり役に立つ加護だ。


「…薬草に、体力回復の実、それから妖精の加護、か。冒険者登録も済ませたし、今日の収穫はかなり多いな」


もう時期日暮れだ。


王都に辿り着く頃には、夕刻になっているだろう。


冒険者ギルドに戻って集めた薬草を新鮮なうちに換金して……その後は流石に城に戻ろう。


夜はぐっすり寝て疲れをとって、明日からまたイベント回収の日々だな。


…そういや放置したアレルとアンナは大丈夫だろうか?


勝手に城を抜け出したりしたけど、俺は勇者じゃないし、別に大騒ぎになっていたりとかはしないよな…?

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