第9話


「「「…」」」


どうしてこうなった…


誰も喋らない無言の馬車の中、俺は心の中でつぶやいた。


俺は現在、勇者を迎えるために王都から派遣されてきた使者団の馬車に乗っている。


同乗しているのはアレルとアンナ、そしてお告げの巫女。


この馬車には本来、アレルとお告げの巫女2人だけが乗る予定だったのだろうが、なぜかアレルが俺とアンナが一緒でなくては王都に行かないと言い出した。


まさかアレルがそんなことを言い出すとは思わなかった。


使者団たちは、なんとしてでもアレルを王都に連れていかなくてはいけないため、渋々俺とアンナの同行を了承した。


両親のいない俺とアンナを止める者は誰もおらず、結果として俺は今、こうして王都行きの馬車に揺られている。


「なんかごめんな。お前たち2人を無理やり連れてきてしまって……俺、いきなり勇者だとか言われて、一人で王都に行くのが不安で…本当にすまん」


今更ながらアレルがそんな謝罪を口にする。


「もしかして2人は村に残りたかったか…?なんだったら今から…」


「俺は別に構わないぞ」


申し訳なさそうにしているアレルに、俺はそう言った。


驚きはしたが、実際アレルについて王都に行くのはかなり面白いかもしれないしな。


どのみち俺はあの村に留まるつもりはなかった。


あそこから出られるのならこういう形でも別に構わない。


「私は3人一緒なら…いいかな」


アンナにも特に不満はないようだった。


俺の隣に座り、相変わらず俺の腕に抱きつきながらそんなことを言う。


「2人は…ずいぶん仲良くなったな」


俺の腕に抱きついているアンナを見たアレルが、ちょっと悲しそうにそういった。


「まぁ…当然か…俺は卑怯者だからな…はは…」


窓の外を見て自重気味に笑うアレル。


「…」


アンナは何も言わない。


アレルにあまり興味がないようだった。


「…」


俺は何かアレルに言ってやろうとしたが、特にいい言葉が思いつかない。


結果として馬車内の空気がまた重苦しくなる。


「ええと…」


たまりかねたようにお告げの巫女が口を開いた。


「お二人には……勇者アレルと共に王城へと来てもらいます。そしておそらく……勇者と共に王城で生活してもらうことになると思います」


「王城…?私たちが…?」


アンナが驚いたように目を見開く。


「ええ。それが勇者の希望ですから」


お告げの巫女がアレルを見た。


アレルが俺たち2人を見て苦笑する。


「そういうことだ。これからもよろしくな?」


「お、おう…」


アレルに頷きを返しながら、俺は頭の中でこれから行くことになる王都や王城のマップを思い出すのだった。



ヒヒーン!!!


ガタン!!


始まりと終わりの村を囲む森の中の道を抜けて、開けた草原地帯を王都に向けて走っていた馬車が急停車した。


「な、なに…?」


「なんでしょう…?」


アンナが驚いて俺に抱きつき、お告げの巫女が首を傾げる。


「モンスターにでも遭遇したのか?」


アレルが馬車の外を見ながらそういった。


「…あ」


俺は今更になって、重要なことを思い出す。


完全に失念していた。


そうだ。


勇者アレルが『始まりと終わりの村』から使者団と共に王都へ向かう途中……とあるイベントが起こる。


それは魔族による襲撃。


魔王復活を企む魔族たちが、勇者アレルを殺すためにこの馬車を襲うのだ。


『出てこい!!人間ども!!』


外から低くしゃがれた声が聞こえてくる。


「ひっ!?」


「な、なんだ…!?」


アレルとアンナが聞こえてきた声にびくつくなか、お告げの巫女が言った。


「外に出て状況を確認しましょう」


俺たちはお告げの巫女に従い、馬車の外に出る。


「あ…!」


「うお…!?」


「こ、これは…」


「…(やぱりそうだよな)」


そこに広がっていた光景に、俺以外の3人が驚き、完全に予想通りのことが起こっていた俺は、心の中でため息を吐いた。


もっと早めにこのイベントの存在を思い出せば回避できたかもしれないのに。


…馬車の周りを固めていた騎士たちが全滅していた。


全員が死体となって地面に転がっている。


また馬車を操っていた御者も、御者台の上で死んでいた。


『お…?出てきたなぁ…ククク…』


馬車から出てきた俺たちにゆっくりと近づいてくるのは、体長三メートルほどの人型の怪物だ。


筋骨隆々で、全身が紫色。


魔族。


『世界の終わりの物語』において魔王復活を目論む個体として最強の種族である。


『どいつが勇者だぁ…?教えろ…俺の目的は勇者を殺すことだからなぁ…ククク…教えねぇと4人とも殺すぞ…?』


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