第5話
声の聞こえてきた方向に向かって俺は全力で走る。
すでに村にはモンスターの大群の大部分が入り込み、住人たちは悲鳴をあげて逃げ惑っていた。
混沌状態の中を進んでいくと、向こう側から誰かが走ってきた。
「うわぁあああああああ!?!?」
アレルだった。
いつもの雄々しい雰囲気はどこにもなく、涙と鼻水
を垂らして全速力で俺が来た方向へと逃げていく。
「…っ…遅かったか…!」
アレルが逃げた。
ということはつまり…
「すでにアンナがアレルを庇うイベントが起こったってことか…!!」
『世界の終わりの物語』の序盤で、アレルの故郷の村『始まりと終わりの村』がモンスターの大群に襲われる。
その時、アレルとアンナは一緒に逃げている際にモンスターに囲まれて、そこでアンナが自らを犠牲にアレルを庇うのだ。
「アレル…!!私のことはいいから逃げて…!」
アレルは恐怖ゆえ、アンナを置き去りにして逃げてしまう。
結果としてアンナは死に、アレルは助かるのだが、アンナを見捨てたことをアレルはその後一生後悔することになるのだ。
「アンナ…!!どこだ…!?」
俺はアレルが走ってきた方向へ向かって進む。
すると、地面に血だらけになった少女が倒れていた。
アンナだ。
「アンナっ…!!」
俺は急いでアンナに駆け寄った。
全身が血に染められたアンナは致命傷を受けていて、虫の息だった。
俺が近くによると、うっすらと目を開いてか細い声で言った。
「グレン……あ、アレルは…?」
「アレルは無事だ…!アンナ!しっかりしろ…!」
「よかった…グレン…も、逃げ、て…」
アンナが目を閉じる。
呼吸がだんだんと薄くなっていく。
このままではアンナは死んでしまうだろう。
「生と死の剣!!アンナを生き返らせろ!!」
まだ生きているのなら、アンナを甦らせることは可能だ。
俺は『生と死の剣』でアンナの腕に傷をつけ、それからその能力を発動する。
「ん…」
アンナが身じろぎをした。
致命傷を受けたその体が光に包まれ、傷口が塞がる。
ものの数秒で、アンナの傷は完全に完治した。
「よし…!」
クリア報酬、生と死の剣の威力に俺は満足する。
ゲーム内と能力が同じで助かった。
これでアンナが死ぬ運命は回避できたはずだ。
「すぅ…すぅ…」
アンナは昏睡状態にあるようだった。
「よっと…」
俺はアンナを担いで、その場から離れ、安全な場所を探して歩き出した。
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