第6話
「ここで少し眠っていてくれ」
『生と死の剣』で死ぬ間際だったアンナを救った俺は、アンナを安全な場所に横たえた。
アンナは全身血で汚れていたが、寝顔は安らかだった。
アンナを救い、運命を変えた。
アンナの顔を見ているとその実感が湧いてくる。
「実際、なんで正規ヒロインじゃないんだろうってぐらいビジュアルがいいんだよなぁ」
『世界の終わりの物語』をプレイし始めた時に、俺が1番最最初に好きになったキャラクターが、アンナだった。
栗毛で年齢にしては胸と尻の大きい美少女。
主人公のアレルを陰で支え、尽くすその献身的な姿に、俺はすぐに惹かれてしまった。
だから、序盤でアンナが死んでしまったのはかなりショックだった。
どうしてアンナが、攻略できるヒロインではないのかと制作を恨んだほどだ。
ゆえに…こうして死ぬ運命だったアンナを助けられただけでもこの世界に来た甲斐があったというものだ。
「さて…」
アンナを安全な物陰に隠した俺は、周囲を見渡した。
「うわぁああああああ!?!?」
「きゃぁああああああ!?!?」
聞こえてくる悲鳴と怒号。
戦闘能力を持たない村人たちは、モンスターと戦うことが出来ず、一方的に蹂躙されていく。
「生き残るのはアレルだけ、か…」
ゲームのシナリオ通りの運命をこの世界が歩むのだとしたら、この襲撃で生き残れるのはアレルだけのはずだった。
けれど俺がその運命を変えた。
死ぬ予定だったアンナと、自分自身を救った。
今の俺にはその力がある。
だとしたら…それを使わない手はないんじゃないか。
「まぁ、やれるだけやってみるか」
目の前で殺されていく村人たちを見殺しにするのも後味が悪い。
俺はひとまず倒せるだけのモンスターを倒し、救えるだけの村人を救うことにした。
『グォオオオオ…!!』
「邪魔だ」
近づいてきた熊のモンスター、ブラック・グリズリーを生と死の剣で薙ぎ払う。
斬ッ!!
『グォオオオオ!?!?』
ブラック・グリズリーの太い腕が斬撃によって切り裂かれた。
「死ね」
悲鳴をあげるブラック・グリズリーに俺は『生と死の剣』の能力を使う。
『…』
するとブラック・グリズリーが剣の能力によって絶命し、目から光を失って地面に倒れ伏した。
「よし…」
俺はブラック・グリズリーの死体を見下ろす。
ゲームプレイ時は、中盤以降にしか倒せなかったそこそこ強いブラック・グリズリーが、魔王を討伐し限界値まで上がったレベルと剣の能力によってこんなに簡単に倒すことができた。
こんなものじゃない。
今の俺ならまだまだやれる。
『グォオオオオ…!』
『ガルルルルル…!』
『グギャギャ!!ギャギャ!!』
『ギィギィ!!ギイィイイイイ!!』
ブラック・グリズリーを倒したことで、俺の元にあちこちから様々なモンスターが集まってくる。
「来いよ…!」
俺が手招きをして挑発すると、モンスターたちが奇声を発して俺の元に殺到してきた。
混沌とする村の中で、俺は存分に暴れ回る。
「退け!!」
『グギャッ!?』
「邪魔だ!」
『グォオオ!?』
生と死の剣を一振りするたびに斬撃が発生し、モンスターを切り裂いていく。
一撃を食らってもなお生き残ったしぶとい個体は、生と死の剣の能力で殺していく。
「大丈夫か?おい、しっかりしろ」
「うぅ…」
また、死にかけている村人の治療も忘れない。
すでに死んでしまっている者を蘇らせることは出来ないが、生きてさえいればどのような致命傷でも『生と死の剣』の力で回復させることが出来る。
俺は地面に倒れている村人たちの中で生きている者を探し、治療していく。
大丈夫。
倒れているほとんどの村びとが意識を失いかける寸前だから、治療者が俺だということには気づいていないはずだ。
目についたモンスターを一掃し、出来る限り多くの村人を救う。
そしてその後は、俺も気絶したふりをしてそのへんで寝ていればいい。
何か聞かれても全力で惚けよう。
幸い今は夜で、視界も狭まっているだろうから、俺がバッタバッタモンスターを薙ぎ倒したり、致命傷を負った村人を癒したりしているところは今の所誰にも見られていないはず…多分。
「さて、次だ」
また1人、村人の傷を完治させた俺は、モンスターを倒しながら新たな救える村人を探すのだった。
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