第9話:僕たちのこれから

夏休み。

僕たちはただ集まって遊んでいるだけじゃない。


僕も莉里華りりかも大学進学を目標としているので夏期講習を受講している。

そんな僕たちを珠衣しゅえさんと朱音あかねがサポートしてくれる。

主に珠衣さんが食事を。朱音が掃除、洗濯などの家事をやってくれる。

そのおかげで僕たちは勉強に集中できる。

一日の中で家事に割り当てる時間って慣れてないと大きな割合をしめると思う。


莉里華は友達がいないから僕のうちに入り浸っていても不思議はないけど、朱音や珠衣さんはどうなんだろう?

まあ、朱音は何日かに一度やってきて家事をしてくれて、僕たちの休憩時間に談笑して過ごしているんだから友達とは上手くやれているのだと思う。何かあれば相談してくれると信じている。

珠衣さんはずっと一緒にいる気がする。時々、用事があるみたいでうちに居ないことがあるけれど、それ以外はずっと一緒。受験勉強で解らないところがあれば丁寧に教えてくれる。

さすが現役大学生。成績はそこそこ良かったって言ってた。


そんな環境ができてしまったものだから、莉里華も珠衣さんも自分の部屋には時々変えるくらいで、僕の部屋にあるワードローブの中に自分の着替えや化粧品を置いている。


食費は僕、莉里華、珠衣さんで出し合っている。

朱音のお泊まりはそれ程多くないので、食費免除を話し合って決めた。

まあ、バイトをしていない僕らは全員、親の脛齧すねかじり何だけど。


朱音がいない日は勉強をして、空いた時間にお互いの進路について話をしたり、ラノベの話をしたりして家の中で過ごすことが多い。

時々、買い物に三人で出かける。その時の僕は当然荷物持ち。

朱音がいるときは元気な彼女の希望をまず聞いて、なければ、四人で話し合ってショッピングモールに行ったりプールにいったりもした。


夏休みはそんなふうに過ごした。


二学期も色々とイベントはあったが、僕と莉里華はいつもと同じ、与えられた事を淡々とこなし積極的に何かをする事はない。

朱音は体育祭で活躍したようだがそれ以外のイベントはイマイチだったらしい。

珠衣さんはサークルの友人に無理やり参加させられた旅行から戻って、少し体調を崩した。遠慮をする彼女に『一人暮らしなので、回復するまで僕の家で看病します』と説得して了承してもらった。回復するのに一週間程かかった。

その間に志望大学について相談をして僕は進路を決めた。


冬が来る頃になると莉里華と珠衣さんは、ほぼ、僕の家に泊まっていた。

親と同居している朱音だけが時々泊まるだけで、二人は同居状態になっていた。

彼女達は『寒い中、帰りたくない』そう言って僕の部屋に私物を増やしていた。

夜道は危ないので朱音が帰る時は僕が送るようにしていた。


そんなある日、朱音から『お兄さんは莉里華さんと珠衣さん、どちらが好きなんですか?』と聞かれた。

ドキッとして朱音の顔を見ると真剣な表情で僕を見返してくる。


『二人には言わないでいて欲しいんだけど』

自分の気持ちを人に伝えることに慣れていない僕は朱音に断りを入れる。朱音は首を縦に小さく振り頷いてくれた。

『莉里華と珠衣さんは僕に対して好意を持ってくれてると思う。僕がそう思う理由は朱音から僕に向けられる感情が家族に向けられるもののように感じられたから』

朱音は頷いてくれた。やはり朱音からの感情は家族に対する。それを僕にも向けてくれている。

『ただ、僕は恋が分からないんだ。今までの関わりから三人のことはとても大事に思う。すごく特別な存在。この感情は家族に向けるものとも違っている気がする。志望大学を決め、この町を離れることになると考えた時、三人と離れることがとても寂しく思えた。でもこの思い、これは恋じゃないと思う』

『そう……そうですね。聞いた感じだと恋じゃないですね』

『本当はこの気持ちを二人にも伝えて、先に進んでいける恋をして欲しいと思う。だけど、僕の元を離れるかを決めるのは僕じゃない。本当は僕も三人とは離れていきたくない。僕に恋が分かれば、どちらかを受け入れることができるんだろうか?その時、選ばれなかった方はどうなるんだろう?そう思うと、僕は、その感情を受け入れることができないんだ』

『お兄さんはどちらかを選ぶことで、選ばれなかった方を傷つけると思っているんですね』

『そう、なのかな?』


多分、お兄さんは恋に気づき始めていて、二人から向けられる好意に戸惑っているのだろう。余計なことを言わず見守っている方がいいのかな?


『私からはなにも言いません。お兄さんが答えを見つけて下さい』


その話はここで終わり。あとは雑談をしながら朱音を送り届けた。

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