第10話:僕の恋

それから月日は流れ、明日、僕と莉里華りりかは高校を卒業する。


僕は県外の志望大学に合格した。

莉里華は珠衣しゅえさんの通っていた大学に合格した。

朱音あかねは三年生になる。入学当初に比べて学校にも馴染んでいる。

珠衣さんも今年卒業し、県外に就職が決まっている。


今年のバレンタインに莉里華と珠衣さんから僕は告白を受けた。

その返事は僕達の卒業式の日に伝えて欲しいと二人には言われた。


朱音を送っていったあの日、朱音に話しを聞いてもらってから僕は二人とのこれからについて考えるようになった。そこへ二人からの告白。

改めて僕は二人のことを考えた。


そして明日、僕は答えを出す。彼女達に返事をする。


卒業式の日、僕と莉里華は僕の家から登校した。

『ハル君と一緒に登校するのも今日で最後だね』

『高一からだけど、あっという間だったな』

『学校より、こうして四人で過ごせなくなることの方が寂しいなあ』

『莉里華は引っ越しはしないの?』

『珠衣さんちの方が大学に近いから、珠衣さんが出たらそこに移る予定』

『手伝いに行こうか?』

『でも、ハル君の引っ越しもあるでしょ』

『僕は、荷物少ないから』

『そうだね、今のハル君の部屋、三分の一は私たちの荷物だもんね』

『だろ』

学校が近づき二人、離れて登校しようとする僕の袖を莉里華が摘む。

『最後だし、一緒に行こう』

『そうだな』

三年間で初めて莉里華と並んで登校した。


教室に入ってから数人にそのことを聞かれたが、卒業式の為に講堂へ移動する時間になり追及を逃れた。


卒業式。

周りの級友たちは三年間を振り返り、涙を浮かべる者もいる。

僕はそれなりに楽しく過ごした学校生活の終わりよりも、この後の告白の返答に意識が向いている。

卒業式どころではない。

考え事をしているうちに卒業式は終わった。

最後のホームルームも終わり、みんなは『最後にカラオケ行こう!』なんて言っていたけど僕と莉里華は断りを入れて帰宅した。


家に帰ると珠衣さんが来ていて、僕の部屋で待っていた。

「「ただいま」」

「おかえり、卒業おめでとう」

僕達は三人でキッチンに立ち料理を始める。

唐揚げ、フライドポテト、サラダ、インディアンオムライスを作る。

インディアンオムライスか珠衣さんに最初に作ってもらった料理。


「ただいま。お兄さん、莉里華さん、卒業おめでとうございます」

料理を作っていると花束を二つ持った朱音がやって来た。


料理を食べ終え、これからの事を話し合う。

珠衣さんは来週には今の部屋から出て就職先に向かう。

その後その部屋へ莉里華が引っ越しをする。

僕は再来週に一度引っ越し先に行くことになっている。月末には向こうに行く。


「私だけ取り残された気分です」

ポソっとつぶやいた朱音の頭を撫でてやる。朱音もだいぶ女の子っぽくなっていて今まではと言っていたのが今では

学校でも取り繕わずに過ごせているようで、安心してこの町を離れられそうだ。それに、

「僕と珠衣さんはこの町を離れるけど莉里華は残るし、纏まった休みには戻って来るよ」

「絶対ですよ」

「「うん」」


話に区切りがついた今、僕は返事を切り出す事にした。

心臓が口から出そうとはこういうことか。


「ふ、二人とも、聞いてほしい」

緊張にどもってしまったが、三人は僕の方に向き直ってくれた。

緊張している僕に対して莉里華と珠衣さんは穏やかな表情を向けてくれ、朱音は『頑張れ』と口パクで声援を送ってくれる。


「ずっと考えていた。それで僕の答えなんだけど、莉里華と珠衣さんの気持ちは本当に嬉しいし、僕もずっと一緒にいたいと思っている。でも、彼女という関係は一人を選ばないといけない。本当は僕なんかが選ぶ立場になっていることに引け目があるけど」

喉が渇きコップの中に半分ほど残っていたお茶を一息に飲み干す。

「僕が恋人として一緒にいたいと思ったのは珠衣さん、貴方です」


珠衣さんは涙をこぼして僕を見つめる。

「遥希くん……」


「やっぱり、そうなったか……」

莉里華は呟き、唇を噛み締めている。

「莉里華のことは好きなんだけど、僕のこの感情は多分なんだ。それでもよければ、僕はこれからも莉里華の友達でいたい。莉里華が辛いなら仕方ないけど」

「私、もっと良い女になってハル君のこと振り向かせて見せる。だから、変に意識せず、このままでいて欲しい。珠衣さんのことも、朱音のことも好きだから」

莉里華は涙を拭い珠衣さんに向き直る。

「珠衣さん。私はハル君のことを諦めることはできません。いつか振り向かせたいと思っています。それでもよければこれまで通りに付き合って下さい」

「莉里華ちゃん、私も、もっと遥希くんに好きになってもらえるように頑張る。それに、私もみんなのことが好き。これまで通り仲良くしたい」

そう言って二人が笑い合うのを見て僕と朱音も笑みをこぼした。


「莉里華さん、珠衣さん。私の二人のお姉ちゃん。どっちも幸せになってほしい。お兄ちゃん、ちゃんと恋がわかったんだね。良かった……」

朱音の目にも涙が滲んでいる。


「改めて、珠衣さん、貴方のことが好きです。僕と交際して下さい」

「はい、遥希くん。よろしく、お願いします」

また、珠衣さんは涙をこぼす。けれどこの涙は喜びの涙。


落ち着いた珠衣さんは僕の元にやってきて、

「珠衣さんじゃなくて、これからは、珠衣って呼んでください」

「しゅ、珠衣…これでい」

最後まで言う前に、僕の唇に、珠衣の唇が重なる。


「遥希くん、大好きです」

「僕も大好きです」

今度は僕から唇を重ねた。


恋がわからなかった僕は、三人の女性と三年間を過ごし、恋を知った。

今、僕が珠衣に抱いているこの感情は恋人への


恋がわからなかった僕は、もういない。

僕は恋を知った。

これからは大事な人と歩んでいく。

____________________________________


【あとがき】

この後、遥希と珠衣は同じ街に引っ越していきます。

順調にいけば二人は同棲して、ゆくゆくは結婚するんでしょう。

残された莉里華はどう行動するのかな?

朱音はどういう風に成長していくのかな?

それは彼等に任せます。


十話完結で話をまとめる事を決めて書き始めたこの話でした。

最初からある程度、展開が飛ぶことも意識して書いていましたが急な展開と感じられたかも知れません。

それでも、最後までお読み頂き有難うございます。

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僕は、恋がわからない 鷺島 馨 @melshea

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