第2話
名門「晏家」の長姫として生まれ、美貌も才も備えた璃夏は、十三歳で皇太子妃となった。
皇太子の藍芳(ランファン)は十五歳、容姿端麗で文武に優れ、聡明で、賢明な王となる資質を十分に持っていた。
だが、母親の身分が低く、後ろ楯が弱い。
王宮でも市井でも絶大な人気のあった彼女を嫁がせることで、少々脆弱な皇太子の地盤を固めたいという政治的な目論見もあったろう。
璃夏の父は公正な人物で、娘を王室に嫁がせることに難色を示しながらも、王の真摯な懇願に渋々と頷いた。
後にそれは過ちだったと、深く後悔することになる。
璃夏と皇太子は幼い頃から見知った相手で、政略結婚ではあったけれど、互いを尊敬し、支え合い、生きてゆけると思っていた。
その思いに陰りが射したのは、王が病に倒れてからだ。
彼の不幸は、父が偉大すぎたことだろう。
器の大きさ、人的魅力、先見の明、何れをとっても敵うものはない。
長年蓄積された劣等感は彼の中に「歪み」を生み、抑圧されてきた自分を解放するように、彼は横暴を奮うようになった。
父の側近であった者達を遠ざけ、自分の言に従う者達を側に置いた。
排除された者達の中には、璃夏の父もいた。
璃夏は懸命に、それは過ちであると説いた。
が、それも煩わしかったのだろう、彼は璃夏を遠ざけ、新たな側室を迎えた。
何とか保っていた均衡が崩れたのはこの頃だ。
「紅燕(ホン.イェン)」
幼い顔立ちとは対称的な肉感的な肢体、溢れる色香は、女の璃夏からしても顔を赤らめるほどだった。
甘ったるい話し方は正直苦手だが、彼女を側室に迎えることに「否」という気はない。
子をなすことは王室の義務で、側室を持つのも義務のひとつだ。
それでも紅燕の振る舞いは目に余った。
藍芳の寵愛をいいことに、高価な衣や宝飾品をねだり、国庫を浪費した。些細な粗相で後宮の侍女を罰し、皇太子は紅燕の寝所に入り浸る時間が増えた。
流石に見かねた宰相が苦言を呈すると、藍芳は彼を「不敬だ」と言って牢に放り込んだ。
ここに至り、王宮は一気に緊張感を高めた。
「王派」の者達が皇太子の廃位を企てたのだ。
「王の意向でもあった」とも伝えられるが、真実は分からない。
ただ、その中には璃夏の父もいた。
「皇太子派」は一気に浮き足だったが、運は藍芳に味方した。
王が死んだのだ。
死因は不明。
これにより、王派の者達は捕えられ、翌朝処刑された。
謀反の罪は重い、粛清は苛烈で、一族郎党が捕えられ死罪となった。
璃夏は既に母もないが、父や幼い弟、家族同然に親しい家人達を思えば涙が止まらなかった。
「王の后」であった璃夏は辛うじて殺されなかったのものの、その扱いは酷いものだった。
光の射さない地下牢に放り込まれ、食事は薄い粥が日に一度運ばれてくるだけ。
藍芳が牢の前に現れたのは、三日後のことだった。
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