復讐の王妃

犀夏

第1話


去来するのは恐怖よりも、「漸く解放される」という安堵だった。

高い城壁から突き出た板の上に立ち、璃夏(リーシア)は天を仰ぐ。

淡い色の空に吹く風は冬の冷たさを纒い、短く切り落とされた髪を激しくなぶる。

硬くなった足裏は、もはや「冷たい」という感覚すら失っていた。


「どうだ、璃夏? 罪を認めて赦しをこうか?」


皇帝という身分に相応しい衣を纏った男は、城壁の上に設えた席に腰掛け、強風に抗うように叫ぶ。

鳳凰の簪を挿した女を傍らに置き、断罪の言葉を口にする姿は、滑稽すぎて笑えた。

「どの口が言うのだろうか」と。

璃夏は振り返り、冷笑を浮かべて応えた。


「否」


男の表情が、薄笑いから驚愕と怒り変わる。


「ーー落とせっ」


一瞬の浮遊感、首にかかる衝撃と共に意識が途切れた。





号令と共に女の身体が城壁に吊るされると、

歓声とも悲鳴とも思える声が上がった。


王妃死去、享年十七歳。

希代の「悪女」と畏れられ、蔑まれた「晏璃夏(イェン.リーシア)」の、それが最期だった。


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