3-5
「プルちゃん、フーマ! おめでとう! 凄いレースだったよ!」
「いやー。恐れ入ったよ。雪崩が起きた時は焦ったけど、結果は三馬身差の圧勝だね!」
「よくやってくれたよ、坊や。さすがのアタシも今日の騎乗には文句のつけようがないね」
装鞍所に戻った俺とプルーフはチームメイトの祝福の声に出迎えられた。
俺はそれを受けて久々に誇らしい気持ちになれた。
何よりも嬉しいのは皆の努力に応えられたことだ。もちろん一番頑張ってくれたのはプルーフ自身だが、今日のレースに向けてマリアもヘカテもルナも、それぞれの関わり方で準備を積み重ねて来た。まさにチームで勝ち取った勝利だと思う。
だが、そんな中でも今回の最大の功労者はやはり彼だろう。
「ありがとう、ルドルフ。あなたの装蹄に助けられたよ」
「……ふん。別に礼を言われるようなことではない。だがまあ一応受け取っておこう」
「読んでいたのかい? あの状況になることを」
「……ある程度はな。グスタフはあれと似たような技を昔よくやっていた」
「そうか……」
兄のことをよく知っているからこその読みだったのか。だとすればやはり二人が仲違いしたままでいて欲しくはないと思う。
そんなことを思ったちょうどその時、図ったかのように下馬したグスタフがルドルフの元にやってきた。
「まさかお前の馬に負けるとはな、ルドルフ」
「……ふん。言っただろう。レースを甘く見るなと」
「はん! 気に喰わんが今回は俺の負けを認めてやる。だが次は必ず俺が勝つ」
「……次だと?」
兄から出た想定外の言葉にルドルフは珍しく目を見開いて驚いた。
「ああ、そうだ。負けたままでは終われん。だから俺はユニコーンダービーを目指すことにした。そう言えば、貴様もユニコーンダービーを目指すなどと言っていたな。となるといつかまた戦うこともあるだろう。その時は俺が勝つであろうから覚悟しておくのだな」
グスタフは吐き捨てるように言って背を向けた。
「ふん。勝手に言っていろ」
ルドルフは不機嫌そうに兄の背中に毒づいたが、その口の端がわずかにほころんでいることを俺は見逃さなかった。
「……もし仮に、貴様の馬が俺を破り、ユニコーンダービーを優勝するようなことがあったなら。その時は改めて貴様を弟と認めてやってもいい」
グスタフは振り返りもせずにそんなことを呟くと、大股に歩いて去っていた。
「全く……。男兄弟ってやつはめんどくさいねえ」
「ほんと、素直じゃないよねー」
「二人共からかわないの!」
ルドルフを見てニヤニヤ笑いをしているマリアとヘカテをルナが窘めた。
「でも……。良かったね。ルドルフ」
「ふん。別に良いことなんぞないわい。厄介な競争相手が一人増えただけのことだ。しかしまあ、誰が相手であろうと儂の手掛けた馬を簡単に負けさせるつもりはないがな」
そう語ったルドルフの顔はいつも通りの無表情だったが、今までより少し朗らかに感じられた。
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