3-3
二日後、俺たち一行の姿は再びノルデンブルクの競馬場にあった。今日は目標のレースであるノルデンブルク賞典が開催される日だ。
最初の二戦と比べて大きなレースであるためか、大勢の観客が競馬場に詰めかけていた。俺は装鞍所で観客の熱気を感じ、久々の緊張と興奮を味わっていた。大レースの前はいつもこんな感覚になる。
「作戦内容は大丈夫かい、坊や?」
俺はマリアと共にレース前の最後のチェックを行っていた。隣ではルドルフがプルーフに蹄鉄を装着させている。ルナとヘカテは一足先に関係者席に移動済だ。
「問題ないよ。昨日打ち合わせた通りにやるさ」
「いい返事だね。今日は雪も収まってるし、馬場も思ったほど悪くなっちゃいない。プルーフにとってベストとまでは言えない環境だけど悪くはないね。後はアンタにかかってる。よろしく頼むよ、ジョッキー」
マリアはバシンと俺の背中を叩くと豪快に笑って去っていた。
プレッシャーはかかるがチームからの確かな信頼を感じる。
俺がやる気を新たにしながら準備運動をしていると、装蹄の作業をしているルドルフの元に、バイコーンに跨ったグスタフが近づいて来た。
「久しぶりだな、弟よ。相変わらず辛気臭い顔をしている」
「ああ。お前もいつも通りがさつそうな面だな、グスタフ」
ルドルフは作業の手を止め、馬上のグスタフと相対した。
「伝言は受け取ったな? 俺に負けたなら戦士としてハーフェンブルクに戻るのだぞ」
「ふん。確かに伝言は受け取ったが、お前のくだらん取り決めを了承した覚えはないぞ」
「なんだと!? この腰抜けめ。戦士としての気概すらなくしたか!」
グスタフが恐ろしい表情で凄んだが、ルドルフはどこ吹く風で言い返す。
「勝手に言っていろ。何にせよ、儂は戻るつもりはない。自分が装蹄した馬でユニコーンダービーを獲るのが今の儂の生きがいだ」
「はん! では好きにするがいい。その代わり俺はもう貴様を弟とは認めぬわ。その上でこのレースで貴様の馬を負かし、くだらん夢とやらを打ち砕いてくれる!」
「……威勢だけではレースは勝てん。素人の分際であまりユニコーンレースを舐めんことだな、グスタフよ」
「臆病者に何を言われても聞く耳持たぬ! 戦士の戦い方と言うものを見せつけてやる。覚悟せよ!」
グスタフは吐き捨てるように言うと肩をいからせながらコースへと向かって行った。
「……小僧、もう少し待てるか?」
兄の後ろ姿を睨みながらルドルフがボソリと言った。
「いいけど、どうかしたのか?」
「蹄鉄を別のものに変えることにした。打ち換える時間をくれ」
「……わかった」
レース開始時刻は迫っていたが、ここはルドルフの感覚に従おう。
俺が頷くとルドルフは手早く装蹄を施した。
「……これでよし。小僧、後は任せたぞ。路面が悪くなっている箇所もあるかもしれんが、それも踏まえて蹄鉄を選んでいる。だから足周りは気にせず思いっきりやってこい」
こちらを見つめるルドルフの表情はできることはやり切ったという自信に満ちていた。であればこちらも彼の仕事に応えられるよう全力を尽くすしかない。
「ああ。行ってくるよ」
ルドルフの眼差しに見送られながら、俺とプルーフは装鞍所を後にした。
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