中編
はぁ、こりゃまいった。
その手紙を読み終えた私の率直な感想はこうだった。
手紙の内容としては、同級生が皆に裏拍手をおこなっている事を知った送り主が、仕返しとしてクラス全員で裏拍手をするように計画する。しかし同級生はそれから徐々に学校に来なくなり、数か月後には自殺。それから送り主のところに度々その同級生の幽霊が現れるというものだった。
ホラー小説を書いていると、こういう類の手紙が届く事がある。真剣に助けを求めるものもあれば、次の小説のネタにどうですかなどというものまで様々だが、ほとんど気のせいかあからさまな作り話である。
そしてこの手紙はおそらく前者だった。私の見立てでは、幽霊の正体は送り主の罪悪感と思い込みの産物だ。この話が全て本当だったとしたら、自分の軽い仕返しで同級生が自ら命を絶ったというのはかなりショッキングな出来事だっただろう。その衝撃と話の中心にある裏拍手―—すなわち呪いが結びつき、自分を恨む同級生の幽霊という幻影が生まれてもおかしくはないはずだ。
もちろんその仕返しと自殺に因果関係が見出される可能性は限りなく低いし、彼が罰せられる事はまずないだろう。
だが真に難しいのはそこではない。
もし、山上君の幽霊なんて存在しませんと返したら彼は果たして納得するだろうか? 幽霊はいるけど隠れているんだとますます意固地になるだけだろう。では適当に話を合わせようか……いや、そんな事をしたら同級生の幻影がより存在感を増して彼を
だが手間を惜しまないのであれば、対処は存外簡単だ。思い込みで作られた幽霊なのだから、幽霊は消えたと思い込ませればいい。知り合いの霊能者に話を通し、適当に祓うふりをすれば幽霊はきれいさっぱり消え去るだろう。……その"手間"が大問題なのだが。
そういう事ができる知り合いは軒並み忙しいらしく、次に予定を空けられるのが、一番早い者で二か月後である。もし私が彼の立場だったとして、二か月待てと言われて待てるだろうか。いや、間違いなく待てない。
同調してもダメ、正直に言ってもダメ、かと言って返信をしないのは体裁的にも良くない。はてさてどうしたらよいものか。
そこまで思案した時、私の頭に一つの「案」が浮かんだ。
しばし筆をおき構想を練った私は、やがて以下のような返信を送った。
君がしたことはもちろん品の無いおこないですが、それで君を責める人はいないでしょう。山上君の幽霊が君のことを恨んでいるというのなら、彼と話して誤解を解けばいいんです。私が良い方法を教えます。まず昼間に近くの山のそばまで行ってください。山の近くに神社があるならそちらでも構いません。そうしたら山の天辺を向いて、手を合わせて目を閉じた後、心の中で山上君に謝るのです。それが終わったら、少しの塩を足元にまいてください。そうすれば山上君の幽霊にも君の気持ちが届くはずです。
当然ながら、こんな方法で実際に霊に気持ちが伝わるわけもない。だが、それっぽい事をやるのが重要なのだ。我ながら胡散臭いとは思うが、オカルト小説家という肩書きがそれを軽減してくれるだろう。何より下手に本格的な儀式を捏造してしまうと、思わぬ事故の元になってしまうかもしれない。
とにかく、これで山上君の幽霊とやらはいなくなるだろう。私は妙な達成感を味わいながら作業に戻ったのだった。
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