ノロイを鳴らす
白木錘角
前編
僕のクラスメイトに
山上君は背が低くて出っ歯で変な笑い方をします。あと声が小さくて髪から変な臭いもします。
それだけじゃありません。山上君は僕たちが遊んでいると睨みつけてくるんです。「なんだよ!」って言っても小声で何かぶつぶつ言いながら知らんぷりするだけです。それでしばらくするとまたこっちを睨みながらノートに何かを書いてニヤニヤしているんです。
そんなんだから山上君はみんなに嫌われていました。明るくて友達のいっぱいいる中村君でも山上君のことはさけているようでした。当然僕も嫌いでした。でも死んでほしいなんて思っていませんでした。本当です。信じてください。
ごめんなさい。話を戻します。
学校で地域について調べなさいっていう授業があったんです。地域の歴史とか、古いお店とか何でもいいので調べなさいって授業でした。それで最後にみんなの前で発表するんです。
僕は町の周りの山について調べて発表しました。発表が終わるとみんなが拍手する事になっています。それを教壇から見てたら、山上君が目に入ってきました。その時山上君は一番前の席に座っていたので小さくてもよく見えたんです。
山上君はノートに何か書いている時のように笑いながら、変な拍手をしていました。手の甲を合わせて拍手をしていたんです。
そう、裏拍手です。裏拍手は死んだ人がする拍手で、生きている人がすると相手を呪う行為になります。僕はそういう怖い話が好きで、ネットとかでよく見ていたのですぐ気づきました。
当然僕はムッとしました。山上君はふざけて変な事をするやつじゃないですし、あのニヤニヤは意味を分かってやっている顔でした。前々から嫌いでしたが、それが原因で山上君の事が「大」嫌いになりました。
それから、山上君の事を注意して見るようになりました。彼はみんなにあの裏拍手をしているようでした。例えば小野田さんがテストで百点を取った時とか、中村君が大会で優勝した時とか。拍手をするタイミングで、山上君は見つからないように手を下の方にやって裏拍手をしていました。
それを見て僕はますますムカつきました。山上君がみんなにさけられているのは自業自得なのです。なのに逆恨みでそんな事をやっているのは許せません。
この時、僕は1つ復讐計画を思いついていました。復讐とは言っても山上君を喧嘩でボコボコにするとかではありません。それをやったら僕が悪者になってしまいます。先生に言いつけるとかでもありません。知らなかった、わざとじゃなかったと山上君が適当に言い訳すればそれでおしまいだからです。でも、だったら逆にそれを利用してやればいいんです。
それを実行する前に、僕には確かめたい事がありました。復讐計画にそれが必要というわけではありませんでしたが、僕の最後の慈悲です。
山上君がいつものように遊んでいるクラスメイトを睨みつつノートを書いています。僕はその後ろにこっそり近寄り、そのノートの中身を覗き見ました。
―—中村
―—小野田
―—竹中
……そこにはクラスメイトの名前がずらずらと並んでいて、さらにその横には身の毛もよだつことがいくつもいくつも書いてありました。
気配を感じたのか、山上君がノートを閉じてこちらを見てきたため、僕はさも今、後ろを通りがかったような感じでやり過ごしましたが、心臓はまだバクバクいっていました。間違いない。あれは呪いのノートです。きっと山上君はあそこに書いてあることが実現しますようにと願いながら、いえ、呪いながら裏拍手をしていたに違いありません。
もしあれがただのノートだったら、僕はこの復讐計画を実行に移さないつもりでした。でも想像していたよりはるかにおぞましいものを見てしまった以上、もはや山上君相手に手加減をする気はありません。
僕はさっそく行動し始めました。その日から数日後に、またみんなの前で発表する授業があったのですが、それまでにクラス全員に協力してもらわないといけないからです。
といってもする事は多くありません。ただ一人一人に、ある事をしてくれとお願いするだけでいいのです。みんな元々山上君の事を嫌っていたためか、実にスムーズに事は進みました。
さて当日。山上君の発表順は一番最後でした。教壇に上がった山上君は、いつものように小さな声でぼそぼそと発表を始めます。一方の僕はと言えば、自分の計画の素晴らしさにニヤニヤとしていました。
そしてその瞬間がやってきます。山上君が発表を終え、先生がおきまりのほめ言葉と共に、みんなに拍手をするように言いました。
その言葉通り、僕たちは満面の笑みで拍手をしてあげました。ただし、手のひらではなく手の甲を打ち合わせて、です。
これが僕の考えた復讐計画です。裏拍手の意味を知っている山上君であれば、これは相当こたえることでしょう。もちろん品の良い行いではないので誰かが知っていたら止められる可能性もありましたが、クラスメイトは誰も裏拍手について知らず、見た感じ先生も気づいていないようでした。
クラス全員に裏拍手をされた山上君はと言えば、真っ青を通り越して真っ白な顔になっていました。フラフラと教壇から下りて、まるでゾンビのような足取りで席に戻っていきます。その動揺ぶりは、思わずこちらが心配になってしまう程でした。
でも山上君はそれだけの事をしたんです。本気で相手が死ねばいいと思って、裏拍手をしていたんです。ふざけ半分での裏拍手なんて、その仕返しと考えればやさしいくらいなんです。
それから山上君はあまり学校に来なくなり、たまに来ても幽霊のように暗い顔で授業を受けているだけでしたが、それでもこのいたずらが原因だとは誰も思っていませんでした。
山上君が学校にくる頻度が3日に1回になり、1週間に1回になり、2週間に1回になり……。そうして3か月ほど経った時のことでした。
山上君が死んだと知らされました。
車にはねられたそうです。先生の話ではまるで事故だったかのような口ぶりでしたが、その後すぐイジメ調査の紙が配られた事、そして両親の話から彼は自分で車道に飛び出して車にひかれた――つまり自殺だったと分かりました。
僕のせいなのでしょうか。裏拍手で呪いをかけている山上君に裏拍手をしたとしたら、それは呪いに呪いを返す、言ってみれば呪い返しです。クラス全員分の呪い返し。
でも僕以外のみんなは裏拍手の意味なんて知りませんでした。僕だってただ山上君を驚かせて反省させたかっただけで、死ねなんて思っていませんでした。呪いの効果なんて全くなくて、山上君が勝手に気を病んで自殺したのならそれこそ自業自得です。僕が悪いわけじゃない。
でも山上君が死んでからも彼が時々現れるんです。みんなが拍手している時に他の人には見えないようにひっそりと隠れて、あの真っ白な顔で裏拍手をしてくるんです。
最近は学校にもいかなくなりました。拍手が怖いんです。でもこうして家にいても、どこからか山上君がこちらを見ていそうで、手の甲を合わせるあの音が聞こえてきそうでずっとビクビクしています。
近所のお坊さんのところにも行きましたが、幽霊なんていないと言われました。でもきっとバレないように隠れているんです。山上君は僕を恨んで幽霊になったんです。
先生ならすごい霊能者の人を知っていると思います。少ないですけど貯金もあります。どうか僕を助けてください。
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