第7話 不完全な部分

「まあ……なんとなく」


「え!」と声を上げてしまったのは私。慌てて指先で口を塞いだ。


「変われそう?」


「……努力はします」


「ふふん。いいね。楽しみだ」


 そう笑うとシェフはおもむろに立ち上がってグラスを掲げた。



「それではみなさん。メリークリスマス!」



「「メリークリスマス! おつかれさまでーーーすっ!」」



 この瞬間が、最高。みんな、大好き。シャンティ・フレーズが、私は大好き。


 本当はここに那須さんとタケコさんもいたらもっとよかったけど……でもそうだったらこの仲のいい小野寺きょうだいは見られなかったかもしれないのか。


 運命って、不思議だ。


 ……あ、せりなちゃんのことも忘れてませんよ。



「ね、その……なんなの? 小野寺 兼定の『不完全な部分』とは」


 このままじゃ気になって寝られないもん。


 すがる私に小野寺くんは少しだけもったいぶってにやりと笑って、それからつぶやくようにして教えてくれた。


「……人嫌い、なとこ」


「人嫌い?」


「そう。人を好きになれ、ってことだろ。どっかの『あんみつちゃん』みたいに、誰にでもお節介できる、そういうのが良いヴァンドゥーズだから」


「お節介って!」

「ははん。でも……ありがとう。今回は」


 むむ。素直バージョン小野寺には調子が狂う。


「俺のは所詮ニセモノの営業スマイルだからね。それをシェフは見抜いて言ってたんだよ、『不完全』だって」


 なるほど……。そういうことだったのか。


「はあ。悔しい。たしかにそこだけはおまえに負けてる」


「『だけ』って」

「だけだろ」

「む。私だってこのクリスマスで成長したもん」

「へえ。どんなとこ」

「えっ……レジの早打ち、とか」

「ははん。あとは?」

「う……箱詰めのスピードアップ」

「ふうん。あとは?」

「クレーム対応」

「ほんとかよ」

「お、おもてなしの心は誰にも負けませんから!」


 すると小野寺くんはまた「はは」と笑って「ほんと、おもしろいな、あんた」とつぶやくように言ってから、ふわりと目を閉じて動かなくなってしまった。……え?


「お、小野寺くん? おーい」


 まさか限界突破? え、今、会話の途中だったよね!?


「寝かしといてやんな。死ぬよ、これ以上起きてたら」


 シェフがそう言うのでこのままここで少し寝かせることにした。


 すっかり気の抜けたイケメンの寝顔を眺める。死んだわけじゃないよね? 確認するとちゃんと息はあった。人間って限界が来るとこんな風になるんだ。すごい。


「頑張ってたもんね、こんな急きょだったのに」


 ゆうこさんがここぞとばかりに無防備な寝顔の鼻先をつんつんとつついて言う。ダメですよ、まあ今ならなにしても起きなさそうだけど。


「ま、初めてにしちゃ上出来」


 シェフはそう言うと「あー、俺ももうダメ」と大あくびをして涙をこぼした。


 私も眠いや。宴は早々にお開きとなって一同は解散した。なんたってクリスマスはまだ明日、25日もあるからね。みんなちゃんと出勤して来れるのかしら。


 考えている暇もなく、あっという間に朝が来る。

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