第6話 打ち上げ!

 昨日同様でありながら、全員が慣れていて作業もスムーズ。その上、昨日と大きく変わったことがひとつ。


「南美、スライス苺ちっさい。もっと大粒なの選んで」


「……はい!」


「あといたんでる所もっとちゃんと取って」

「あ……はい」


「あとちょっとさ、背中揉んでくんない」

「は……はあ? なんで!」


 小野寺きょうだいがなんと普通に会話をするようになっていた。わあ、なんだか私も嬉しい。微笑ましく眺めているとシェフも隣で微笑んでいた。


「俺ももうバキバキ。なら俺はあんみつちゃんに揉んでもらおうかな?」


「ゆうこさんに頼んでください」


「やってくれるわけないじゃんー」


 おかげで場の雰囲気はこの通り、昨日より更に和んでいて居心地がいい。


 小野寺くんももう余計な意地を張ったりしないから棘がなく、話していてなんだか楽しい。こんなこと思うのはもしかしたら初めてかもしれない。


「あんみつ」

「はい」

「ほれ」

「……んわ!」


 なにかと思えば苺を口に放り込まれた。


「おいひー」

「傷んでるやつ」

「んごおお!」


 まあこんな具合ですが。


 加えて明日25日の注文数は今日の半分ほどしかないので作業は昨日よりも格段に早く終わりを迎えた。


「っしゃあ終了ーーー!」


 シェフの雄叫びに南美ちゃんとともにびくりと肩を揺らして互いに笑い合った。


「終わったね」

「終わったぁー」


 なんだか妙な一体感というか、まさに、チーム、という感じだった。


「兼定、おつかれ!」

「おつかれす」


 シェフに労われてはにかむ小野寺くん。緊張が切れたのかその場にへなりとしゃがみ込んでしまった。


「だ、大丈夫?」

「…………んん。しにそう」


「みんな、休憩しましょ。晩ごはんあるから!」


 売り場の方からゆうこさんの声がして、そちらに向かってみると仮設のテーブルに美味しそうなピザやパスタが広げられていた。


 ん、これは。

 いつか見たマルゲリータ?


 そっとその箱を確認するとやっぱりタケコさんの転職先となるイタリアンのお店のロゴが入っていた。


「タケちゃんから差し入れ。『ほんとにすみませんでした(泣)』だって」


 ゆうこさんが苦笑いで言う。


「那須先輩からはないんすか。あの人が全ての根源っしょ」


 疲れ果てても小野寺節は健在らしい。いつもなら「やめなよ」と言うところだけど今日はそんなこともむしろ微笑ましい。


「ふふん。まあまあ兼定クン」


 言いながらシェフが持ってきたのは……。


「わ。ワインですか? それ」


 南美ちゃんが食いついた。え、お好きで?


「んん。結構イイやつだよ。那須くんなりにお詫びのつもりなんじゃない? はは」


 シェフに「やる?」とジェスチャーされてこくこくと頷く。ワイン好きとはまたお洒落なオトナだぁ、と未成年の私は小さくなる。


「あんみつちゃんはこっちね」


 ゆうこさんがグラスにリンゴジュースを注いでくれていた。むー。べつに悔しいわけじゃないけどさ。


「あ、俺もそれがいい」


 言いながら私の隣の席にどかりと疲労感満点の腰を降ろした。


「え? 小野寺くんは飲めるでしょ?」


 私が言うと俯き加減ではたはたと手を振って「むりむり」と言う。


「今酒なんか飲んだら百パー即寝。南美もほどほどにしてよ。潰れても俺は送らないから」


「ん、『送らない』……って?」


 一緒に住んでないってこと? 兄妹なのに? 訊ねると南美ちゃんが代わりに答えてくれた。


「兄は実家出てひとり暮らしなんです。しかも出てから一回も帰ってない親不孝息子」


「誰が帰るかよ。あんなクソじじいのいる家に」

「ほんと意地っ張りだよねー」


「ぷ」と噴いたのはシェフ。私じゃないですよ。


「兼定さ」


「……なんすか」


「もうわかってんでしょ? 自分の『不完全な部分』がなにか」









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