業務提供誘引販売

受講すると仕事が紹介されるスクール


【業務提供誘引取引とは】

 さて、今回お話したいのは「作家(ライター)になるための講座を受講すると仕事が紹介してもらえる」「登録料を払う事で仕事のあっせんがうけられる」といった「在宅ライタービジネス」について。


 こういった「仕事を紹介する代わりに何らかの金銭的負担のある取引」は「特定商取引法(特商法)」という法律で定めるところの「業務提供誘引取引」です。


(参考;「特定商取引法ガイド」https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/businessopportunity/)


 「業務提供誘引取引」に該当するビジネスは、他にも「業者に指定されて購入した着物を着て接客をする仕事に就く」「業者に指定されて購入したパソコンを使って業務委託を請ける」「ワープロ研修を受けてワープロ入力の在宅ワークを紹介される」といった事例が挙げられます。

 注意したいのは、これらの「ビジネス」はあくまで「トラブルが非常に多い」形態の取引ではありますが、関連する法令を守って行う限りは「合法的なビジネス」です。

 こういった業務形態をとっているというだけで詐欺や犯罪であると言ってしまうと名誉棄損となりますのでくれぐれもご注意ください。


 さて、この「業務提供誘引取引」ですが、「授業料を払って受講したor登録料を払っているにもかかわらず、仕事のあっせんがごく僅かなので、受け取った報酬が支払った金額に遠く及ばない」などのトラブルが頻発しています。

 私が役所に勤めていたころは、そういった商取引を管轄する部署ではなかったにもかかわらず、その類のビジネスの話を年に十社は耳にしていた記憶があります。(トラブルが十件ではなく、トラブルを起こした会社が十社)

 ちなみに私は消費者トラブル担当の部署ではなかったので担当部署の子に話を聞いたり、関係する企業さんから情報をいただいたりしたものだけです。担当する部署であればもっと頻繁に目にしていたでしょう。


 もちろん、すべての業者がそのような悪質なものではないとは思いますが、契約を検討する前に念のため以下の点を必ずおさえておきましょう。


 まず「業務提供誘引取引」とは上記参考URLにも説明があるように


「物品の販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、業務提供利益が得られると相手方を誘引し、その者と特定負担を伴う取引をするもの」


と規定されています。


 早い話が「ビジネスの本体は物やサービスの販売」であり、そのために「業務提供利益=仕事のあっせん」が得られると勧誘して消費者に金銭などの負担をさせる取引を行うというものですね。

 大事なのは「仕事のあっせんを受けられる」のはであって、あくまで「」がメインの取引であるという点です。


 こういった「ビジネス」で「被害を受けた」方のほとんどがこの点を逆だと誤解しています。もちろん、悪意のある業者はわざとそのように誤認するような説明をしているのですが、よくよく書面を確認してみるときちんと明記されています。契約前に概要書面をじっくり読むことが大事ですね。


【勧誘、広告におけるルール】


 この「業務提供誘引取引」は、勧誘にあたって以下の行為が禁止されています。


・契約の締結について勧誘を行う際、又は契約の解除を妨げるために、商品の品質・性能、特定負担、契約解除の条件、業務提供利益、そのほかの重要事項等について事実を告げず、あるいは事実と違うことを告げること。

・契約を締結させ、又は契約の解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること

・勧誘目的を告げない誘引方法(いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法)により誘引した消費者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で、業務提供誘引販売取引についての契約の締結について勧誘を行うこと


 早い話が「勧誘の時にうそを言ったり都合の悪いことを黙ってちゃダメ」「契約やクーリングオフ、契約解除の時に脅しちゃダメ」「勧誘だって言わずに事務所や自宅に誘い出して勧誘しちゃダメ」ってことですね。

 セミナーや勉強会、ホームパーティーに参加したら副業を勧められた、という話をよく見聞きしますが、マルチ商法(連鎖販売取引)にせよ在宅ビジネス(業務提供誘引取引)にせよ違法です。

 ここ10年ほどでよく耳にするのは作家さんの持ち出しがあることを伏せて「Twitterなどで声をかけてグループDMからFacebookかdiscordに誘導する」という手法。

 もちろん特定負担についての説明がないままオープンな場でないzoomやFacebookなどで勧誘することは違法ですが、被害に遭った方はご存知ないことも多いです。しっかり覚えておいてください。


 さて、「業務提供誘引取引」では広告に取引内容や業者について以下の記載をしなければならないと取り決められています。


・商品(役務)の種類

・取引に伴う特定負担に関する事項

・業務の提供条件

・業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号

・業務提供誘引販売業を行う者が法人であって、電子情報処理組織を使用する方法によって広告をする場合には、当該業務提供誘引販売業を行う者の代表者又は業務提供誘引販売業に関する業務の責任者の氏名

・業務提供誘引販売業を行う者が外国法人又は外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、その所在場所及び電話番号

・商品名

・電子メールにより広告を送る場合には、業務提供誘引販売業を行う者の電子メールアドレス


 またややこしい言葉がごちゃごちゃ並んでるって?

 早い話が広告には必ず「取引の内容や発生する代金」「仕事を紹介する条件」「業者と責任者の名称や住所氏名電話番号などの連絡先」「商品名」を載せなきゃいけませんよ、って意味ですね。

 業者の公式ページに必ず「特商法に基づく表記」というものが載っているはずです。もし載っていなかったらその業者は法令をきちんと守る気がないか、何らかの理由で守れていないという事なので、その後どうかかわるかの指針の一つになればと思います。


 さらに、特定商取引法は誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告による消費者トラブルを未然に防止するため、「事実とかけ離れた表示」や「実際よりもものすごく優良だったり、有利だと人を誤認させるような表示」を禁止しています。

 これは「業務提供誘引取引」に限った話ではないので説明の必要はないと思います。


 勧誘と広告について長々とお話してきましたが、それだけその過程でのトラブルが多いという事です。それぞれのチェックポイントをしっかり覚えておいて自衛に役立ててくださいね。


 他にも電子メールによる広告や勧誘についても禁止事項があるのですが、今はあまり使われていない手法なので今回は割愛します。

 ご質問のある方はコメント欄かツイッターまで。


【契約と書面の交付】


 さて、いよいよ契約について。

業務提供誘引販売業を行う者は、業務提供誘引販売取引について契約する場合には、契約の前と後にそれぞれ以下の書面を消費者に渡さなければならないことになっています。


 まず、契約を結ぶ前には、該当する事業の概要を記載した「概要書面」を渡さなくてはなりません。

 こちらに記載されなければいけない事項は以下の7項目です。


・業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名

・商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(役務の種類及びこれらの内容に関する重要な事項)

・商品名

・商品(提供される役務)を利用する業務の提供(あっせん)についての条件に関する重要な事項

・特定負担の内容

・契約の解除の条件その他の契約に関する重要な事項

・割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項


 え?いっぱいあっていちいち読んでいられない?

 そんな事言わないで。

 お金を払って購入する商品や、紹介してもらえる仕事の内容や条件など、とても大切なことが書かれています。

 どれか一つでも欠けていれば、その企業は「法律を守る気がない」か「守らなければいけない法律を把握できていない」かのどちらかです。

 個人的にはとても危険な香りがすると思います。


 特に「特定負担の内容」つまり消費者側が負担しなければならない金銭や物などの条件や「業務の提供についての条件」は勧誘時に受けた説明と違っていたり、説明時にはぼかされていることが多々あります。


 最近私が見かけたとある企業の例ですが、SNSでの宣伝では「最大で単価1万5千円の依頼を月間30本」としているにもかかわらず、概要書面には「毎月最低一本は依頼を発注する」「報酬最低額は一件一万一千円とする」となっていました。

 「最大」は嘘ではないつもりかもしれませんが、ツイッターで確認できる発言では報酬最低額についての言及はなく、最低発注数についても「忙しさに合わせて受注する量を調整できます」という表現に留めていて月に一回依頼をすれば会社側の義務は果たせる契約になっているという説明はありませんでした。

 概要書面のこの文言に対する質問も、まともに回答しなかったり「忙しさに合わせて仕事の量を調整できます」という回答に留めていて、発注側の都合で件数が少なくなる可能性についてはいくら訊かれても答えませんでした。


 もちろん、これらをどう判断するかは個人の自由と責任におけるものですが、面倒だからとまともに確認せずに契約した場合、どのような損害を被ったとしても誰のせいにもできませんのでご注意を。


 また、「契約の解除の条件」に無理な条件を付加している業者もいます。くれぐれも注意しましょう。


 次に、契約を結んだあとです。

 契約が成立したら、事業者は速やかに契約内容について明らかにした「契約書面」を渡さなくてはなりません。

 こちらには以下の10項目が記載されます。


・商品の種類、性能、品質に関する事項(役務の種類及びこれらの内容に関する事項)

・商品(提供される役務)を利用する業務の提供(あっせん)についての条件に関する重要な事項

・特定負担に関する事項

・ 業務提供誘引販売契約の解除に関する事項

・業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名

・契約の締結を担当した者の氏名

・契約年月日

・商品名及び商品の商標又は製造者名

・特定負担以外の義務についての定めがあるときには、その内容

・割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項


 はい、たくさんありますね。全部とても大事なものなので、面倒くさがらずにしっかり確認しましょう。

 最初の三つは契約前に渡された概要書面と相違ないかよく確認しなければなりません。

 4項目目は解約のために必要不可欠です。

 5~8番は契約する当事者に関する情報。

 9番目は特定負担、つまり商品の代金以外の負担についてですね。

 10番目はローンを組んで支払う際の、クレジットカード会社からの請求差し止めに必要な情報です。


 ね、どれも大事でしょう?

 ちなみに契約書面が交付されない場合はクーリングオフの期限の起点が来ていないという事で、いつでも無条件に解約できます。


 ちなみにこれらの書面には「消費者に対する注意事項として書面をよく読まなければならないこと」を赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。

 また、契約書面におけるクーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければいけません。

 さらに、書面の字及び数字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。昔よく見聞きしたような「契約書や説明の書類の字が小さすぎてまともに読めない」というトラブルを防ぐためです。

 え? 8ポイントでも読みにくい?

 ……ワタクシもですが、適宜眼鏡を使いましょう。

 いや官報読みにくすぎなんですけど。


【クーリングオフ】


 契約するまでは違和感を覚えなくても、契約してから「話が違う」と気づいて解約したくなることもあるでしょう。

 契約成立後も契約書面を受け取った日から数えて20日以内であれば、消費者は書面又は電磁的記録により契約の解除=クーリングオフをすることができます。

 この際の理由は問いません。どんな理由でも解約できます。

 クーリングオフが成立した場合、業者は契約の解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求できず、商品の引取り費用も業者の負担となります。

 ただし、原状回復義務については、契約を解除する双方が負うことになります。業者は支払われた代金、取引料を返還するとともに、消費者は引渡しを受けた商品を業者に返還しなければなりません。


 また、クーリングオフを申し出た際に業者側が脅すなどして契約解除できなかった場合は、20日経過した後であってもクーリングオフが可能です。必ず脅迫を受けた証拠をのこしておきましょう。

 また、契約解除の申し出にあたっては事故や行き違いを防ぐためにも書面であれば内容証明郵便にて送付し、電子メールやウェブサイトのクーリング・オフ専用フォーム等であれば画面のスクリーンショットを残しておくことなど、証拠を保存しておく方が望ましいです。


 なお、勧誘の際に事実と違う事を告げられたり、逆に事実を告げられないことで誤認して契約した場合は契約の申込み自体を取り消せますが、たいていの業者はうまく言い逃れできるように細工しているのでこちらは割愛します。


【契約を解除した時の損害賠償】

 代金の支払遅延など、消費者の債務不履行を理由として契約が解除された場合には、事業者から法外な損害賠償を請求されることがないよう賠償額の制限がかけられています。

 賠償額の上限は以下の通りです。


・ 商品が返還された場合、通常の使用料の額

(ただし販売価格から転売可能価格を引いた額が、通常の使用料の額を超えているときにはその額)

・ 商品が返還されない場合、販売価格相当額

・役務を提供した後である場合には、提供した役務の対価に相当する額

・ 商品をまだ渡していない場合(役務を提供する前である場合)には、契約の締結や履行に通常要する費用の額


 これらに法定利率による遅延損害金の額が加算されます。

 早い話が、実際にやり取りした商品の代金と法定利息以外の「損害賠償」は要求しちゃだめだよ、って話ですね。


【今回のまとめ】


・「スクールを受講するとライターとしての仕事を紹介する」「登録料を払うことでライターとしての仕事を紹介する」といった形態のビジネスを「業務提供誘引取引」と言う。

・「業務提供誘引取引」の勧誘では嘘をついたり都合の悪い事実を告げないまま契約に及んではいけない。

・「業務提供誘引取引」の勧誘や解約の時に消費者を脅して契約させたり、解約を思いとどまらせてはいけない。

・「勧誘だ」と伝えずに公共の出入りのない場所(自宅や事務所、SNSのチャットなど)に呼び出して勧誘を行ってはいけない。

・HPに事業者や代表者の名称、氏名、住所などの「連絡先」や、発生する代金などの「消費者の負担」と「仕事を紹介する条件」を明記していない業者は法令を守っていない。

・契約をする前(契約の検討中)に詳しい契約内容が説明された「概要書面」が渡されなければならない。

・契約前に「概要書面」を熟読しよう。特に「特定負担」と「業務の提供についての条件」は何度も読み返してしっかり理解しよう。納得できなければ契約は見送ろう。

・契約後すぐに契約内容について明らかにした「契約書面」が渡されなければならない。

・契約後、契約書を受け取った日から数えて20日以内であれば(これ超重要)クーリングオフできる。

・クーリングオフを申し入れるときはできれば内容証明郵便で。電子メールや専用フォームしか受け付けない業者の場合は必ずスクショ保存!!

・契約解除後の事業者に対する損害賠償は、その商品の価値+法定利息を超えない範囲で。


 え? 「まとめなのに多すぎ。八文字以内にしろ」ですって?


 特商法はとてもトラブルの多い商取引について、消費者に泣き寝入りをさせないために、業者の逃げ道を極力ふさいで安全な取引をうながすための法律です。

 したがって、業者がついてきやすい様々な穴をふさぐために、契約にかかわる様々な場面で起こりえるトラブル一つ一つに対応する文言があります。

 どれ一つ欠けても悪意のある業者に利用されてしまうので、フリーランスとしてやっていきたいのであれば、めんどくさくても最低限これだけはきちんと理解してください。

 文言を丸暗記する必要はありません。理解しておいて、いつでも確認できるようにしておくことが大切です。


 厳しいようですが、その程度の努力すら拒むようであれば、自分に無限に責任が降りかかってくるフリーランス=個人事業主としての独立は夢に見ることすらできません。

 どこか貴方を法的に守ってくれる企業に雇用していただいて、その業務で上司の指示の範囲内の活躍にとどめた方があなた自身のためです。

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