大文字伝子が行く35
クライングフリーマン
大文字伝子が行く35
伝子のマンション。「うまく修理したなあ。」と依田が感心した。「半日だぜ。」と福本が言った。
「理事官。自衛隊員は何でもこなすって本当だったんですね。」とPCの画面に向かって高遠は言った。「うむ。元々の特技の者もいれば、先輩から教わって技術を習得した者もいるそうだ。」「お陰で助かりました。」と高遠が言ったが、横から「理事官。ここの世帯主は私ですよ。改造したでしょ、あちこち。」「ばれたか。」「ばれたか?」と伝子は呆れた。
「すっかり、EITOの前線基地ですね。」と南原が言った。「改造場所その1。台所の非常脱出口。穴が開いていたから、寧ろそれを利用することにした。その2。君たちが『奥の部屋』と呼んでいる部屋。生体認証の自動ロック。その3。PCルームの拡張。『掘り炬燵』って知っているかな?」
「うちの2階は掘り炬燵です。」と福本が応えた。「その応用で、PCの配線を埋めた。周辺機器も下に配置し、PCの台数を増やした。電源はそれぞれAVルームと呼ばれている部屋にスイッチがある。これらは、万一敵に侵入された場合に備えてだ。」
「ちょっと、待って下さいよ。左官屋自衛隊員だけじゃなく、電気屋自衛隊員も入ったってことですか?工事に。」と、伝子は憤慨した。
「でないと、無理でしょう。」「私は自衛隊員じゃない!警察官でもない!」と怒りを露わにした伝子に、「ひょっとしたら、契約書読んでないの?」と草薙が横から言った。
すると、新しいPCが起動して、「ごめん、渡すのを忘れてたわ。」と画面越しに久保田管理官が言った。
依田達は、素早く『奥の部屋』に隠れた。「許さーん!」とPCに向かうのを見た高遠と愛宕が必死で両腕を押さえた。「殿中でござる。殿中でござる。」と愛宕が言った。
「忠臣蔵じゃないのよ。」と栞が言い、あつこはみちると両脚にしがみついた。
「理事官。見返りは?」「君がマネージャーをやるかね、物部君。EITOは給料もボーナスも振り込んでいるんだが。」と理事官が言うと、「あ、それも言うの忘れてた。」と久保田管理官が言った。
「ぐれてやる!」と息を切らしながら、伝子は言った。「大文字がぐれたら、日本中のヤクザを一掃出来るかな?」と、いつの間にか入って来た筒井が言った。
「嫌われ役は一人でいいだろ?俺が進言したのさ。」「相変わらず、いいとこ持って行くなあ、筒井は。」と物部が言った。
体を弛緩させ、四人の手が退くや、伝子は筒井に平手打ちをしようとした。それを止めたのは、あつこだった。「ごめんなさい、おねえさま。私が頼んだのよ。いつかおねえさまは危険な目に遭う。天災じゃなくて。そう思ったの。」
副総監が画面に現れ、謝った。「すまん。大文字伝子君。実働隊の橘一佐や、そこにいる私の姪を御する人間は君しかいなかった。副将も今回の件には心を痛めておられる。因みに、橘二佐は橘一佐に戻った。」
理事官が再び画面に現れた。「EITO発足時に話したと思うが、今までの体制では、テロが起れば、警察も自衛隊も事態収拾が難しい。本来は情報交流機関だが、実働隊は必要だった。少数精鋭だ。一佐の席は当分空席だ。だが、何か起った時に不便だ。筒井は、臨時の実働隊だ。」
「よろしく。」「何がよろしく、だよ。」「つっかかるなよ、物部。」まあまあと物部と筒井の間に高遠が割って入った。
「はい、筒井さん。コーヒー、濃い目にしておきました。」と高遠はリビングに立っている筒井の前にコーヒーと煎餅を置いた。
「プランBだ。」と理事官が言うと、EITOの画面は消え、久保田管理官が話し始めた。
「空き巣集団は一網打尽に片付いた。他の空き巣への抑止力になる。ありがとう、大文字探偵局。君たちの捜査能力のお陰だ。」久保田管理官の姿も画面から消えた。
「よく出来ているだろう?大文字君。」と、『当の』久保田管理官が姿を現した。
「端っこのPCは副総監室を想定した仮想画面だ。それと、EITOからの通信で理事官が話題を変えた場合は、回避回線に切り替えたと考えて欲しい。」
「何故?ウチは囮ですか?管理官。」と高遠が言った。「そう言えなくもないな。ハッカー、いや、クライムハッカーことクラッカーはどこからでも攻撃してくる。」と管理官が言うのに加え、草薙が言葉を続けた。「EITOもアンバサダーも守れと、無茶ぶりされましてね。複雑なシステム組みました。システムに対しての苦情は私に。」
「大文字も皆も、今まで通りに行動すればいいのさ。じゃ、俺は帰る。高遠。コーヒー旨かったぞ。師匠がいいからかな、上達が早い。」物部にウインクして、筒井は帰って行った。
「一度に理解出来なくても、困難には立ち向かえる君たちだ。期待している。あ、これ。一佐からの預かり物だ。」と久保田管理官は伝子にピアス一対を渡した。
「こんなもの渡さなくても、忘れやしないのに。」と伝子はポケットに乱暴にピアスを突っ込んだ。
翌日。モールの映画館から、伝子は杖を突いた高遠と出てきた。
「やっぱりラブシーンは苦手だな。」「どうして?」「だって、お前との本当のラブシーン、思い出すから。」「じゃ、今度、ホラーにする?」
モールの本屋に立ち寄ろうとしたら、クラウンの格好をした男が伝子を羽交い締めにして、ナイフを突きつけた。伝子は手首を捻って、ナイフを叩き落として、一本背負いで投げた。高遠はすぐに愛宕を呼んだ。電話は通じなかった。高遠はLinenでメッセージを送り、本屋に駆け込んで「110番して下さい。」と店員に頼んだ。
後で分かったことだが、全国でヨーヨーモバイルだけが大規模通信障害を起こしていた。
駆けつけた愛宕と警官隊に事情を話し、被害届は愛宕に任せて、二人は帰宅した。
伝子のマンション。駐車場で藤井が首を捻っていた。「どうしました?」「ああ。ケータイが繋がらないのよ。あ。スマホか。」「藤井さんのスマホはどの会社の?」「ヨーヨーモバイル。」「やっぱり。僕のもです。電話は繋がりにくくても、データ通信は出来ますよLinenとか。ほら。」と、高遠は自分のスマホを見せ、藤井の代わりにLinenで物部にメッセージを送った。
「私のスマホは、どうだろう。南原にかけてみる。」と伝子は南原に電話した。「南原か。お前のスマホは、ワンワンBANKだったな。私のスマホはDokoNiDemoだ。」
「先輩、知らないんですか?そこら中でパニクってますよ。ヨーヨーモバイルは通信障害ですよ。」
入り口で藤井と別れた二人は、すぐにPCルームに急いだ。PCルームのEITO用PCの画面が起動した。、
「お帰りなさい。アンバサダー。」「深刻な問題か。」「深刻ですね。ヨーヨーモバイルはパンクしてます。まだ原因究明中らしいです。ただ、音声通話は出来ないが、データ通信は出来るらしく、Linen、Basebook、Atwitter等は送れる。若者は敏感ですね。すぐにそれに気づいた。でも、高齢者は電話する為に使っている。すぐに買い換える訳にもいかない。災害用通信のイチゴJapanを使うべきだ、という声も上がっています。もう半日以上です。あ、何で今頃?」
「映画を観に行ってたんですよ。で、伝子さんを襲おうとした男を伝子さんが瞬殺、じゃない、すぐに取り押さえたんですが、愛宕さんに通じなくて。近くの本屋さんから110番したんですが。」と高遠が説明した。
「問題はここからだ。駅前で違法に使い捨てケータイを売っている中国人が何人かいるらしい。しかも、全国的にそういう事案が発生していて、警察がいくら検挙しても沸いて出てくる。買う人間がいるから、売る人間がいる。」と理事官が画面で渋面を作って考え込んでいる。
「理事官。罠を張るしかないですね。ヨーヨーは何て言っているんです?復旧に。」
「明日と言っているが、草薙の見立ては違うようだ。代われ。」
「サイバーアタックをかけられた、と私は思いますね。ヨーヨーモバイルの利用者は言わば『人質』ですよ。実際の復旧は数日かかるでしょう。その間に・・・。」
「身代金か。」「今、我々が出来ることは、アンバサダーが言われた罠を張って、末端の人間を虱潰しにすることぐらいですね。この地区だけでも殲滅すれば、一つの抑止力にはなる。」
「つまり、使い捨てケータイを売ることも奴らの計画の内、という訳ですか。」と高遠は言った。
「草薙さん。DDバッジは使えるのか?」「勿論。ケータイキャリア3社とも関係がないのでね。」伝子はDDバッジを押した。「夫よ。留守を頼むぞ。」「了解しました、奥様。」
伝子は台所に行って、非常口を開けて、外に出た。画面では、「まだ映画の続きやってんのかな?」と草薙が呟いていた。
すぐに、オスプレイから縄梯子が降りて来た。伝子は空に消えた。
物部のアパート。栞が布団から出てくる。「一朗太。早く着替えなさい。さっきの電話。ヨーヨーモバイルの通信霜害だったって言ってたじゃないの。」
「だから?」「だから、何らかの事件が起きる。事件が起きると伝子が動く。伝子が動くと、私たちに協力してくれ、って言って来る。分かった?」「分かった。」
南原のアパート。「学校は休校だ。家族の連絡手段が奪われたのも同じだ。」「どうするの?」「きっと、先輩は何らかの動きをする。備えて待つ。」「龍之介、変わったわね。大文字さんのお陰ね。」「まあ、そうかな。」
依田のアパート。「蘭ちゃん、今日は休み?」「予約のお客があるから、「これから支度して行く。でも、ヨーヨーモバイルのお客で、いつも電話予約の人は困っているらしいわ。」「じゃな。」「行ってらっしゃい。」
福本の家。「松下達と連絡が取れない。どうしようか?あ、高遠からLinenのメッセージだ。Linenは通じるから、電話の音声通信は止めて、なるべくLinenを使えってさ。」
「良かったわね。うう。気分が悪い。」「祥子ちゃん・・・つわりよ、英二。」母の明子は家の電話で救急車を呼んだ。
久保田邸。あつこが夫の誠に尋ねた。「ねえ、まこっちゃん。四課の兵隊をぉ、借りていい?」「出入り?」「ううん。ゴキブリ退治。」「・・・何とかするよ。」
本庄病院。なぎさが、看護師に言った。「私は見捨てられた。」担当看護師はなぎさに尋ねた。「ひとつ聞くけど、スマホ見て絶望するほどやわな人だっけ?橘さんは。今ね、ヨーヨーモバイルが通信霜害で大騒ぎなの。ほら、これ、ヨーヨーモバイルじゃないの。」
「そうなの?」「大人しく寝てなさい。今日は屋上に散歩に行きましょう。」
EITOベース。会議室。「それで、祥子は掴んだの?草薙さん、サイバーアタックの。」
「少し時間を下さい。それに、身代金を払ったら、金の移動がある筈です。その点は抜かりありませんが。」と草薙が応えた。
「今夜、ヨーヨーモバイルは記者会見を行うようだ。草薙君の説が正しいようなら、素人には分かりにくい説明をするだろうね。もう既に災害級だ。折角のイチゴJapanも、災害と認められないと、簡単には活用は出来ないだろう。」と理事官は言った。
「そのイチゴJapanって何ですか?おいしそうな名前ですが。」「ははは。確かに苺の品種みたいですね。アンバサダーは、叔父様からコンピュータのことを習ったとか。」
「プログラミングは出来ませんが、基礎知識はある積もりです。」「じゃ、フラグって分かりますか?」「『旗』から派生した専門用語ですね。ある処理を条件によって分岐して動作させる為の区分された内容ですね。例えば、果物皿に乗っているのはリンゴか否か。それを判別してリンゴのグループと、そうでないグループに分ける。2つの選択肢とも言える。」
「まあ、そんなところです。コンピュータの最初の概念は、スイッチのオン・オフ。古くは軍用計算に用いた理論に基づくと言われている。さて、イチゴJapanは、通常時は使わないシステムを、災害時に起動させるのでフラグを全てオンにすることで付いた名前だそうです。何故3つでなく5つかは分かりませんが。で、災害かどうかの判断する人は分かりませんが、一時的にお互いのサーバーのデータ交換が出来る、通信連携が出来るシステムのようです。勿論、リスクや副作用はあります。連携は大きな意義がありますけどね。」
「ハッカーに狙われやすいということですか。」「そうです。だから、運用には慎重で、通信障害が復旧次第、このシステムの環境を変更する必要もある。」
「で、事件の方の収拾は?」「今のところ、地道な囮作戦ですね。困っているヨーヨーモバイルの振りをして使い捨てケータイを購入し、何らかのマーキングをする。早い話、こちら側が用意した大文字システムのガラケーを紛れ込ませる。通話が出来ませんから、取引の最中に、そのケータイは通信できない不良品と思わせて、彼らにも他の人間に売らないように仕向ける。」
「なるほど。後は、発信ポイントの集中した場所がアジト候補だと。アジトが複数でも、抑止力はありますね。いつかは障害も復旧するだろうから、タイムリミットは多分ある。」
「今回、渡辺警視の尽力で、警視庁及び所轄の捜査2課、捜査4課、生活安全課を動員しています。また、理事官からの要請を受けて、陸将は非番の陸自の隊員が私服で囮作戦に参加させています。アジトの1つが分かれば、アンバサダーの出番というわけです。はい、これね。」と、草薙が手渡したのは、『おきつね様』衣装だった。
「またかよ。」「今回は相手が中国人と分かっていますから。狐は中国でも特別です。」
伝子のマンション。PCを操作している高遠。「集まって来ました。場所は旧公会堂跡。」
2時間後。休憩室に渡が伝子を呼びに来た。「オスプレイが待機しています。場所は、旧公会堂跡です。」「よし、行こう。」
旧公会堂。中国人達が売れ残りのガラケーと、金を整理していた。
そこへ、羽織袴の狐面の女性が、電動キックボードで現れた。
「皆の者、ご苦労であった。私への上納金の集計は終わったかな?」「何者だ?」
「お狐さまだ。」「本当の名前は?」「狐次郎右衛門。」「ふざけやがって。やちまえ!」
5分後。約30人の中国人が伝子の木刀で倒れていた。伝子が合図すると、警官隊がなだれこんで来た。
数分後。テレビでニュースが流れた。「通信障害につけこんだ、中国人の詐欺グループが先ほど逮捕されました。警察では、他の詐欺グループの行方を追っています。」
翌日の日曜日。午前10時。「アンバサダー。起きてます?」「ああ、起きてる。何だ?」
「敵の動きがありました。身代金は明日支払われるようです。ハッカーは中国人ですが、手引きした日本人がいる筈です。中国のスパイです。ヨーヨーモバイルの他、ワンワンBANKもDokoNiDemoも狙われているかも知れない。脅しに屈服しないから、実力行使した。グリコ・森永事件に似ているので、『手引き』した人間がいるに違いない、と思いました。」
「なるほど。」「それなら、SNS上に痕跡があるはずだと思って、探しました。ヨーヨーモバイル社員にネット恋愛している馬鹿がいました。水島啓太という主任。ハッキング出来るように、パスワードを中国側に渡し、それでハッキングされたんです。身代金と交換するのは、顧客データの個人情報です。切り取られたんですよ。一部の顧客情報。」
「一部って・・・そうか、何度でもしゃぶり取れるな。で、どうする?」
「ヨーヨーモバイルの取引銀行は彦三銀行です。彦三銀行には状況を説明して『システム障害』を起こして貰う。奴らは現生でなく、ネットバンキングで送金させるので、それが出来ない状態を作るんです。」
午後2時。EITOベース。ヨーヨーモバイルの社長が記者会見し、復旧に全力を傾けている、と発表した。それをテレビで見ていたあつこは言った。「知らぬが仏、ね。」
「ヨーヨーモバイルの社員っぽいですか?」「ぽくなくてもいいさ。ネットバンキング出来なくて慌てて取りに来るんだ。いちいち確認しやしない。あつこ君。大丈夫か?妊娠しているのに。」「産まれるのはまだまだ先ですよ、おじさま。」とあつこは久保田管理官に応えた。「大文字君は?」「練習をしています。」「練習?」
翌日。ヨーヨーモバイル社内。水島の前に、新人風のOLが来て、「えいっ!」とリモート電源スイッチを切った。スイッチはPCのOAタップから繋がっていた。水島のPCの電源が切れた。水島はPC本体のスイッチを入れたが、PCは起動しない。
「おかしいな。」と首を傾げる水島に、「予め放電させておいたから、全く起動しないわよ。」「なんなんだ、それに君は誰だ!!」水島の上司がやって来て言った。
「社長がお呼びだ。社長室に行きなさい。」未練たらしくPCを見ていた水島は社長室に向かった。
同じ頃。EITOベース。「ようし、これで『なりすまし』が出来る。やっぱり間抜けな奴だ。自分のPCと他のPCの区別もつかないなんて。」
暫く、PCに向かって何やら打ち込んでいた草薙だったが、「理事官。システム障害という不測の事態なので、現金で渡すと社長が言っている、受け渡し役に志願して、認められた、と信じ込ませるのに成功しました。」
「うむ。筒井君の出番だな、久保田君。」「彼なら、そつなくこなすでしょう。」
ヨーヨーモバイル社。社長室。1列に並んだ女子社員が、次々と水島に平手打ちをした。「何で?」「後は、警察で。お願いします。」と社長は、先ほどの女性に合図をした。
「逮捕します。」OLと思われていた女性は、女性警察官のみちるだった。
30分後。水島を装って、屋上に筒井がジュラルミンケースを2つ持って立っていた。
ヘリポートにヘリが1機降りて来た。1人降りて来て、パイロットが1人乗っていた。
すかさず1人の女性がパイロットを引きずり下ろして、ヘリに乗って飛び去った。
ヘリから降りた二人の内の一人が、「どういうことだ?」と怒鳴った。「大したことじゃない。あ、なんだ、二人か。歯ごたえがないな。」とセーラー服コスプレでアイマスクをした女性が言った。「お前に譲る。私は帰る。」「お前の仕事だろ。ちゃんとやれ。」
ケースを持ってきた男、筒井とセーラー服は揉めだした。ヘリの二人が、途方に暮れていると、揉めていた男女に簡単にアッパーカットを受けた。筒井はのびている男の体を探った。「やはり、拳銃を持っている。ブツも持って来なかったのかもな。」
陰から警察官が出てきて、二人を連行して行った。
「まあ、こちらも期待なんかしていない。データはコピペすればいいことだから、一度渡ればおしまいだ。草薙さんによれば、どの程度コピーしたかは把握出来たらしいから、後はどの程度誠意を見せるかは、ヨーヨーモバイル次第だな。」
同じ頃。沖縄県から少し離れた海上。領海に侵入しようとしていた中国の船は離れていった。日本側の原潜が浮上したことと、護衛艦に『零戦』らしき戦闘機を見たからだった。
護衛艦の操舵室。電話を終えた、艦長のしらなみ一等海佐は電話を置いた。「システム障害の主犯格は逮捕された。敵の情報実行支配の両面作戦は失敗だ。陸将からの情報のお陰で、海自も先手を打つことが出来た。」航海士である、南部二等海曹は「ウチもEITOベースみたいな組織が必要ですね。」「いずれ出来るだろう。空自ではもう準備段階だ。国会ではやっと、『スパイ防止法』が出来、防衛費も増額が決まった。国家的危機に『お花畑』では役に立たない。そんな世の中だ。」
半日後。ヨーヨーモバイルのシステム障害は完全に復旧した、と記者会見で社長から発表された。一方、彦三銀行のシステム障害は、振り込み関係のみで、30分で回復したと発表された。
伝子のマンション。久保田管理官が画面から、皆に説明している。「ヨーヨーモバイルは、セキュリティ強化と共に、社員にスパイが出ないように再教育する、と言ってきている。」
「他の2社は、もう払っているとかじゃないんですか?管理官。」「依田君の懸念は尤もだ。通信業務省は、昨年出来た通信管理庁と共に、サイバーアタックに備え、スマホ会社を管理すると言っていた。イチゴJAPANも世間に広く認知させ、『災害時』にはセキュリティ強化された共通通信網の運用を進める、と言っている。いずれテレビでも放送をするだろう。」
「EITOベースは拡充するんですか?」と福本が言った。EITOベース用の画面が開き、理事官が応えた。「いや、空自や海自はそれぞれに専門チームは立ち上げるが、常時繋げることはしない。敵にとって都合のいい「芋づる式」では問題があるからね。」
「大文字。セーラー服刑事、似合ってたぞ。」と横から筒井が言い、画面にそのコスプレ衣装が映った。「馬鹿。止めろ!」と伝子は赤面した。
「僕の妻は何を着ても似合うんです。」と高遠が言うと、伝子は軽く叩いた。
「なお、水島には『スパイ防止法』が適用されることが、明日の国会で承認される見込みだ。」
「今回は、俺たちの出番は無かったな。」と物部が不服そうに言ったら、栞が「いいじゃないの、私たちは『猫の手動員』なんだから。」と返した。
するとみな、それぞれネコの鳴き真似を始めた。
「煎餅にマタタビ味が出たのかな?」と久保田管理官が呟いた。
―完―
大文字伝子が行く35 クライングフリーマン @dansan01
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