第33話 人の不幸の形(ルータス編)
ルータスは池の近くの荒れ地を開墾した。栽培したのは米でも吸収草でもない。
大麻だった。それを裏社会の者に売りお金儲けをしていた。そのお金を使って同じく裏社会が営むカジノでバカラ賭博に興じていた。
負けが込んでいたが栽培を増やせば挽回出来ると高をくくっていた。
アリアは健気によく働くルータスを心配していた。一方でルータスの変化に気付いていた。最たるものはお酒であった。全く飲まなかった人が酷く酔うようになった。
「ねえ、もうそのへんで辞めたら」
「うるさい、自分の金で買った酒だ」
「どうしちゃたの?」
「どうもしやしないよ」
「私、お産で実家に帰ろうかと思っているの」
「好きにすればいい」
この荒んだ気持ち。わざわざ冷たい言葉を選択する心理。廻りまで不愉快さで巻き込む無理解さ。落ちたら自ら上がれない底なしさ。全く生産性がない生活。取り返しの付かない人生。
「そんなんだったら帰ってこないわよ」
「好きにすればいい」
博打を打つのにアリアは邪魔でさえあった。
「ひどい、ルータスじゃないみたい」
「これが俺だよ、本当のな!」
「元に戻るまで戻りません」
「お帰りください、王女様」
アリアはその夜から一人で帰っていった。
アリアがいなくなってからというものルータスは毎晩、カジノに入り浸った。負けたお金を取り戻すため、倍のお金を賭けて負けるといった有り様だった。ギャンブル依存症とアルコール中毒であった。
朝、いつものように大麻の手入れをしていた。
「手を挙げろ」
「え?!」
「保安部隊だ。大麻取締法、現行犯で逮捕する」
「む~い、泳がせていたな?」
「そうだ。一網打尽だ」
「そうか、終わったな……」
国王がお出でになられた。
「ルータス、アリアは流産した。以上だ。もうお前と話すこともなかろう」
と、仰せになって帰っていかれた。
「────────────────」
悪態をつく気力もなく、保安部隊のなすがまま、言われるがままにした。
「流産は自分の責任だ」
「大切にしなかったからだ」
「僕は真面目だ。いや、真面目だっただな」
あの日、釣りにいかなかったらひょとしたら違った未来になったかもしれないと考えるのは間違いだ。未来の不幸は変わらず過去が少しばかり変わるだけである。
あれだけ楽しみにしていた赤ちゃん。
後で知ったのだか流産ではなくアリアが堕ろしたのだ。
「あの人の子供はほしくない」
とそう言ったそうだ。
アリアの最後の懸命な抵抗であったのかもしれない。ただ1番辛いのはアリアであることを忘れてはならない。
「僕なんかと結婚してくれたのに……」
「アリアからお金がほしいと言われたことなどなかったのに……」
ルータスは罪人になった。
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