第30話 人の不幸の形(マックス編)

 靴製造工場2号館の無理な建設が不幸への始まりであった。

 アリアは最後まで反対したがマックスには届かなかった。

 アリア「A」ブランドの人気は凄まじいものがあったが2号館が出来るころには下火になっていた。また、類似品で安価な靴が出回っていた。


「どうしよう。お金がない」


「倒産するしかないでしょ?」


「簡単にいうな!倒産がどういうもかわかって言っているのか?もう僕には君と子供たちを幸せにはできないんだぞ……」


「お金がないから私たちを幸せにできない?それならお金持ちはみんな幸せで貧乏人はみんな不幸なの?今、いっしょに頑張るのが夫婦じゃないの?」


「アリア……


 この言葉でアリアは切れた。いっしょに頑張れないと言われた気がした。


「お父様、空挺でジダン王国まで迎えにきていただいてもいいですか?」


「ダメだ。マックスの側にいてやりなさい」


「……側にいても力になれない。少し時間をおきたいの!お願い!」


「わかった……」


 こうしてマックスはお金に続いて最愛の妻、子供たちをなくした。家族を無くす負の遺産は沢山あるが1番は会話の喪失であろう。マックスは誰とも話さない日が多くなった。家事もすべてをやらなければならなかったし、空腹を我慢することもたびたびであった。


「どうしよう。やはり肉親を頼るしかないか」


 マックスは兄、ロナウド王子を頼った。


「こういう訳なんだ。お金を貸してほしい。必ず返すから……」


「マックス、お金は貸せないよ。皇室費は皆の税金でなりたっている。私的なことには使えない。そんなことお前もわかっているだろう……」


「……わかった。もう頼りにしない……」


 マックスは帰り、酒屋に寄ってバーボンを買った。飲むと幾分気持ちが軽くなった。それで飲む量が増え、朝から飲む始末となった。


 ここでは酒であったが人によってはギャンブル、女、麻薬などいくらでも依存の道はあった。その道はいずれも不幸への最短ルートであった。


 マックスは住まいも手放さなければならなくなった。

 住まいはない。ホームレスしかない。



「マックス、遠い空国で暮らしましょう」

 アリアであった。


「なんでも言われた通りにするよ」

 マックスにはマイナス思考しか出来なくなっていた。


「まず、お酒をやめなきゃね。農業もできないわ」


「わかった。やめる」


「倒産したの?」


「した。ブラックリストに載ってもうお金は借りれない」


「お金を借りる必要ないはないじゃない」


「そうだね」


「みんながお金はを借りている訳でもないし、貧乏だけど幸せに暮らしている人もいるわ」


「そうだね」


 マックスは言われるがままにするしかないと思った。そうしないとホームレスになるからだ。そこまでの覚悟はなかった。


「遠い空国に行く。子供たちに会いたい」

 そう言ってから暫く涙が止まらなかった。


 アリアも泣いていた。


 不幸は口を開けていまかいまかと待っている……。






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