04話.[無駄なプライド]

「メリークリスマス、なんてね、はぁ……」


 残念ながら二十一時を過ぎても春生が帰ってきてくれることはなかった、連絡もないからもうそういうことだということで片付けている。

 それでもどうせ買ってきたからにはと、ただでこの日を終えるわけにはいかないからサンタ服は着ながら過ごしていた。

 願望でもなんでもなく春生の人間性的に誘っておいて一緒に過ごせなくなりそうだったら謝りに来るからね。


「うん、無駄なプライドよね」


 でも、せっかく買ったのだからと考えてしまうのはなにも私だけではないと思う。

 という感じで正当化しつつ待っていたら二十二時半に春生が帰宅、私の前で土下座をしているというのが現状だった。


「悪いっ」

「今日中に帰ってきてくれたから別にいわよ? この姿も見てもらえたから不満なんてなにもないわ」


 彼女の一人や二人がいたということだろう、そこを責めるのはなしだ。

 さすがにお腹が減ったから時間とかも考えずに温めて食べていく、で、食べている最中に露骨に言いたいことがあるという顔でいたから聞いてみることにした。


「先輩に無理やり参加させられてさ、ずっと家族と過ごすからと言っても聞いてもらえなくて……」

「先輩って女の人?」

「女の人もいたけど男の先輩ばかりだよ」

「そうなのね、春生も大変ね」


 昔、父も家で過ごすと言っていたのに帰ってこなかったことがあって、後で聞いてみたら無理やり参加させられていた~なんてことがあった。

 まあ、絶対に家族と過ごさなければならないなんてルールはないし、これが本当でも嘘でもどっちでもいい、先程も言ったように今日中に帰ってきてくれただけでそれで十分なのだ。


「あ、春生は食べてきたのよね?」

「あ、ああ」

「じゃあこれは全部独り占め――そ、そんなにがつがつ食べてどうしたの? 別に無理をしなくても……」


 本当に怒っているわけではないから勘違いしないでほしかった。

 二人分というのもあって量がそこまであるわけではないのも私的にはいい、この時間にたくさん食べると贅肉として蓄えてしまうからね。


「これは自分のためでもあるけど俺のために作ってくれたのもあるんだろ? だったら食べるよ、純花が作ってくれたご飯を食べないなんてもったいない」

「無理をしなくていいからね? まあ、私としては食べてもらえて嬉しいけどさ」


 というかそれよりもこの服が似合っているのかどうかを教えてほしいんだけど。

 いやほら、白間はお世辞しか言わないからあまり参考にならないのだ。

 似ている彼なら同じようになる可能性は高いけど、彼からも似合っていると言ってもらえたら私の単純な心は絶対に喜ぶ。


「純花、それのことなんだけど」


 きたっ、さあどうなる!?


「もしかして白間に見せたりとかしていないよな?」

「あ、この前白間に見てもらったわよ?」


 って、そんなことかい、いま気にするところそれなのとツッコミたくなる。


「やっぱりか、純花はもうちょっと気をつけて行動しないとな」

「あ、痛いってこと?」

「違うよ、影響がゼロということはないからさ」


 影響がゼロではないとは……あ、もしかして私のこの程度で白間が変な行動をするとか……。


「はははっ、だから白間には好きな子がいるのよ?」

「でもさ、そういう純花を見たらがばっといってしまうかもしれないだろ?」

「ないない、白間に限ってありえないわよ」


 白間にどうこうではなく、私が単純にあの子に勝てないと考えているだけだった。

 敬語キャラだけど積極的だし、丁寧で頭もいいからそもそも勝負にならない。

 目の前でいちゃいちゃするのだけはやめてほしいけど、まあ、それ以外のことで文句を言えるようなことはあまりなかった。


「お皿を洗ってくるわ」

「俺がやるよ、だから純花は風呂に入ってこい」

「いやいや、どうせ明日から冬休みだから後でいいわ」


 彼は普通に仕事があるからまた暇ねとか退屈ねなどと呟く生活が始まる。

 掃除も常日頃からしているためそれで時間をつぶすことはできない、お金が無限にあるわけではないから買い物で時間をつぶすのもね。

 そういうのもあって、本当に暇で暇で暇死にしそうになったときは白間に付き合ってもらおうと決めた。


「じゃ、じゃあ急いで食べるから――」

「いいって、どうせならゆっくり食べてもらえた方がいいもの」


 なるべくそんなことはない方がいいのは分かっているけど、やはり私にはまだまだおじいちゃんおばあちゃんみたいな生活は合わないのだ。


「え、こんな時間に誰かしら……」

「危ないから待っていろ」


 おお、なんか大人の顔をしていたな。

 で、少ししたら彼が白間を連れて戻ってきた、何故……?


「メリークリスマス」

「いや、あの子と過ごしたんじゃなかったの?」

「過ごしたよ? ただ、ご両親が二十時までしか許可をしてくれなくてね」

「だから来たって? 仮に来るとしても二十時半とかに来なさいよ」


 って、ああ!? は、春生の家に住んでいることがばれてしまったじゃないかと内は大混乱になった。


「これは内緒にしてあげるよ、まさかここまで積極的だとは思わなかったけど」

「いやだから親戚だから、つか、なんならここから通わせてもらっているという……感じなのよね」

「おお、はは、一つ一つ教えてもらえて嬉しいなあ」

「でも、春生に迷惑をかけたくないから他言無用よ」

「当たり前だよ、それに僕は言ったでしょ? 六鹿さんが誰かと楽しくやれているのならそれでいいって」


 仮にそうでも家に来る時間は考えてほしいけど。

 でもまあ、こっちが呼び出さなければならない明日とかよりはまだマシだった。




「おお、いい匂い」

「あ、起きたの、おはよ」


 気にせずにやらなければならないことを終えてから起こそうとしたのに本人が先に来てしまった。

 なんだかつまらない、こういうところも春生によく似ている。


「おはよう、六鹿さんの手料理が食べられるなんて嬉しいなあ」

「はいはい」


 クリスマスに本命と過ごしておきながら別れた後は私とってちょっと贅沢だ。

 僕系のくせに陽キャラみたいな行動力がある、狙っていないでよかったとしか言いようがない、だって彼のことを意識してしまったらもやもやしながら過ごす羽目になるからだ。


「あれ、小牧先生を起こさなくていいの?」

「起きなければならない時間になったらちゃんと自分で起きるわ」


 意地悪をしているからとかではなくこれも私の優しさだった、あともう少し寝られたのにという考えになってしまうと朝から気持ち良く過ごせなくなってしまうから。

 自分自身が邪魔をされたくないというのもある、露骨に変わってくるからそうやって意識して気をつけていた。


「じゃあどうして今日はこんなに作るのが早いの?」

「早く起きたのはいつもの癖よ、で、ご飯を作ったのはあんたがいるからね」

「ありがとう」

「いいから食べなさい」


 こっちも起きているのに食べなかったらもったいないから食べていく。

 寒い朝には温かいお味噌汁を飲むのが一番だ、これを飲んでからではないと元気よく過ごせない――なんて言うのは大袈裟だけど、うん、だけどやはり温かいお味噌汁というのは落ち着かせてくれるものだった。


「優しい味だね、美味しいよ」

「薄くない?」

「うん」


 まあ、ここに住めるようになった際、家事をしなければならないという考えで色々なことを母から教わってやってきたからね。

 ただ、母でも春生でも彼でもないお世辞を言わないようなそんな相手からの意見を求めている自分がいる、全部「美味しい」で片付けられてしまうと逆に不安になってくるのが私だった。


「お、おいおい、待っていてくれてもいいだろ?」

「あら、早いじゃない」

「なんか落ち着かなかったんだ」


 昨日帰ってくる時間が遅かったし、春生はあの時間から私の倍は食べていたからこうなってもおかしくはない。


「いま注ぐから待っていなさい」


 注ぎながら私と春生の子どもが白間? それとも、春生の子どもが私と白間なのかしらと馬鹿みたいなことを考えていた。


「おはよう、よく寝られたか?」

「はい、六鹿さんがちゃんとお布団を出してくれましたからね」


 ……こう言ってはなんだけどシングルファザー感がすごいのも悪い。


「どうぞ」

「ありがとう、いただきます」


 こんなことの繰り返しだけどこれがいいのだ、平和って感じがしていい。

 食べ終えたら洗い物の前に彼と一緒に家を出る。


「え、まだいたかったなあ」

「駄目よ、送るから帰りなさい」

「はーい、相手をしてもらなくなったら嫌だから大人しく帰るよ」


 せっかく自然に早く起きてくれたわけだからふたりきりで春生と話したかった、そのためには帰ってもらうしかないから一緒に出ることで~という狙いがある。

 まあ、ちゃんと言えば分かってくれるだろうけど、ふたりきりで話したいから帰ってなんて恥ずかしいから言えるわけがない。


「ちょっと公園に寄って行かない?」

「え、寒いから嫌」

「まあまあ、ちょっとぐらいいいでしょ?」


 なにかがあるというわけでもないし、春生とは夜に話せばいいか。

 フラグみたいに見えてしまうこれでも特になんてことはないままなにも起きずに終わっていく。


「ここであの子と初めて遊んだんだ」

「え、ゲームセンターとかそういうところに行ったんじゃなくて?」


 って、この言い方的にデートとかではないのだろう。

 こういうところにあの子はもやもやしていそうだ、で、なにも分かっていない彼が「どうしたの?」などと無自覚に聞いていそうだった。


「うん、そのときはお互いにお金がなくてね」

「はは、そうなのね」


 私も四年生ぐらいになるまではお小遣いを貰っていなかったから簡単に想像することができる、でも、お金とかどうでもよくなるぐらいあの頃は楽しかったのだ。

 ただ学校に通うというだけでもそれこそ遊びに出かけられたときみたいにテンションが高くなっていたというか、両親からも「いつも目がきらきらしているね」と言われていた。

 単純でもなんでもいい、早い頃から斜に構えて楽しめないよりはね。


「まあ、あの頃の僕はそんなことより遊べたということにしか意識がいってなかったけどね」

「なるほどね、小さい頃の話か」

「そう、あのときは恋とかどうでもよくて、あの子がいてもあんまり関係がなかったんだよ」


 死にたくはないからこうして成長できているのがいいけど、まあ、昔の方が楽しかったと考えてしまうのは仕方がないことだと片付けてほしい。


「って、どれだけ昔から一緒にいたのよ」

「小学生の頃からです、六鹿さんにはそういう子、いなかった?」

「いないわ、そもそも誰もいないからこそ地元の高校を志望しなかったんだから」

「あ、じゃあ友達がいたらこっちに来てくれてはいなかったということだよね? こっちに来てくれて嬉しいなあ」


 な、なんだこいつは、嬉しいとかよかったとかそういうことばかり言いやがって。

 他はいいのにお世辞マシンでいるところは嫌だ、気になる子にだけそうやって口にして揺らしておけばいい。


「お世辞マシンになるのはやめなさい」

「お世辞じゃないよ、いまだって小牧先生と話したいのに送ってくれて嬉しいよ」

「な、なんでも言い当てるの禁止っ、ほら早く行くわよ」

「分かったよ」


 さっさと送って帰宅、が、ゆっくりしすぎたのかこれからゆっくり話せるような時間はほとんどなかった。

 いやあると言えばあるけど、朝から邪魔をしたくないというのが正直なところで。


「きょ、今日も頑張って」

「おう、頑張るよ」

「あ、私が代わりにしてあげるわ」

「お、そうか? なら頼むわ」


 頑張れ、私は一人で暇死しそうだけどなんとかする。

 そういう気持ちを込めて頭を撫でたら何故か笑われてしまった。

 言い当てるのだけはやめてほしいと願っていたら「これで今日も頑張れそうだ」と言うだけで終わらせてくれた。

 とにかく、こうなったからには洗い物とかをして無理やり時間つぶしをするしかないというのが実際のところだ。

 特に汚くもないけど百パーセント完璧に奇麗というわけでもないから掃いたり拭いたりをしている間に出勤時間がやってきて春生は出て行った。


「まあ、教師じゃなくても平日なら朝からゆっくりお喋りもできないしね」


 学生ではないから普通のこと、色々な部分から目を逸らして普通のことだと片付けておけばいい。


「もしもし?」

「あ、僕だよ僕、実は六鹿さんのお家に忘れ物をしちゃってね」

「なにを忘れたの? 持って行くから教えてちょうだい」

「いや、言葉で説明するより自分で行った方が早いから行くよ、じゃあね!」


 いま送ってきたばかりじゃないと手に持っていたスマホをじっと見つめてしまったのは内緒だ、というか、言う前に切れてしまったからどうしようもなかった。

 結局やることもすぐに終わってそれならばと待っていたときのこと、ぴんぽんとインターホンが鳴って玄関へ。


「へへ、来ちゃった」

「あんたもう私を好きになりなさいよ」

「好きだよ?」


 両思いってやつなら遠慮なく呼び出すことだってできるけど現実はそうではないから甘えすぎるわけにもいかない、というのに……。


「どうせわがままも言えていないだろうから今日はここにいようと思ってね」

「いや、私をわがままを言ってばかりよ?」


 何回も言っているけどわがままを言ってここに住ませてもらっているわけで、この時点で他の子より問題であることは確かなのだ。

 まあ、こっちの高校に通っているから追い出すことは不可能だから~なんて正当化しようとしている私もいるから問題なんだけど。


「ゆっくりお喋りをしたいのにそのまま伝えられずにお掃除とかをしてなんとかしようとしていたのに?」

「ちょ、あんた私のこと分かりすぎでしょ……」

「僕が一人でいるしかないときはそうやって過ごしていたからさ、分かるんだよ」


 彼のことを気にしている子がいるからこうして面倒くさいことになる、いなければもうちょっとぐらい違った結果になっていただろうな。

 むしろこっちの方が彼の優しさに負けて揺れている可能性もあった、振り向かせられるような魅力は多分ないから、うん、そうなっていた可能性大だ。


「このままお家にいてもいいけどどこかに出かけたいな、この前は中途半端なところで別れることになっちゃったからさ」

「あ、じゃあ遭遇する可能性が高そうなところに行きましょ」


 それこそ先程自分が出したみたいにゲームセンターなどがある場所の方がいい。

 映画館も近くにあるし、学生ならすぐに行こうとなるのではないだろうか?


「駄目だよ、そもそも僕があの子と過ごすつもりならここに行かないであの子のお家に行っていると思うけど?」

「だってこれって浮気みたいなものじゃない……」

「違うよ、僕は友達のきみといるだけなんだから」


 で、結局負けて一緒に出てきているのよね……と。

 もうこれは冬休み中に肉食系パワーで頑張ってもらうしかない。

 付き合ったうえで来ているのであればもっと問題だけど、彼女を不安にさせてしまうような発言や行動はしないだろうから。

 そういう力がなければ駄目なのだ、影響を受けやすいとかそういうことではなくこちらがただただ疲れてしまう。


「小牧先――小牧さんとお揃いのマグカップとかどう?」

「マグカップか、あんた達こそどうなの?」

「昔から一緒にいるけどまだこういうのは早いかな」


 私も昔から春生と一緒にいるけどこういうのを受け入れてくれるのかどうかは分からない、会いに行こうと思えば会いに行ける距離感だったからこそ上手くいっていた可能性がある。

 いやまあ、喧嘩をしたりとかは一切ないものの、お世辞ばかり春生が言うようになってしまったのはそういうところからきているのではないだろうか。


「それでどう?」

「春生と出かけるときがあったら今度その話をしてみるわ」

「言えなさそうだなあ……」


 そりゃもちろん言ったりしない。

 適当に躱すためにそれっぽいことを言ってみただけだった。

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