第3話
ドラゴンはあんなトカゲみたいな見た目をしているのにどうやら胎生らしかった。ユージンは大昔に一度だけドラゴンの出産に立ち会ったのを見たことがあるらしいが、それも本当に小さい頃でどうやったとかそういうのは殆ど覚えていないとのこと。
とりあえず近づけないことには仕方ないという事で、今尻尾をぶんぶんと振り回すドラゴンとバトルをしている。
ユージン曰く、「殺す気で行け。お前ごときの攻撃なんて本気でもドラゴンには蚊に刺されたくらいだからよ」とのことだったので、悪いが本気でやっている。言われてめちゃくちゃムカついたが、確かに全くと言っていいほど手応えがない。
しかもこいつ地中にある木の根をある程度操れるらしく、尻尾に気を取られていると地面から根っこが生えてくる。これは中々にしんどい。僕一人では絶対になんとかならない。そろそろ体力も限界で、ユージンの方をチラリと見てみるとユージンは余裕綽々と言った風にヒラリヒラリと尻尾や根っこを交わしていた。時折爪を噛んで悩みながら。
くそっ!僕はもう足がガクガク言いはじめてるのに!
その時僕はうっかり横から飛んできた尻尾に触れてしまった。
軽く触れただけ。怪我すらしていない。けど、僕のバランスを崩すのには十分だった。僕はバランスを崩して落下する。下から伸びてくる木の根。
「マクセル!?」
ユージンが腕を伸ばす。でも無理だ。そんな遠くから伸ばしたところで届くわけがない。
ウオオオオオオオオオ!!!
ドラゴンが咆哮をした。
下から突き上がってきた木の根が止まる。僕は慌てて身を捩って木の根を避けて落下した。
「な、何が?!」
「おい、立てるか?!」
駆け寄ってきたユージンが焦った様子で僕に言う。
「まあ、うん」
「だったらあいつの後ろに回るぞ」
急にぐったりしたドラゴン。ぐったりしているが何処か苦しそうにしている。
僕はユージンに言われるがままにドラゴンの後ろへと回る。ドラゴンの股ぐらに何か小さな頭のようなものが。
「出てくる。引っ張り出すぞ!」
そう言いながらユージンは出てきた頭を引っ張る。頭だけでもかなり大きくて、もちろんびくともしないわけだけど、それでも引っ張ることに意義があるのかないのか。僕らは必死でそれを引っ張り出した。
出てきたのはもちろん、小さなサイズのミニドラゴン。ミニドラゴンをひりだした母ドラゴンがこちらを向く。一瞬敵意のある目をしたが、すぐにミニドラゴンに向き直り体に付着している胎盤やらを食べはじめた。おおむねミニドラゴンの身体を舐め尽くして、それから僕たちを見る。
さっきとは違って優しい瞳。ユージンがドラゴンの頭に触れる。そして、優しくキスをした。
それから僕に向かって、またあの悪戯な笑顔を向ける。
「大丈夫だ。あと二日くらいしたら子供連れて巣に戻るってよ。まあ、それまでここは通行止めだけどな」
「お前、言葉わかんのかよ」
「いや、わかんねえけど、なんとなく」
なんとなくってお前なあ……。
その時僕の横を何かが掠めた。
『ギャン』とドラゴンが小さな悲鳴をあげる。悲鳴を上げた後、僕にもわかる凄まじい殺気があたりに広まった。
「そいつ相当弱ってるだろ!そいつを殺して、お前らを殺したら全部俺らの手柄ってわけだ!」
明るい声で出てきたのは、さっきユージンと喧嘩をした三人の一人。顔はボコボコだが、思いの外打たれ強かったみたいだ。
三人はニヤニヤしながら、ドラゴンに近づいていく。
いや、やめた方がいいぞ。あれだけの殺気、たぶんお前らなんてひとたまりもない。
そう思いながらユージンを見た。そして気づく。
……これ、ドラゴンが発している殺気じゃないな。
ドラゴンは自分よりも凄まじい殺気を放つユージンにオロオロしている。自分よりも怒っている人間を見て、冷静になった様子。
「お前ら、自分が何やったのかわかってんのか?ああ?!」
ユージンが凄む。
流石の三人もユージンにビビっているようで、動きが止まった。
「い、いや……その……」
三人がジリジリと後退りをする。
後退りをする三人に同じスピードで歩み寄るユージン。
緊張の一瞬。
三人に飛びかかったユージン。
まあ、あとはお察しということで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます