第2話

 そいつは思ったよりもわかりやすいところにいた。街道のど真ん中にででんと構える巨体。トカゲのような顔に巨大な羽。背中には少しだけ苔が生えている。少し肋骨が浮いているので、もしかしたら栄養状態が良くないのかもしれない。

 そりゃあんだけ街道のど真ん中に陣を構えられてしまったら、人間としては討伐せざるを得ないよなと思う。ドラゴンはこちらから刺激しないと襲ってこない頭の良いおとなしい種族だとは聞くけど、さすがにそこにいられたのでは刺激しないことがそもそも無理だ。

「おい……あれを狩るのかよ」

「狩るっていうか……」

「なんだよ、怖気づいたのか?」

 僕は少し嫌な言い方をした。いやむしろ本当に怖気づいていてほしい気持ちが強い。たぶん二人で逃げたら僕でなく、チームリーダーのこいつのせいってことになるだろうし。

「様子見」

 怖気づいたわけではなさそう。

「ドラゴンって基本的にあまり人前に出てこない種族なんだ。殆ど人前に出てこないし、出てきたとしても暴れるような個体は少ない。中には暴れたくて暴れてる豪胆なやつもいるけど、基本的に暴れるのには理由があんだよ」

「詳しいな」

「そういう村で育った。どうせお前ドラゴンなんて見たこともないんだろ?だから異様に恐れてる」

 僕は返す言葉もなかった。図星である。

「だからこうやってまず様子を観察するんだ。だいたいの原因を遠くから探って、それを解決してやる。8割くらいは別にドラゴンを傷つけなくても解決する」

 真剣なユージンの横顔にさっき馬鹿だと思ったけど、案外そうでないのかもしれないと思った。僕もとりあえずドラゴンを観察する。観察するとは言っても、ドラゴンの生態も何も全くわからないので意味があるのかないのかと言う感じではあるが。

 ドラゴンをジッと見つめて僕はあることに気がついた。

 ドラゴンの足許からなにやら透明な液体が流れている。怪我をしているのか?それとも、尿漏れ?怪我をして動けないとか?

 僕はユージンの肩を叩く。そして、そのことを告げた。

 ユージンが流れている液体を見る。そして、大きくため息をついた。少し困ったような顔。

「あいつ、産気づいてやがる」

 は?なんて?

「あいつがここに居座りはじめたのっていつだっけ」

「確か一週間くらい前だったはず」

「計算は合うな。あいつらの出産、一週間はかかる」

「は?」

「巣に戻る途中に産気づいて動けなくなってるんだよ。しかも子供を守るために気が立ってる。そりゃ、道行く人間も襲われるわけだ」

「どうするんだよ」

「手伝う。ちゃんと話し合わなきゃたぶんあいつ、ここで子育てを始めるぞ」

「それは困る。ていうか、お前ドラゴンの出産に立ち会ったことがあるのかよ」

「ねえ!でもやらなきゃダメだろ!」

 そう言って、ユージンは突然立ち上がった。ドラゴンがビクリとこちらを見る。そして、威嚇するような瞳。

 ユージンはそんなものを全部無視してドラゴンの方へ駆けていく。もちろん気が立っているドラゴンは、イライラした様子でユージンを尻尾で薙ぎ払った。

 そりゃそうなる。派手に吹っ飛ばされるユージン。一瞬心配したが、どうやら受け身は完璧のようで、ピンピンして立ち上がった。

 それから少し考え込む。

「どうやって、近づくかな……」

 ああ、やっぱり無策で駆け寄ったのか。やっぱりこいつは馬鹿だ。

 僕はそう思って、肩を落とした。

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