千年龍の龍殺し
神澤直子
第1話
この世界には千年龍という奴がいるらしい。千年生きる食物連鎖の頂点に立つドラゴン。全ての冒険者の憧れ。そして、この世界にはその千年龍を殺した男が一人だけいると言う。
まあ、僕には全く関係のない話だけど。
「なーんでそいつらをボコってるんだよ」
僕は目の前にいるこのわけのわからん男に呆れている。
僕がこの男と出会ったのはつい数時間前。ギルドに貼られた貼り紙をジッと見つめるこいつに僕は目を奪われた。長い黒髪を後ろで束ねたこの冒険者風の男の瞳が気になったのだ。青の中に綺麗な緑色の混じる瞳。
マジマジと眺めていると、男は僕に気がついて少しつりあがった目を細めて「なんだよ」と笑った。
それからアレよアレよと僕はその討伐に巻き込まれた。僕は別にそんな大それた討伐を引き受けるつもりなんてなかったのに。
ドラゴンの討伐だった。南の森でドラゴンが暴れている。それを討ち取ると3,000,000バームの賞金が手に入る。
割はいい。割はいいけど今の僕では明らかに力不足だ。
そして、僕は目の前のこいつ--ユージンを眺める。
なんだ?こいつ。めちゃくちゃ楽しそうに人間をボコるな……。
たぶん同じ討伐に向かうだろうと思われる男三人と突如喧嘩を始めたユージン。
関わり合いになりたくなくて、側で座って見ていた。暫くして、ユージンが僕のそばへとやってくる。そしてピースサインをした。
「完勝!」
ユージンの後ろには倒れた三人の男。ユージンは少し口の端を切ったようで、手で軽く拭っている。
「なんで、そいつらと喧嘩すんだよ……」
僕は呆れて言う。
「いや、だってなんか気に食わなかったから。まあ、でも勝ったからいいっしょ」
「いいっしょ、ってお前なあ。これから討伐するのはドラゴンだぞ。そこらへんの低級モンスターとは訳が違う。少しでも仲間は多い方がいいに決まってるだろ」
「まあ、そうなんだけどさあ……」
口を尖らせるユージン。
「あいつらムカついたんだもん」
『だもん』じゃねえよ。なんなんだよ、おまえはよ。自分から討伐に行くって言っておいて、人を巻き込んで、後先見ないのは馬鹿なのか?馬鹿なんだよなあ?
僕はイライラした感情をユージンに読み取られないようにニッコリと笑顔を作ってみせた。
本当はこんな討伐降りたい。降りたいが、ギルドの性質上一度受けた討伐を一度でもキャンセルしたら、次からはロクな仕事が回ってこなくなる。オープンで募集がかかっているものすら対応してもらえないこともザラらしい。
流石にそれを生業としている人間にとっては痛手である。だから殆どの冒険者は身の丈にあった討伐のみを請け負う。もちろん僕もその一人--だったはずなのだが。
まあ、本当に危険だと判断した場合は逃げさせてもらう。命あっての物種だし。
「大丈夫だって、俺様がついてるからな!マクセルは大船に乗ったつもりでいてくれよ。なにせ俺はIQ50,000の男だぜ!わはは!」
ユージンが僕の肩をバシバシと叩いた。悪戯っぽく笑う。
僕は確信した。
《こいつ、馬鹿だ》
この馬鹿についてきてしまったのは、完全に僕の落ち度である。僕はため息をついて、この馬鹿の後ろを歩き始めた。
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