●_025 救国の将の告白 02


此度こたびの戦績はすべてその黒の道化によるものなのです。国へ虚偽の報告をし、我が手柄としました。それが黒の道化との密約だったとはいえ、許されることではありません。そもそもあの男は人ではなかったのではないか、率直に申せばあの黒き姿は妖魔、いや悪魔だったのではと、思っているのです。神や王国を裏切ったつもりはありません。ですが、悪魔の手を取ったのです。いついかなる災いが降りかかるのか。国を危機へと導いたのではと心休まるときはありません」



 告白の場の個室は人ひとりがようやく入れるような狭い部屋になっており、壁に顔が覗ける程度の小さな木製の細かい格子の窓が設けられている。


 マルテンスは暗い個室の中で、格子を隔てた聖女に戦場で出会った黒色の道化について静かに話した。道化の男の、アバターと呼ばれる幻影魔法や、秘密を漏らさぬと約束したこともすべて。


 告白を終えた将軍に聖女が言葉をかける。



「将軍、密約とのことですが、私にお話ししてもよかったので?」



 マルテンスは、悲痛な面持ちで聖女の顔を見上げた。



「ふふ、冗談ですよ、将軍。神への告白は、神以外には知りえませんからご安心を」


「聖女様、私はどうしたら……」



 伏せたマルテンスの顔には苦難にあえぐ深いしわが刻まれている。


 聖女の鈴音の声が狭い個室に優しく響いた。



「御安心なさい。神はいつもあなたの傍らにおわします。考えても見てください。貴方はただ、救われただけではありませんか?」


「救われた? それはどういう?」


「異質な風体だったかもしれません、不可解な言葉だったかもしれません。もはや現実とは思えないことばかりだったかもしれません。ですが裏を返せばそこには神秘しかなかったのではありませんか? 奇蹟の力で窮地を救った。名も明かさず、報酬も礼も欲さず姿を消した。

 神の御使みつかい以外に何がありましょう? 御心みこころを疑うのはおやめなさい」



 マルテンスは言葉を失った。目が大きく開かれる。胸の奥から激しく何かが突き上げてくる。



――私本来の立場であればこの闘争を止める

――両者に属さず第三者的立場から裁定を下す者



 そうであったかと、理屈ではなく心が理解した。不安と疑問が一気に氷解すると、神への感動のみがそこにはあった。

 抑えられぬ心のままに、マルテンスはただひたすらに感謝と賛美を涙とともに神に捧げた。


 赦しの儀礼を終えたマルテンスの手を、聖女が優しく包み込む。



「ところで将軍、帝国との関係も新たな道が開けそうだとか」



「はい。和平を望む者達が努力を重ねているようです。私には無謀にしか思えず手を取れませんでした。今となっては、そこに御神の御意志があったのではと後悔しております」


「いいえ、将軍が勝利に導いたからこその結果でしょう。王国兵、帝国兵ともにこれまでの戦と比べ、死傷者が少ないと聞き及んでいます。此度の和平への道も将軍閣下の功績ではありませんか」


 マルテンスは、聖女に深く頭を下げ、ウィドマン大聖堂を後にした。






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