●_019 黒の道化との邂逅 03
「初めましてマルテンス将軍閣下。ご足労いただくわけにも参りませんでしたので、参上いたしました」
そう言って天幕の入口に現れたのは、あの黒い道化の男だった。道化の男はうやうやしく頭を下げる。気品は感じられないが様にはなっている。
将軍は改めて男の姿を見る。黒髪で荒れた髪、顔は冴えない。貴族ではなさそうだ。しかし男は、その道化のような姿に似合わず堂々と立ち、こちらの言葉を待っているかのように笑みを向け静かに佇んでいる。
「貴様は何者だ。ここが何かわかっているのか」
将軍は問いかけながら、相手に気づかれないよう周囲を確認する。衛兵が来ない、外は完全に制圧されたとみるべきか。声には出さず伝心魔法で傍にいる伝令士官らに指示を出す。
「ええ、こちらにフェラム王国の将軍閣下がいらっしゃるとオッティス殿より伺いまして、お詫びに参上した次第です。デンシンマホウ? でしたか、将軍閣下へ既にご報告なされたと聞き及んでおりますが」
将軍はわずかに眉間を寄せた。伝心魔法による部隊間の情報共有とその運用、それこそマルテンス家が小隊に分けた複数の部隊を円滑に運用できる秘訣中の秘訣。
交渉に出たオッティスの口から聞き知ったか、既にこちらの情報を掴んでいたとみるべきか。それに、オッティスからの最後の報告はつい先ほどだ。位置を考えるとここへ来るのがあまりに早い。それではこれは同じ格好をした別人か? であれば、帝国の特殊部隊とみるべきか。
そこに伝令士官から伝心魔法による報告が届いた。
――外の兵からは返答なし、制圧された可能性大。進行部隊は予定通りに作戦続行中の模様。
その報告に将軍は、かろうじて帝国軍に対する遅滞作戦は可能であろうと目星を付ける。
しかし相手の能力は未知。ここへ単身乗り込んできた相手だ、神罰魔法を考えても分が悪い。各部隊位に指示を出せないままでは、本来の特性である臨機応変が活かせない。状況としては完敗だ。
道化の男も自らの勝利を確信しているはずだ。私が将の地位にいることも知っている。ではなぜ、交渉を持ち掛ける? 降伏の勧告か? ならばなぜ、私個人に持ち掛ける? もしや和平派の人間か?
道化の男が静かにこちらを見ている。これ以上、沈黙を続けるのは心証が悪くなる、そう思い将軍は返事を返した。
「ふむ、部下より、貴殿が神罰魔法の使い手であると報告を受けている。貴殿が交渉を希望しているとも」
なるべく感情が出ないように、それでいて好意的に、将軍は道化の男に言葉を返す。
「シンバツマホウ? ああ、プラズマの……ええ、そうですね。あれはやりすぎました。咄嗟だったもので」
道化の男は少し考えるそぶりを見せて、そう答えた。
将軍は顎鬚に手をやり考える。
咄嗟だった、というのはおかしい。神罰魔法の行使と発動には通常、行使者とは別に人手と手間がかかるものだ。まさか、帝国は神罰魔法の行使短縮に成功したとでもいうのか? すぐにでも神罰魔法の追撃ができるとの脅しかもしれぬ。
「ところでミケラ殿は息災かね」
探りを入れる。
「ミケラ殿? すみません、意味が分かりませんが?」
「これはすまない、私の勘違いのようだ」
男の返答が本当なら、帝国の魔法省がらみでも、和平派の使いでもないということになる。
道化の男が困惑した顔を将軍へ向けながら口を開いた。
「将軍閣下、その勘違いとは――」
「閣下! この男は虚偽を申しております!」
傍で控えていた一人の伝令士官が、道化の言葉を遮る形で声を荒げた。
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