●_017 黒の道化との邂逅 01
今回より第1章終了まで、異世界側の視点からのお話です。
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フェラム王国とラマン帝国の開戦。
武力により国を拡大してきたラマン帝国と、西方諸国と一括りにされる地域の一国でしかないフェラム王国とではあまりに国力が違う。勝てる見込みの少ない戦に王国は、王と国の名誉をかけて臨んでいる。
その先鋒の作戦を任された将軍はカッサリア・マルテンス。王国内乱期の寡兵運用による数々の功績が評価された形だ。マルテンス家は魔法戦略家として広く知られている。
本陣の指揮所である天幕にて、将軍カッサリア・マルテンスは周辺地図を前に渋面をみせていた。ほぼ禿げ上がった頭髪と白い顎鬚は年相応、しかし細身の体躯はがっしりとして身にまとう覇気は彼が現役であることを示している。
そばに控えるのは伝心魔法に長けた6名の魔法師。各部隊への命令を伝えると同時に戦況の報告をうけ情報をまとめる上級伝令士官である。
将軍は自慢の顎髭をなでながら、ふう、と大きく息をつく。甥であるオッティス・マルテンスから上がってきた報告に本陣は今、荒れていた。
第一報は不審者の発見と対処開始の連絡、第二報は恐るべきことに敵兵が神罰魔法を行使し、斥候5名が討たれたとの報告。第三報はその敵兵と接触を試みる、との連絡だった。
将軍は、不審者が写し出された手元の感応紙を見る。
まるで黒の道化だな。
最初に見た印象はそれだ。黒色の裸体にもみえる薄地の衣服、その上に着た丈の短い草色の服。なんとも可笑しな格好だ。その体は民草のような枯れた肢体ではなく、訓練で培った筋肉が見て取れた。だが戦を飯種にする軍人や傭兵のそれではない。剣術が使えると自慢気に話をしてくる中央貴族と同程度だろう。
単身であれば恐るるに足らぬ敵、斥候程度で排除は容易と普通ならば判断を下す。しかしこの敵は侮れない。
カッサリア・マルテンスも考案に携わった火球魔法による殲滅戦術を潜り抜け、神罰魔法さえも行使したという。
神罰魔法は人によって行使されるが神意に背いては効力は生じないとされている。 神罰魔法の発動こそが神の意志の顕れであると考えるものも多い。カッサリア・マルテンスもまた、しばし前に遠方に見た地から天へと上る光の柱が脳裏に焼き付いて離れない者のひとりであった。
「神罰か。潔白な人生を歩んだつもりであったがな。帝国の神なれば、帝国に仇なす敵国の兵も罰の対象というわけか。人の戦にでしゃばる神など信用できぬわ」
そうつぶやいた将軍にひとりの伝令士官が近づいた。
「閣下、第3部隊より伝心あり。例の不審者より伝言があると」
「伝言だと?」
カッサリア・マルテンスは白い顎鬚に手をやり目を細めた。
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