○_016 敵性生物との闘い 04


「ガンギマリの生存戦略モードで元気なのはいいいんだが、試射済みって何だ? さっきのプラズマ砲撃か?」


<先ほどの第四砲塔によるプラズマキャノンの砲撃以前に威力評定は完了していましたが、何か?>


「へー、そうかい」



 俺がやけくそになる必要は皆無だったのかよ。



「なあコハル、試射と気軽に言ってるが、惑星開発協定どころか、新文明原則や未知遭遇原則に反したら、後が怖い。国家AI共を相手取らなきゃいけない可能性がある」


<そのあたりはご心配なく。ハルカゼ航行中、非自然物が確認できない遠洋で試しましたので。環境への影響も規定範囲に収まっています。これまでに示された法令および原則の類を遵守することは私たちAIの当然の行動規範ですから>


「そりゃそつがなくて結構なことで。しかし遠洋……そりゃ地球伝記アースグラフィーでいうところのウミか。それだけ水資源も豊富ってことかよ。ますます入植済みなのが悔やまれる」



 コハルと会話している間にもウマとやらに乗った集団が近づいてきている。



<ご決断を急がれた方がよいと具申いたします。接近中の敵、全起動兵器に対し照準追尾、即時対処可能です。どうぞご命令を。なお、20キロメートルの殲滅予定圏内には、潜在敵性も含め数十万の数がありますがご安心ください。我が攻勢包囲網からは分子マシンすら逃れる術はありません>


「ったく物騒すぎんだろ。頭冷やせコハル。まだ敵とは決まってない」


<すでに先制攻撃を受けていますが?>


「それでもだ。周囲の状況を見るに、不運な遭遇戦だろう。第一印象を与えるチャンスは一度きり、先の戦闘を正式な出会いとはしたくない。別命あるまで戦闘行為の一切を禁ずる」


<相手に攻撃の機会を与えた場合、未知の攻撃手段により対処できない可能性があります。現時点での勝利条件は宿主の安全確保、あなたの保全は最優先事項です>


「勝利条件? 勝ちも負けもないだろう。俺は仲裁官であって戦争屋じゃない。対話による相互理解が俺の手段だ。武力の示威と行使をはき違えるな」


<しかしどうみても敵はあなたの殺害を目的としています。看過することはできません>


「即時、武装を解除しろ。これは命令だ。そして相手は敵じゃない」



 コハルが沈黙する。


 兵士を乗せたウマという生き物の足音が近づいてくる。しかし、彼らに手を出せば、なし崩し的に戦闘に突入してしまう。そしてその結末は明らかだ。

 H2Aエイチツーエー直接命令コマンドの使用もやむなしか、と思ったところにコハルの声が頭に響いた。



<あーもう! ビリーのクッソ固いクソ脳ミソは捕食型AIグールでも食いませんよ! まったく。はいはい、臨戦状態を解きますよー、敵性マーカーも解除しましたーっ! 死んだってビリーの体は放置ですよ放置。脳核捨ててコハルだけ複製核バックアップコア使ってハルカゼ艦体のメインフレームに退避しますからね>


「ああ、それでいい」


<ちょっと本気なんですよコハルは! コハルがいなくなってもいいんですか!>


「なんだ引き留めて欲しいのか?」


<はあ?! コハルの宿主として自覚も理解もなさすぎです! もう死んじゃえこのクソ宿主!>


 こいつは役にも立たないポンコツで口まで悪い。だが、こいつはこれくらいがちょうどいい。


 ウマで接近していた兵士たちは、俺から10メートルの位置あたりで立ち止まった。全部で10機。彼らはいかにも重たそうな金属光沢を放つ防護服を身につけている。

 彼らの表情はというと鬼気迫る勢いでウマとやらも荒ぶっている。今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だ。



<第一印象が何でしたっけ? 初頭効果を期待するなんて、いまさら感が半端ないですねー。まあ、プラズマ砲ぶっ放して? 先兵を転がして? ここからどう好印象にもっていくのかワクワクデスネー。ぷくく!>


「うるせえな」



 俺も不安でいっぱいだ。


 ウマ搭乗の兵士たちとの気まずい睨めっこは、並んでいたのうちの一機が少し前に出てきたことですぐに終わった。ウマの上の兵士が叫ぶ。



「※※※※※※※! ※※※※※※※※※! ※※※※※※※※!!」



 聞いたことのない言語だった。これで、少なくとも”新文明原則”に従わざるを得ないことが確定だ。



<言語ライブラリに該当なし。思った以上に言語体系が複雑なんでしょうか。あれあれ? 相互理解がビリーの手段でしたっけ? ぷくく!>



 それ見たことかと、コハルがしたり顔で言ってくる。お前に顔はないけどな!  てか、こんな時に支援サポート入れるのがお前の本業だろうがよ! ポンコツ極まってんじゃねぇよ!


 はあ。さてこの局面、どう乗り切るか。新文明原則では、独自文明の汚染回避が最優先される。在来の知生体に対して無接触、無干渉が大原則。


 いやいや、もう、がっつり絡みまくってんですが?

 もう詰んでんじゃね、これ。




――――――――――――――――――

脚注っぽいの

H2Aエイチツーエー:Human to AI 


次回より第1章完結まで序章と同じく異世界側視点でのお話です。

序章の雰囲気が好みの方はお楽しみに。



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