○_009 転移(時空置換)前 01


「コハル。意識覚醒の前後の監視システムビリーモニタリング記録ログは出せるか?」


<もちのローン! めんたんぴん! と言いたいところですが容量オーバーで記録ログ皮質ここに置いてないんですよね。ハルカゼに確認してみます。こういう時ばかりは大容量の記憶媒体が欲しくなりますね。ビリーの頭が足りません>


「おい、俺の知能をディスってる感じになってんぞ」


<まあまあ。ハルカゼの返信を待ちましょう?>



 俺たちがどうやって今の状況に至ったのか。


 今いるのは人類が未発見だった居住可能惑星ハピタブルの上だ。誰の手によるもので、何が目的なのか、まるで見当がつかない。だが、今の状況に至った過程を知ることは簡単だ。


 俺の活動を常時モニターし記録する、”仲裁官監視システムビリーモニタリング”。その記録を使えば難なくやれるだろう。



<ビリー、ハルカゼから返信ありました。まだ相対座標の連結はできませんが、情報パイプラインの確立完了。監視システムの記録閲覧はいつでもOKです。視点はどうします? ビリー主観? 第三者視点?>


「俺自身、記憶が混乱している可能性が高い。アニーにプロポーズしたのが思い出せる最後の記憶だ。その後の記憶が一切ない。主観で整理しながら思い出したい」


<了解、では主観にて準備します。ごゆっくりお楽しみくださいませませー>


「嫌な予感しかねえけどな。システムに意識が向いている間、俺の体の保全を宜しく」


<かしこまり♪ 身体のことはご安心を。ぐへへッ>


「だーっ、もう、不安しかねえな、こんちくしょう! 俺の神経からだで遊ぶなよ?」

 


 そうして目の前の風景が暗転し、ぼんやりと視界が明るくなっていく。監視システムから読みだされた記録情報が五感へと染み込んでくる。目の前に現れたのは、シンプルなボタンが並ぶ空間投影された操艦用のコンソールパネル。


 そういえば、大規模な戦闘の後、思うところがあって艦体調整中だった補給艦のコユキに改良を施した記憶がある。これはハピタブルに来るどれくらい前の視点だろうか。



<コハル視点で、ハピタブルを認知したのが今から552秒前です。今の視点は、そこからさらに600秒ほど遡った映像になります。超次元空間ハイパースペースドッグで作業しているところですね>



 俺の視覚野をモニターしているコハルが答えた。


 600秒前? おかしくないか? と考え始めたところで、記録の中の自分が口を開く。意識が記録に引っ張られ、思考がそちらへ寄っていく。





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