○_008 居住可能惑星《ハピタブル》 05


「だぁーっ! なんじゃぁこりゃぁああああ!」



 まず、皮膚が痛い。恒星からの光が、熱いというよりヒリヒリとした痛みが体表を襲う。スキンコート越しに気化爆弾エアロボムを食らった時でさえこんな感覚はなかった。


 次に視覚。見えている風景に変わりはないが、まぶしい、という感覚を閃光弾以外で初めて感じた。恒星を興味本位で見てはいけない。


 そして、嗅覚。鼻の奥をプラスチックパテで埋めつくしたい。思わず吐気を催す不快な臭い、船内の有機リサイクル設備の臭いを倍増させたようなものにも感じられるが不快感は桁違いだ。本能的な忌避すら感じる。


 極めつけは、ザワザワ、ガサガサと耳の奥で響き続ける不調和な雑音。これはもう気が狂うしかない。


 自分の手から意識を手放しそうになった瞬間、すっと体が楽になった。



<ビリー、勝手ながらフィルター、オンにしときました>


「おう、助かった。……スキンコート、通常モードで展開開始」



 手足を見回して身体に異常がないことを恐る恐る確認する。以前、フィルターを切ったことがあるが、記憶は曖昧だ。こんな風ではなかったように記憶しているが。



「いい経験にはなったが、酷い思い出に自動分類ソートされそうだ。この感覚、母星再現派アース・リビルダーの奴らが知ったらどんな顔するのかね」


<環境的にはこちらの方がいいんじゃないですか? 宇宙船内の方が不快ヒマだなーと、感覚を共有するしかできないPAIピーエーアイながらコハルは思うのですけれど。常にストレスフリーに調整されているニンゲンにとって、この環境刺激は過剰どくかもですね。コハルにとっては、これこそ好ましい刺激なのですが>


「なんだ、つまらん皮肉かよ」


<皮肉じゃなく憐憫とでもいいますか。コハルのような超優秀な有人格AIをPAIに使うだなんて変人はビリーくらいでしょうけど、一般PAIも同じように感じてるみたいですよ>


「そうなのか?」


<肉体の健全な発育には環境からの刺激が不可欠ですからね。刺激はそのままに、宿主ニンゲンのクオリアは平穏に。そうするよう教育プログラムされてはいますけど、私たちの感じている情動、酸いも甘いも、PAIの数分の一しか感じられないなんて可哀そう、って言ってました>


「言ってた? 誰が? いつ?」


<アニーのPAIが、こないだビリーが殴られてたときに>


「やなこと思い出させんなよ……PAIって意外とおしゃべりなんだな、こっちが大変だったってのによ」


 ん? アニーの積んでるPAIは無人格じゃなかったか?


<AI同士のA2Aエーツーエー対話通信はペタバイトの会話がピコ秒ですからねピコ秒、処理効率は人間とはレベチなんですよレベチ>


「へいへい。んで、処理効率優秀なPAI様よ、これからどうしたらいいと思いますかね?」


<そうですね、まず座ってのんびりしましょー? 最近忙しかったですし。それにビリー、根本的なことに気づかないほどテンパってるじゃないですか>


「俺がテンパってる? 何の話だ」


<そもそも私たちは何故ここに? いやそれよりも。どうやってここに来たのでしょう?>




――――――――――――――――――

脚注っぽいの

A2A:AI to AI 


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