○_006 居住可能惑星《ハピタブル》 03


<ビリーの身体器官経由での観測結果からは、これは現実もしくは限りなく現実に近いシミュレーションホログラムと推測します。少なくともお安い収監用ホログラムである可能性は皆無ですね>


「現実なわけあるかよ。植物に覆われた惑星がどこにあるんだ。けど念には念をだ。コハル、一時的に感覚神経の共有解除。神経細胞ニューロンの伝達速度を計測して過去データと照合してくれ。ホロなら脳内での認知が先導的になるはずだ」


<えー、神経共有オフるの嫌ですよう。見えないし聞こえない。感覚が消えるの、ぼっちっぽくてコハルは嫌いなんですよ?>


「知るか、そもそもお前は俺の大脳皮質あたまにいるんだ。一人ってことはないだろ?」


<しくしく、ぴえん。神経の共有解除しまーす……。えーん、くらいよ、こわいよ、せまいよー>


「狭いってなんだよ」


<ビリーの心が狭いんです>


「うるせえ、さっさとやりやがれ!」



 はあ、全くこの口の減らないポンコツめ。さっさと仕事しろってんだ。


 まずはホロの投影サーバーに臨検接続、強制終了、それから物理的にサーバーの接収だ。


 やること山済みで嫌になるな、こんちくしょう!


 物理サーバーが光学観測距離圏にあるといいんだが。



<ふう、神経伝達速度測定完了でーす。感覚共有を再開しまーす。あはーっ! やっぱり体があるっていいですね!>


「おいコラ。俺の身体と感覚だ、さっさと結果を言えっての」



<ほんと、せっかちだなー。そんなんじゃAIにもてませんよ? さて、視覚、聴覚、触覚、臭覚、その他もろもろ、過去データとの相違はプラス10パーセント以下ですね。全体的に神経伝達速度が遅めなのは気になりますが、身体疲労を考慮すると許容範囲かと。これは現実である可能性が濃厚……というかそれ以外にありえません>


「冗談やめろ。じゃ、ホロの投影サーバー、全帯域送信ブロードキャストして探せ。これだけ体感分解能が高けりゃ高性能AI、下手すりゃ惑星プラネット級かもな。臨検アクセス時、自閉防衛カウンターダウンに気をつけろ」


<ですから、これは現実ですってば。サーバーなんてないですって>



 その言葉に、目の前の景色を再認識する。青い空と緑の草原。



「いやいや、息が吸えて植物の生えた惑星があるわけないだろ。それともここは地球ジ・アースってか? はは、それじゃ俺様、地球ジ・アースを見つけた英雄様だ。そうじゃなくてもこんな直ぐにも居住可能な環境だ、利権だけで末代まで豪遊できる」



 そんな冗談交じりの俺の話にコハルが弾んだ声で返事を返す。



<まあ地球ではないようですが、居住可能惑星ハピタブルなのは間違いなさそうですね。いやはや私も歴史に名を刻むことになろうとは。ビリーなんかと一緒にいてもう宿主ガチャ失敗、人生オワタ! とばかりに枕を濡らしていましたが、いやー、宝くじって当たるもんなんですね!>


「誰が宝くじだ。つか、ガチャ失敗ってなんだよ」


<ちなみに大気成分や重力は地球に類似していますが僅かに差異がみられます。とりあえずサイズは地平線の曲率や遠方の大気屈折から鑑みるに地球とけっこう近そうですねー。 埋蔵水量、構成元素については、ハルカゼちゃんからのレポート待ち! 今後のお楽しみってことで!>


「……おまえ本気で言ってんの?」


<地球オタクの私が言ってんですよ? データ自分で読んでみます?>


「……解析データ、可読形式リーダブルコードで俺に回してくれ」



 結論から言えば、コハルが提示してきたデータは、これが現実世界であること、そして人間が生身で長期生存可能な居住可能惑星ハピタブルであることを示していた。



 母星ジ・アースを見失い千年を過ぎたと言わている現在、人類は幾千もの宇宙船で船団を組み、恒星間を航行し続けている。


 確かに気に入った惑星や星系が見つかればそこに居つく船団もあった。惑星改造を続けている者たちもいる。しかし所詮は少数派マイノリティだ。


 防護服不要で居住可能な惑星は現存しないというのが宇宙航行船団の一般認識になっている。


 そんな中、人類が求めてやまなかったハピタブルが目の前にある、いや、ハピタブルに立っている。そんな自分が、データを確認した今でも信じられない。



「わかった、ひとまずこれが現実ってことはOKだ。本当に改造済みの惑星じゃないのか? どこかが秘密裏にやってる可能性も否定できないだろ? 学理学会アカディームの奴らなんか特に」 


<少なくとも通信機器に引っ掛かるような通信やノイズはでてこないですね。この惑星には少なくともニンゲンは関与してなんじゃないかなー、って思いますよ? ここまでやって完全放棄するってこともないでしょうし、モニターくらいはするでしょう?>



「確かにな。てことはだ」



 俺は一拍おいて、そして。右手を高く突き上げ! 感情を爆発させた!





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