僕と彼女の別れる理由【短編】

鷺島 馨

僕と彼女の別れる理由【短編】

僕には三年間付き合っている彼女がいる。

僕たちは交際を始めて幾つかの約束をした。


ありきたりな

・隠し事をしない。

・連絡はちゃんとする。

・思ったことはちゃんと話し合い不満を溜め込まない

なんていうものから、

・浮気をするなら別れる

というものまである。


そうして今、僕は彼女にこう切り出す。

「僕たち別れよう」


驚愕の表情が崩れ涙をこぼし始める彼女。


僕は見てしまったんだ。彼女のSNSのトークを。

見るつもりがあって見たのではない。無造作に彼女が置いていたところに通知音が鳴り、視線がそこに行ったのだ。


トークの内容は端的に言うと付き合いが最も盛り上がり肉体関係を持った男女が求め合っている。そういった内容のものであった。

それを目にした僕の心から彼女への想いは亡くなった。

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僕、柏木かしわぎ そう(22歳)と彼女、藍住あいずみ 茉莉まつり(21歳)の交際は、茉莉の告白から始まった。


僕は別にモテる訳でも無く、他人の評価としては『優しい人なんだけど……』そう、『だけど』とついてしまう何とも中途半端な評価だ。

蔑まれる訳でも無く、友達がいない訳でもない、どこにでもいる様な人間。


それに対して、茉莉は絶世のとか言う事は言わないが、客観的に見ても清楚美人といった女性だった。


年齢から分かるように僕たちは大学に入ってから交際を始めた。

去年までの彼女は本当に清楚美人だった。そう、過去形だ。

今の彼女は鮮やかな髪色にアクセサリーも増え、服装も露出の多いものに変わってしまった。


彼女が変わり始めた頃に一度、『僕は清楚な感じの君が好き、そんな風に変わらないで欲しい』と言った事がある。

そう、お互いが思った事を話し合うと決めていたから。何か理由があって変わろうとしているのならそう言って欲しかった。

でも、彼女の返事は『そう』その一言だった。


今にして思えばこの頃から彼女は浮気をしていたのだろう。

今思えば、浮気相手の好む姿へと自身を変えていっていたのだと思う。

彼女の変貌から僕たちのは成立しなくなっていた。

僕が何を言ってもそっけない反応しか返ってこない。

プレゼントを渡しても以前のように満面の笑顔で喜ぶ事は無くなった。

彼女の希望で行っていたひと月ごとの記念日は『もう、しなくていいかな』の一言でしなくなった。

それから二年、僕は彼女が好きだったからこそ、我慢をして付き合ってきた。

そう、我慢をしなくて良いようにと言っていたのに我慢をしていたのだ。


その関係も今日で終わる。

僕の心から彼女はいなくなった。


彼女に告げる。

「僕たち別れよう」

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私には大好きな彼氏がいる。

柏木 奏くん。彼は何処か頼りなげなんだけど、困った人がいると自然と助けられる人。


入学してすぐ、通学途中で困っているお年寄りがいて、周りの人達は素通りをして行く。私も手を差し伸べたいとは思っていても行動には移れなかった。

そんな時に彼が手を差し伸べた。その行為を誇る事なく。


その時から彼の事が気になり始めた。

学部が同じという事に神様へ感謝した。

彼と話し、彼を知って行くうちに恋したんだと思う。

そこからは何度、断られても諦めずに告白を続けた。

そんな関係を半年程続けた頃に私の告白を受け入れてくれた。

嬉しかったし、それからの日々は楽しかった。

色々と約束も決めてお互いの事を想って付き合っていこうと決意した。


ある時、パジャマパーティをした。

『もっとオシャレをした方が彼氏が喜ぶよ』というアドバイスをされた。

私よりも美人な友達。

彼女が言うならそうかも。

私は少しづつお洒落をする事にした。

髪色を少し明るくし、服装もカチッとしたものからな感じのものへ変えてみた。でも、彼からの反応はあまり良くない。

『僕は清楚な感じの君が好き、そんな風に変わらないで欲しい』と言われた。私の努力は報われなかったのだ。

ショックで『そう』としか返せなかった。


女友達にその話をしたら『もっと思い切ってイメチェンしよう』と言われた。

私は彼女の言うようにイメチェンをした。

『いつも一緒にいるのが当たり前になってるから、そんなふうに言われるんだよ。少し距離を置いたら良いんじゃない』と言われたから、毎月の記念日もやめて、距離を置くようになった。


以前は、彼女たちと食事に行く時も彼に連絡していた。でも、距離を置くようになってからは入れてない。


その頃から他の男の子からも声をかけられるようになった。

私が頑張ってイメチェンした容姿も服装も褒めてくれる。

彼といる時よりも彼女たちといる方が楽しくなっていた。

男女でご飯を食べに行くことも増えて、あの日、私は取り返しのつかない事をした。


私はまだお酒を飲める年齢にはなっていない。その日、始めて飲酒をした。

後から聞いた話では『酔った私は隣にいた男の子にしなだれかかり甘えていた』そうだ。

そして気がつけば知らない部屋で全裸で男の子とベットにいた。

奏に捧げようと想っていた私の大切なものを失った。

衝撃で何も考えられなくなっていた私にその男の子は何度も何度も挿入し、私の中に欲望を吐き出した。


彼に対して後ろめたい気持ちはありながら、『これは事故だから。あの男の子の事を好きになってない。私が好きなのは奏だけだから』と自分に言い聞かせていた。

それでも私の女の部分はあの男の子に惹かれていて、誘われると断れずに関係を続けていった。

次第に、容姿や服装も、奏が好きと言っていたものから離れていっているのは自覚していた。でも彼がこっちが良いと言うから……


今日は彼に予定があるから奏のところに来ている。

彼女彼氏といるのはおかしな事じゃない。でも、奏と身体を重ねても満足できなくなっている。身体は彼じゃないと満足できない。でも心は奏がいい。

奏はベットで横たわっている。私はまだ余裕がある。彼と体を重ねることで得た余裕、汗と体液を流しにバスルームに行く。


さっぱりとしてバスルームを出た私に奏が告げてきた。

「僕たち別れよう」

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彼の言葉が理解できなかった。

驚き、涙が溢れた。


「なんで、どうして、別れないといけないの。

今も身体を重ねていたじゃないの(満足はできなかったけど)

どうして、そんな事を言うの。私は奏の事が好きなのに!」


「理由は言わなくても分かるだろ」

奏は私のスマホを指差す。


彼とのトークルームが開いている。

私はバスルームに行く前に彼とトークをしていて、そのままにしていたらしい。


「でも、それは、奏が悪いんだよ。私がお洒落しても…褒めてくれないから……」

そこまで言った時に彼の言葉を思い出した。

『僕は清楚な感じの君が好き、そんな風に変わらないで欲しい』

奏は変わらないでくれと言っていた。


「僕のせいなの?」

「そうだよ。あの時も、奏が迎えに来てくれてたら」

「いつ?」

私はあの日、奏に何処に行くかを言ってなかった。

黙り込み、答えられない。


「もういいだろ、茉莉は、他の男が好きになったから、僕から離れていったんだ」

「ち、違う!私は奏が好き!今でもそれは変わらない!」

精一杯の思いを込めて叫ぶ。


「なら、どうして浮気をしたの?」

感情のない声で奏に問いかけられる。

「浮気なんてしてない。私の気持ちはずっと奏だけ!」

「身体を許しているのに、浮気じゃない?」

理解のできないものを見る、冷ややかな視線を浴びせられる。

「それでも奏が好きなの……」

「茉莉と約束したよね。浮気をしたら別れるって、僕の両親が離婚した理由も知ってるよね」

「それは……」

奏の両親の離婚した理由、お母さんの不貞が原因と聞いている。私は同じ事をして奏を傷つけた…

私はあの日の事をきちんと話したら良かったんだろうか……


「もう、いいよね。僕たちは別れたんだから。これからは声をかけないでくれ!」

奏からの強い拒否の言葉。

「いや、いや、私を捨てないで……お願い、奏……私を捨てないで……」


私を置いて奏が部屋を出ていく。

私は彼を追いかけたい。でも、追いかける事ができない。

彼とずっと一緒にいられるように約束していたのに、約束を破ったのは私。



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ただ、男女の恋が終わるだけの話です。

浮気からの復縁とかヤンデレ化して彼氏に迫るとか、そうならない別れを綴ってみました。


冒頭の『彼女への想いはくなった』は意図的にやってます。

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