4月4日

 「はぁ,,,はぁ,,,」


 あれから、一体どれくらいの時間がたっただろうか。目隠しをされた状態で、幾度となくお守りを突き刺された。きっと、これ以上の苦痛はないと思えるほどの痛みは、慣れることなどなく、僕の心を着実にへし折りつつあった。


 「ふふっ,,,春休みが終わるまでには解放してあげますから、それまでの辛抱ですよ」


 「うっ,,,もう、やめて、くれ,,,」


 「駄目ですよ。兄さんが綺麗になるまで、ひいてはあの女に二度と近づかないと約束するまで、終わりませんからね? さぁ、言ってください。もう、一上壱菜に金輪際関わらないと」


 「こと,,,わる」


 「もう! 強情なんですから」


 壱菜は、僕を確かに救ってくれた。肉体的にも、精神的にも僕は彼女のおかげで救われた。それに、僕は彼女と約束した、壱菜から逃げないと。僕が追い込まれたからと言って、その約束を破ることなど、あってはならないことだ。


 「これ以上やっても、兄さんは首を縦に振らなそうですね,,,」


 「分かった、なら,,,拘束を外して、くれ」


 「そんなに、壱菜さんのことが大切ですか? 私よりも?」


 「どっちが大切とか,,,そういう話じゃない,,,世話になったから、それを返す。当たり前の、ことでしょ」


 僕は、壱菜のおかげで慶花に向き合おうと思えた。逃げてばかりで、価値なんてないと思っていた僕を肯定してくれて、認めてくれた。きっと、壱菜も誰かに認めて欲しかったのだ。だから、彼女が化物にどれほど近かろうと、僕は逃げない。それは、慶花に対しても同じだ。


 「僕は、壱菜から,,,もちろん、慶花からも,,,もう、逃げない,,,」


 「へぇ,,,兄さんが、そんなこと言うなんてね,,,でも、その気持ちは私だけのもの。兄さんは、私だけを見ていればいいんだよ,,,」


 僕の眼を隠していたものが取り払われ、蛍光灯の光が目を焼く。僕の前には、微笑みながらもその眼に大きな闇を宿した、慶花がいた。彼女は、懐からスマホを取り出すと、何かを操作し始めた。その間に周りを見渡すと、そこは倉庫のような場所だった。どうやってこんな場所を用意したのか、疑問だがそんなことは今、どうでも良いことだ。


 「連絡がない,,,もしかして、何かあった,,,? いや、ここがばれることは無いから、それよりも,,,」


 先ほどとは打って変わって、怪訝そうな顔を浮かべる慶花。僕の今の状態は、両腕を後ろ手にガムテープのようなもので拘束され、両足も縄で縛られている。立ち上がることもできず、慶花を見上げることしかできない。これ以上、お守りで治療という名の拷問も受けたくないのだ。一刻も早く、ここから脱出しなければ。


 「兄さん? もしかして、ここから逃げようなんて考えてない? さっきの私から逃げないって言うのは嘘なの?」


 「この拘束を解いて、対等に話ができるなら逃げないよ。お守りを腹にぶっ刺されて、冷静に話し合いなんて、出来っこないでしょ」


 「それで? 私と向き合ったら、今度は壱菜さんのところに行くの?」


 「それは,,,」


 「冷静じゃないのは兄さんの方だよ? あんな化物と関わって、何があったのか知らないけど兄さんまでこんなものが効くようになっちゃって,,,だから、私が目を覚まさせてあげる」


 差し出されたスマホには、一枚の写真が表示されていた。僕はそれを見たのを、酷く後悔した。映っていたのは、全身に黒いものを撃ち込まれた壱菜の写真だったからだ。思わず、胃の中を吐き出してしまう。


 「吐瀉物で溺れてないで、ちゃんと見て。こいつ、こんな状態になっても生きてるんだよ?」


 「おぇ,,,っ」


 「でもでも! 今こいつは山奥で埋められてるから、二度と日の目を浴びることは無いよ。兄さんを誑かした罰だ、永遠に苦しめばいいんだよ」


 目を背けようと、今の僕には抵抗などできない。血だまりに浮かぶ壱菜を嫌でも認識させられる。先ほどまでの責め苦より、こっちの方が何倍もつらいかった。僕のせいで、壱菜がこんな目にあってしまった。しかも、これをやったのは慶花なのだろう。その事実もまた、辛すぎる。


 「これで分かった? 兄さんは、私だけを見ていればいいの。もう、どこにも行っちゃやだよ?」


 「あ,,,あぁ,,,」


 「えへぇ,,,兄さんの魂、すっごい綺麗だよぉ,,,もっとたくさん、悔やんで絶望して苦しんで、そのたびに兄さんの魂はどんどん汚れていく,,,もうたまんない!」


 ダメ押しのように、僕の体に何度もお守りを突き立てる。そのたびに激痛が走るが、もうそんなことはどうでもいい。完璧に心をへし折られた僕は、もう慶花に対する反抗心など無くなっていた。


 「ふ,,,ふふっ,,,もう、拘束は要らないね。今すぐ取ってあげる」


 やっぱり、僕は慶花の付属品なのだ。僕の価値などそれくらいしか無く、慶花も周りもそれを望んでいる。だから、それでいいじゃないか。拘束を解いてもどこにも行かない僕を見て、慶花は満足そうに笑った。


 「最初から、こうしておけばよかったね。兄さんはずっとずーっと私のもとで、私のためだけにあるんだから,,,どんなことがあろうと、逃がさないよ?」


 いつものように抱き着いてきて、耳元でそんなことささやく。始めから前提が間違っていた。僕は、慶花から逃げたつもりだったが、本当は逃げられてなどいなかった。僕が妹だと思っていた存在は、太古から存在する知識と経験を引き継いだものなのだ。そんなものに、太刀打ちできるわけがない。


 絶望していると、初期設定の着信音が鳴り響く。慶花が持つスマホから鳴るその音を、どこか他人事に聞いていると慶花が不機嫌そうにその電話を取った。


 「終わったらメールで送れと言いましたよね? そんなこともできな」


 「あはっ! こんにちはぁー!」


 大音量で流れたその声は、どこかで聞いたことのある声だった。だが、僕が知っているそれはこんな声色ではない。もっと、小さくて途切れ途切れなものなのだ。


 「慶花ちゃん? 私がぁ、この程度で死ぬとでも?」


 「ッチ,,,やっぱり低能は低能ですね。肉塊一つすらまともに処理できないなんて」


 「次はあなたの番だよ! 必ず見つけ出して殺してあげるから、お楽しみに!」


 「そうですか、どうぞご自由に」


 「あともう一つ! 慶斗いる? いるよね! 慶花ちゃん殺したらぁ、次は君の番だからね! ありのままの私を見せてあげるから、絶対ぜーったい逃げないでね!」


 ハイテンションなその声は、僕を指名して電話を切った。おそらく、その身を殺人衝動に落としているのだろう。普段の彼女からは考えられない声量と狂気だった。壱菜は、慶花からあんな目に合わされても、諦めていない。


 「兄さん? どうして私をそんな目で見るの? 早く一緒に逃げよ?」


 僕は、壱菜との約束がまだ果たせていない。なのに、少し痛めつけられただけで心折れそうになっていた。壱菜が傷つけられたことを理由に、慶花に立ち向かうことを諦めようとしていた。慶花が僕をいじめて楽しんでいたからなんだ、そんなことは逃げていい理由にならないはずだ。


 「そっか,,,兄さんは私のことが嫌いになっちゃったんでしょ?」


 「違う,,,僕は責任を取らなきゃいけない」


 「それは間違いだよ、兄さんが見るべきなのは私だけ。あんな化物に構わず、私だけを見てよ!」


 一瞬のうちに、慶花の懐からナイフが飛び出す。片手を出して防ぐと、突き刺さったそこから血が飛び出る。もう、この程度の痛みでは痛いとも思えない。後ろに下がって、そのまま引き抜いた。まだ、諦められない。


 「どうして、魂の色が元に戻り始めてるの,,,?」


 「覚悟が決まったからだよ。僕は、慶花も壱菜も死なせない」


 きっと、壱菜はここを探し当てるだろう。どうしてそう思うのかは分からないが、そうなるだろうという確信がある。すると、慶花と壱菜はどちらかが死ぬまで殺し合いを続けるはずだ。壱菜は慶花を殺すまで、慶花は今度こそ壱菜を殺しきるまでそれは終わらない。


 だから、僕がすべきことは一つだけ。慶花を倒して、壱菜も止める、それだけだ。


 「魔払いじゃ、兄さんの魂を屈服させられないってことか,,,でしたら、遠慮なく行かせていただきます。その魂を、私色に染めてあげます!」


 魔払いを片手に、こちらに突撃する慶花。万が一にも、慶花を傷つけることなどあってはならない。だから、手に持ったままのこれは使わないし、使う必要もない。僕は慶花のことを受け止めた、当然のごとく腹にお守りが突き立てられた。


 「がぁぁぁっ!」


 「服の上からなら効かないとでも?」


 「いや、想定内!」


 相変わらずの激痛だが、多少はマシな気がする。慶花を傷つけられない以上、僕が慶花を無力化するには絞め技しかない。化物になってから多少は筋力も上がっているし、なにより慶花は女の子だ。いくら僕が平均だとはいえ、慶花よりはある。柔道の授業で習った寝技もどきで、慶花を組み伏せようという考えだ。僕は、ナイフを投げ捨てそのまま慶花をホールドした。


 「兄さん? 抱きしめてくれるのはありがたいですけど、少し苦しいです。もう少し緩めてください」


 「悪いけど、このまま二人を会わせるわけにはいかないんだ、大人しくしてくれ」


 「はぁ,,,全く、折角兄さんが諦めかけてたのに、あの女のせいで台無しです。今度は、兄さんの前ですりつぶすことにしましょう」


 「そんなことさせっ」


 不意に、右手の感覚がなくなった。正確には本当に右手が無くなっていた、慶花の手にいつの間にか握られていた、赤く染まったナイフによって。


 「っっうううう!!!!」


 「血に濡れてる兄さんもいいですね,,,いっそのこと、足も手も全部落としてどこにも行かないようにするのもありです」


 「な、なにを,,,」


 「私が何の対策もせずにいるとでも? ナイフからヘアピンまで、一通りのものは加工できるようにしてあるんです。ほら、腕くっつけてあげますから早く続きしましょう,,,これって断面に押し付ければいいんですか?」


 落ちた手を拾って、ぐいぐいと傷口に押し付けてくる。なんとか食いしばったが、腕を飛ばされるのは流石に痛い。楽しそうに僕の腕がくっつくのを見ている慶花に、僕は話しかけた。


 「頼む,,,壱菜には手を出さないでくれ。そしたら、僕は慶花からもう逃げない,,,」


 「まず、前提条件が違うんですよ。兄さんは私のものです、そこは理解していますか?」


 「そうだ,,,僕は慶花のものだ。だったら、壱菜を殺す理由は無いはずでしょ,,,」


 「殺す理由なんて必要ないです。ただ、私の兄さんを汚した罰と、後は,,,兄さんの前で壱菜さんを殺せば、兄さんの魂がもっと綺麗になると思うので」


 邪悪な笑みを浮かべながら、立てかけてあったものを手に取る慶花。ギラギラと輝くそれは、本物と思われる日本刀だった。慶花の力は、こんなものまで作れるのか。


 「随分と物騒だね,,,!」


 「兄さんのためです。化物の血を全部出し切れば、兄さんも元に戻るかもしれないですし」


 腕が完全にくっついて痛みが引く。腕がついて本当に良かった、これでまだあがくことができる。慶花は僕で明らかに遊んでいた。わざと隙を見せて、僕がどうするのかを見て楽しんでいるのだ。ならば、それを利用しない手はない。


 「殺しはしませんから安心してください。ただ、死ぬほど痛いとは思いますので、降参するなら今の内ですよ?」


 「痛いのはもう慣れたよ!」


 背を向けて全力で走り出す。僕は武器も何も持っていない。なので、先ほど慶花が僕を刺してきたお守りを取りに行ったのだが、乾いた音が鳴って僕の足は止まった。いや、止まらされたと言った方が正しいだろう、僕の右足は何かに貫かれてバランスを失っていた。


 振り返ると、とんでもないものを持った慶花がいた。小さくコンパクトだが、明らかにあれは日本では禁止されている武器,,,ハンドガンだった。


 「知識さえあればこんなものも作れます。銃本体から弾まで全部お手製ですよ、しっかり受け取ってください」


 「流石にそれはズルいって!」


 足を引きずりながらお守りまでたどり着く。だが、このお守りは化物専用で慶花には効かない。せめて防御用に使えないかと拾いにいったが、果たして役に立つだろうか。片手に日本刀、もう片方に黒い小さな凶器を持った慶花は、笑いながら僕を追い詰めてきている。


 「ネットは便利ですね。調べればこんなものの仕組みまで分かってしまうのですから。おかげで随分携帯しやすいものを作れました」


 「がっ、くそ!」


 無傷の左足も撃たれる。折角右足が治ったというのに、ずりずりと足を引きずりながら後退するしかできない。こんな無抵抗な状態では、あの日本刀でめった刺しにされるだけだ。何とか、打開策を考えなくては。


 「逃げないでくださいよ、早くこの手で兄さんを切り刻みたいんです。私無しじゃ生きられないようにしてあげますから、こっちに来てください」


 「お断りだって!」


 片方の足が治っても、もう片方の足を打ち抜かれる。何もできないまま、壁際まで追い込まれてしまった。慶花は嬉しそうに、僕の喉元に刃を刺しこんだ。


 「苦しそうな兄さんも、痛がってる兄さんも全部全部大好きです。その姿を、声を私だけが独占するんです、あの女には何もあげません」


 「ぐ,,,がぁ,,,」


 ゆっくりと刃が降ろされていく。途中引っかかっても、そのまま断ち切られるか刺しなおされて、また刃が体を捌いていく。どれだけ血が飛び出ようと、中身がぐちゃぐちゃになろうと慶花はその手を止めない。むしろ、苦悶の表情を浮かべる僕を見て喜んでいた。僕は、そんな慶花に対抗して声だけは抑えていたのだが、それも彼女を喜ばせるだけだった。


 ザクッ、ザクッ、グチャッという音だけが鳴る中、慶花は楽しそうに僕を切り刻んでいる。すでに声をあげることもままならない状態になっても、僕は彼女の解体を受け続けた。こういう時、無駄に痛みに慣れてしまったばかりに、気を失うことすらできない。たとえ気を失えそうでも、お守りを傷口に押し付けられて強制的に戻されるだけだ。


 そうして、どれだけ時間がたっただろうか。僕は物理的に動けない状態になっていた。


 「うふふっ、兄さんダルマの完成ですね。腕や足はそれをくっつけるか、他の代替品を用意するしか治せないようなので、これで兄さんはもう動けません。意外と、化物も悪くないかもです」


 両手両足が無くなっても、僕はまだ生きていた。ほとんど死んでいるようなものだが、それでもまだ意識を失わず、慶花の方を睨みつけていた。その視線を受け止めながら、慶花は僕の頭を愛おしそうに撫で始めた。


 「うめき声も悪くありませんが、そろそろ兄さんの声を聞きたいです。今の気分は、どうですか?」


 「,,,最悪の気分だよ。動けないし、切られたところはずっと痛いし、屈辱的だよ」


 「兄さんが私だけを見てくれたら、こんなことする必要もないのです。だから,,,そろそろ分かったよね?」


 耳元でこれまでと同じく囁かれる。悪魔の囁きというのは、こういうものなのだろう。もう、僕には慶花に反抗する力も手段もない。そんな中で、僕に対する愛を垂れ流しつ続ける。本当に、慶花は強かで、意地が悪い。


 「駄目だよ,,,僕は、壱菜にも幸せになってほしいんだ」


 「っ! これだけしても、兄さんはあんな化物を庇うんだ,,,じゃあ、いいよ」


 今までの余裕のある笑みから一転、慶花はその顔を怒りに染め何かを準備し始めた。


 「今から、一上壱菜を殺してくる。そうすれば、兄さんは私だけを見てくれるよね?」


 「辞めろ,,,僕たちは死なない。そんなこといくらやっても無駄だって,,,」


 「死なないなら、ずっと殺し続けるか死んだも同然にするまでだよ。ちょうど、魔払いもここにあるし、化物を壊すくらいわけないんだよ」


 慶花は日本刀の血を払って鉄の塊を握りこむと、たちまち刃が元通りになっていく。黒い何かを制服の下に着て、腰や足にもベルトで様々なものが固定されていて、まるで特殊部隊のようだ。


 「これで十分。あの女は再生能力としぶとさ以外は大したことないし、すぐに引きずって連れてきてあげるから、楽しみにしててね?」


 「待て,,,! 慶花頼む、話を聞いてくれ!」


 芋虫のように這うことしかできない僕は、ただ慶花の後ろ姿を見ることしかできなかった。


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 「くふっ,,,アハハ! こんなものなのぉ?」


 バグったように笑いながら、私は目の前の障害物を抹殺します。こいつらは、私を楽しませることはありません。前の不足不足言っていたやつは多少、張り合いがありましたがこいつらは点でダメです。決まった動きに、知性を感じさせない攻撃、けれどこいつらの近くに、きっと慶花ちゃんはいます。それだけで、このゴミたちにも存在意義はあるのでしょう。


 私の気を鎮められるのは、もはや単なる殺人じゃないです。こんな、血も出ない人間もどきじゃもう我慢できません。血がドバっと出て、苦しそうな声をあげる、そんな人間です。ですが、人間を殺してしまったら、もう私は元に戻れません、本当の意味で化物になってしまいます。


 けど、いいですよね? 慶斗はそんな私を見ても、逃げないって約束してくれたましたよね? だから、私は化物になります。最初に殺すのは、もちろん慶花ちゃんです。慶花ちゃんさえいなければ、慶斗をきっと、私だけのものにすることができます。


 もし、慶花ちゃんを殺したとして、それを慶斗が軽蔑したらどうしましょう,,,まぁ、その時は彼も殺してしまえばいいです。彼を殺して、その血や肉を体に取り入れれば、どんなに幸せでしょう。私の頭の中は、すっかりお花畑になっていました。


 「くふふっ,,,」


 「随分と、楽しそうですね?」


 気が付くと、私の目の前には慶花ちゃんがいました。周りをよく見ると、化物ばかりがいる倉庫のような場所に来ていました。いつの間に、目的地にたどり着いたいたようですね。彼の匂いを辿ってきた甲斐があるというものです。


 「み~つけた! 慶花ちゃん,,,会いたかったよ!」


 「はい、私もです。やはり無能たちに任せたのは失敗でしたが、一刻も早く兄さんを私で上書きしたかったので、しょうがないですよね。ですが今度こそ、貴方のこと殺してあげます」


 「えへへ! 私も、慶花ちゃんのこと殺してあげたくてね! 私の初めての人間殺し、受け取って!」


 「さっきから慶花ちゃん慶花ちゃんって、馴れ馴れしいんですよ!」


 時刻は4月4日、午後8時過ぎ。化物達と擬き、人間という組み合わせの中、たった一人の男のため凄惨な殺し合いが始まったのだった。

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